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固有スキル『トラップバスター』と新しい街で暮らし始めた僕の話  作者: けろ
キアリーと固有スキル

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3.アナライズスキャン

「エレンさん、これを買った化粧品屋を教えてください。できれば、衛兵の方も一緒に来てくれると助かります」

キアリーの冗談めいた様子のない、あまりに真剣な表情。エレンはその迫力に気圧され、思わず「は、はい……」とたじろいでしまった。

ギルドの受付という公の場で、大評判の品を「毒だ」と言い切る青年。ただ事ではない雰囲気が周囲に伝わり始めたそのとき、背後からカチャリと金属の擦れる音が響いた。

「エレンちゃん、どうしたの?何かトラブル?」

よく手入れされたプレートアーマーを纏い、腰に一振りのロングソードを携えた細身の男性冒険者が、二人の間に割り込んできた。整った顔立ちに、どこか余裕のある笑みを浮かべている。

「アーサーさん!実は……」

エレンは縋るように、事の顛末を説明した。キアリーという新人が登録に来たこと、彼のスキルが罠を探知すること、そして、自分が塗っている白粉が体に重い障害をもたらす危険な「罠」だと指摘されたこと――。

「……なるほど、それは聞き捨てならない話ね」

アーサーは顎に手を当て、キアリーをじっと見つめた。その瞳には、新人の言葉を頭ごなしに否定しない、確かな理知の光がある。

「もしそれが本当なら、エレンちゃんだけでなく街中の女性が大ピンチよ。衛兵を呼ぶにはまだ証拠が足りないわ……よし、私が一緒に付いて行ってあげるよ。あとは――おい、マック!」

アーサーがちょうどギルドの入り口を通りかかった、深いローブを纏った魔道士風の老人に声をかける。手にした杖と鋭い眼光が、ただの老人ではないことを物語っていた。

「なんだいアーサー、騒々しいねぇ。ワシはこれからお茶の時間なんじゃが……」

「まぁそう言わずに、ちょっとあんたの知恵を貸してちょうだい」

アーサーの言葉に、マックと呼ばれた老魔道士は「ほう?」と興味深そうに白い髭を揺らした。

こうして、応急処置として顔を洗い流したエレンの案内のもと、キアリー、アーサー、マックの4人はギルドを後にした。

活気ある市場を抜け、少し一本入った通りにある、お洒落な装飾が施された一軒の店――そこが目的の化粧品屋だった。

化粧品屋へと向かう道中、二人の大先輩はキアリーに優しく自己紹介をしてくれた。

「アタシはアーサー・ベルモンド。これでも一応、剣の腕には自信があるのよ。よろしくね、キアリーちゃん」

「ワシはマクドガル・ディクソンじゃ。まぁ、みんなからはマックと呼ばれておるよ。若きトラップバスター君、よろしくな」

頼もしい先輩たちに囲まれ、キアリーは少し緊張をほぐしながら、目的の化粧品屋の扉を押し開けた。

店内は甘い香水と華やかな装飾に満ち、買い物を楽しむ女性客たちで賑わっている。キアリーは一歩足を踏み入ると同時に、意識を研ぎ澄ませて『トラップバスター』を発動した。

(……あった!)

キアリーの視線が、レジに向かう。

そこでは、今まさに上品な婦人がお会計を済ませようとしていた。彼女が嬉しそうに手に持っている小箱から、ドス黒い「罠のアラート」が激しく明滅している。あのエレンの顔に塗られていたものと全く同じ白粉だ。

「ちょっとごめんなさいね、お姉さま。お買い物中、失礼するわよ?」

キアリーの視線に気づいたアーサーが、風のような素早さで婦人の前に滑り込んだ。驚く婦人の手から、流れるような所作で白粉の箱を奪い取る。

「な、何かしらあなた達!?無礼な!」

「これで間違いないわね?」

アーサーは婦人をなだめつつ、手元の商品をキアリーに見せた。キアリーは真剣な顔で深く頷く。

「はい。間違いありません」

「な、なんだなんだ!うちの店で何の騒ぎだ!」

ただ事ではない雰囲気に、店の奥から恰幅のいい男――店主が顔を真っ赤にして飛び出してきた。

「マック、出番よ!」

アーサーの鋭い声に、老魔道士が前へ出る。マックは手にした杖の先を白粉の箱へと向け、低く、しかし力強い声で唱えた。

「――『アナライズスキャン』!」

杖の先から放たれた青白い光の魔力が、箱を優しく包み込む。数秒の後、マックの前に魔力で編まれた半透明の文字盤が浮かび上がった。そこには、詳細な成分分析の結果がびっしりと並んでいる。

「ふむ……キアリー君の話から想像はできていたが、まさにビンゴじゃな。……見よ、これじゃ」

マックが指さした文字盤の最上部。そこには赤く強調された文字で、はっきりとこう刻まれていた。

――『Mercury(水銀)』。

「店主!!」

アーサーが文字通り地を這うような低い声で、店主を激しく問い詰めた。その美貌に怒りの炎がメラメラと燃え盛る。

「この白粉にはねぇ、水銀が含まれているわ!これが重篤な障害を引き起こす毒物だってこと、この店を営むあんたが知らないわけないわよねえ!?」

「す、水銀ぃぃ!?そんなもんが入ってるだなんて、俺は知らなかったんだ!本当に知らなかったんだよ!」

店主は顔を真っ青にし、ガタガタと震えながら首を激しく横に振った。

「言い訳は無用よ!誰か、外にいる衛兵を呼んできてちょうだい!」

アーサーの凛とした声が店内に響き渡り、野次馬が集まる中、すぐに駆けつけた衛兵たちによって店主は両脇を抱えられた。

店主の言い分通り、彼はただ「劇的な美白効果がある」と言って売り込みに来た怪しい商人に騙されたに過ぎなかった。しかし、商品を吟味する立場でありながら、十分な成分鑑定もせずに街の人々に毒物を売りさばいていた罪と責任は、あまりにも重い。

店主はそのまま牢屋へと連行され、店内にあった山積みの白粉は、被害の拡大を防ぐために衛兵たちの手で即座に回収、すべて破棄されることとなった。

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