4.テルアライ
「キアリーちゃん、大お手柄じゃないのぉ! この街に来てくれて本当にありがとうねぇぇ!」
「ごふっ……!?」
事件が解決した直後、感極まったアーサーが猛烈なハグでキアリーを抱きつぶした。プレートアーマーの硬さと、鍛え上げられた戦士の怪力がキアリーの全身を容赦なく締め上げる。完全に気絶寸前だ。
「ちょっとアーサーさん!キアリーさんは戦闘能力皆無なんですから本当に死んじゃいます、やめてあげて!」
エレンの鋭い悲鳴混じりの制止が入り、ようやくハグが解かれる。
拘束から解放されたキアリーは、そのまま糸の切れた人形のように道へと崩れ落ち、酸素を求めて激しく喘いだ。
「はぁ、はぁ……。あ、ありがとうございます……。でも、ボクみたいな余所者の言うことを信じて、すぐさま行動してくれた皆さんのほうが、ずっとすごいです……」
地面に四つん這いになりながらも、健気に感謝を述べるキアリー。
すると、アーサーが「ああ、それはね?」と、隣でほっとしているエレンを指差した。
「私にはね、『テルアライ』っていう、相手の嘘を見抜く固有スキルがあるんです。ほら、冒険者って見栄っ張りな方が多くて、自分の力量に見合わない高難度の依頼を受けようとするでしょ? だから、受付でこのスキルがめっちゃ役に立つんですよー」
エレンはいたずらっぽく笑って胸を張った。
なるほど、とキアリーは立ち上がりながら深く感心した。キアリーが白粉の危険性を訴えた時、エレンが一切の疑いを持たずに受け入れたのは、彼女のスキルがキアリーの「100%の真実と誠意」を感知していたからだったのだ。
「へぇ、すごいスキルですね……」
「ふふん、でしょ? ――じゃあ、ちょっとテストね。キアリーさん」
エレンはにっこりと小悪魔的な笑みを浮かべると、キアリーの顔を覗き込んできた。
「私のこと、かわいいと思います?」
「あ、はい」
あまりにストレートな質問に、キアリーは深く考えず、見たままの感想を正直に答えてしまった。
「あらやだキアリーさんってば、お上手なんだから! ほんっとうに正直者ね!」
エレンは顔を真っ赤にして喜びながら、「ばしん!」とキアリーの背中を思い切り叩いた。もちろん彼女に悪気はないのだが、一般人以下の戦闘能力しか持たないキアリーにとっては致命傷に近い。
「ごふっ……ごぼ、ごほっ……!」
内臓が飛び出るかと思うほどの衝撃に、キアリーは再び激しくむせ返る。
その様子を面白そうに眺めていた老魔道士のマックが、ふと顎の髭をなでながら、アーサーの顔を見上げた。
「……アーサーや。来週のダンジョンアタックに、キアリー君も連れて行けないかのう? 彼のあの目があれば、ずいぶんと安全になりそうじゃが」
「あら、それナイスアイデアね!」
アーサーの目がキラリと輝く。
彼はむせ返っているキアリーの元へ容赦なく歩み寄ると、その両手をガシッと力強く握りしめた。
「決まりよ! キアリーちゃん、来週、アタシたちと一緒にダンジョンに行きましょ!」
「えっ……!? いや、ボクは戦闘能力が……」
「大丈夫、アタシがちゃーんと守ってあげるから! 拒否権はナシよ!」
有無を言わさぬお姉様のウインクと、がっちり固定された両手。
キアリーは引きつった笑顔を浮かべながら、「ダンジョンかあ……」と心の中で呟きを漏らすのだった。




