39.大逆転
「キアリー、本当に悪かった……! まさかお前が全財産を投げ打ってまでうちの牛たちのために尽くしてくれてたなんて知らなくてな……!」
オークのご主人は、膝から崩れ落ちて真っ白になっているキアリーの手を強く握りしめた。
というのも、キアリーが命がけ(主に破産の危機)の末に編み出した『幼体直干しブルスラ(完璧版)』を日常的に食べ始めたミノ姐たちの身に、恐ろしいほどの好影響が現れ始めたからだ。
毛艶はまるでシルクのように輝き出し、何よりミルクの生産量・濃度・甘みがこれまでの倍以上に跳ね上がったのだ。
「お前のおかげで、うちの牧場の売上は倍増どころの騒ぎじゃない。だから、今後はこの『直干しブルスラ』を、うちで全量買い取らせてくれ!」
さらにご主人は、申し訳なさそうに特別な条件を付け加えた。
「それと……これはほんの気持ちだ。毎月、ミノタウロスの希少部位の肉を2キロ分、キアリーに無償で提供することを約束する!」
「え……キ、シャトーブリアンとかミスジとかが……毎月2キロ……!?」
真っ白になっていたキアリーの瞳に、一瞬で生気が戻ってきた。
しかし、奇跡はこれだけでは終わらなかった。
「……ねえキアリー、これって『グリーンスライム』でも同じことができるんじゃないかしら?」
ステラの何気ない一言から、試しに第1階層のグリーンスライムの幼体を同じように地上の直射日光で直干しにしてみたところ――出来上がったのは、超濃厚な薬効成分を凝縮した『至高のグリーン乾物』だった。
これをギルドへ持ち込んだところ、調査結果に薬剤師たちが狂喜乱舞した。
「な、なんだこの濃縮された有効成分はーっ!! これまでのどんな薬草よりも胃腸の負担を和らげ、どんな頑固な便秘や食あたりも一瞬で治す『最強の整腸剤』ができるぞ!!」
噂は一瞬で地上を駆け巡り、ギルドや大手製薬会社から「その干しスライムを売ってくれ!」と買い取り依頼が殺到。
全財産を失う原因となったあの「無駄にデカい20メートルのアクリルケース」は、ケースを横に倒して敷き詰めることで、効率最高のスライム日光浴・大規模天日干しプラントへと鮮やかに姿を変えたのだった。
「キアリーちゃん、すごいじゃない! 破産どころか、一気に街一番のスライム実業家よ!」
エレンが目をドルマークにしながら祝福(と、ちゃっかり整腸剤の試供品をおねだり)してくる。
「ふふ……これで毎月、美味しい希少部位のお肉が食べられて、全財産も元通り以上の黒字です!」
「よかったじゃねえか、キアリー。……まあ、あんなにブツブツ呟いてた時はどうなることかと思ったけどな」
アーサーが苦笑しながら、キアリーの頭をくしゃくしゃと撫でた。
職人の狂気から始まった「干しスライム騒動」は、ミノ姐たちの歓喜、オーク一家との絆、そして地上の医療に革新をもたらすという、誰も予想しなかった最高の大ハッピーエンドを迎えたのだった!




