41.イエロースライム
「キアリー! 頼まれてたブツ、なんとか生け捕りにしてきたぞ……!」
「フォッフォッフォ……いやあ、泥まみれになりながら探した甲斐があったのう」
10日間の探索クエストから戻ってきたアーサーとマックが、泥と汗にまみれた姿でキアリーの作業場へとやってきた。
アーサーが抱えているのは、厳重に魔法の封印が施された頑丈なガラス容器だ。
その中に収まっていたのは――ぷるぷるとして鮮やかな黄色を放つ【イエロースライム】だった!
「これですよ、これ!! ありがとうございます、お二人とも!!」
キアリーは目を輝かせ、吸い寄せられるようにガラス容器へ駆け寄った。
オークの奥さんが持つ固有スキル『ダンジョンクリエイター』。
任意の魔物を召喚できる夢のようなスキルだが、そこには「奥さん自身が実際に見たことのあるモンスターしか生成できない」という致命的な制限が存在したのだ。
奥さんがこれまでに出会ったスライムがグリーンとブルーの2種類だけだったため、農場にはその2種しか生息していなかったのである。
「しかしキアリー、黄色いスライムなんて探してどうするんだ? イエローって言ったら、だいたい麻痺毒とか酸の性質を持ってる危険種だぞ?」
首をかしげるアーサーに、キアリーはニヤリと自信満々の笑みを浮かべた。
「ふふふ、アーサーさん。スライムの真価は『日光で直干しにした時にどんな効果と味が生まれるか』なんです! グリーンは『最強の整腸剤』になり、ブルーは『ミノ姐たちの至高の熟成フード』になった……なら、このイエローには一体どんな可能性が眠っていると思いますか!?」
「……お、おお。すっかり顔つきが研究者兼経営者のそれだな……」
アーサーが圧倒されて後退る。
「まずは、このイエロースライムをオークの奥さんに見てもらって『ダンジョンクリエイター』の図鑑に登録してもらいます! そうすれば農場でいくらでも量産できるようになりますからね!」
奥さんにしっかり図鑑登録してもらい、さっそく10匹に増やしてもらったイエロースライム。
キアリーは手始めに1匹の核を破壊し、手慣れた手つきで『トラップバスター』をかざした。
発動条件:食べる
効果:全身が麻痺する
解除方法:天日で干す
「よし……! やっぱり太陽の光で干せば無毒化できる!」
解毒法さえ分かればこちらのものだ。
キアリーは手際よく3匹を地上プラントの天日干しラインへ回し、残りの6匹はさらなる実験のため、別のアクリルケースで巨大化させてみることにした。
問題は「無毒化した後にどんな味や効能が出るか」だ。
『トラップバスター』はあくまで危険を察知するスキルであるため、毒が消えたあとの「おいしさ」や「用途」までは判定してくれない。
そこで、天日干しが完了するまでの時間を利用して、キアリーはギルドの資料室や街の図書館でイエロースライムに関する古い文献を調べることにした。
……が、ギルドのカウンターを通った瞬間、受付のエレンにあっさりと声をかけられた。
「あ、キアリーさん。イエロースライムのこと調べてるんですか? それなら文献探さなくても知ってますよ」
「えっ!? 本当ですか、エレンさん!」
エレンは書類をトントンと整理しながら、事もなげに言いのけた。
「うん。他国の大喰らいの冒険者手記にありましたよ。干したイエロースライムって、削ってパスタに振りかけるとチーズみたいに濃厚で最高に美味しいんですって。あと、薄くスライスしてお酒のおつまみにすると絶品らしくて……要するに高級な『珍味』ですね」
「珍味……!! パスタに、おつまみ……!」
キアリーの脳内で、新しいビジネスの閃きが弾けた。
グリーン(整腸剤)、ブルー(極上ミルク&肉用フード)に続き、イエローはそのまま人間向けの上質な「高級食材・グルメ珍味」として市場に出せるのだ!
「すごい……! ありがとうございますエレンさん、助かりました!」
キアリーが大喜びで作業場へ戻ろうとした、その時。
スッ……と、エレンがカウンターから乗り出し、キアリーの手首を優しく、しかし絶対に逃がさない力強さで掴んだ。
「……キアリーさん?」
「ひっ……は、はい!?」
エレンは、満面の、これ以上ないほど輝かしい笑顔を浮かべていた。しかし、その瞳の奥は一切笑っていない。
「有用な情報を教えて差し上げたのですから……もちろん、完成したら食べさせてもらえるんですよね? ……あの時食べ損ねた、ミノタウロスの極上ステーキ肉と一緒に。ね?」
「ヒィィィッ!! も、もちろんです! 一番に持ってきます! ミノ姐さんの熟成チーズも添えてお持ちしますからーーーっ!!」
「ふふ、良いお返事です♪ 楽しみに待ってますね」
パッと手が離され、キアリーは脱兎のごとくギルドを飛び出した。
恐るべき高級珍味『干しイエロースライム』。
その完成と引き換えに、キアリーはエレンへの「至高のディナー献上」という絶対の約束を果たさなければならなくなったのだった……!




