36.新たなチャレンジへ
キアリーはブルースライムの生態が気になり、
文献などから調べてみることした。
以下はキアリーのメモからの抜粋。
1. 【起源と繁殖力】
発生: 奥さんの固有スキル『ダンジョンクリエイター』によって、ミノタウロスの主食(飼料)として生成された。
繁殖力: 極めて旺盛。スキルで意図的に補充せずとも勝手に繁殖・増殖するため、ミノタウロスの餌が尽きる心配はない。
習性: 活発で脱走癖があり、牛舎の柵を抜け出して他のフロアへ徘徊することが多い。
2. 【成長と毒性】
毒素の生成: 小型(幼体)の時は無害だが、成長(巨大化)するにつれて体内に強力な毒素を生成するようになる。
感染力: 成長個体が放つ毒は感染力が非常に強く、周囲の壁、床、宝箱、他のモンスターにまで波及する。第2階層が「毒のフロア」と化していた原因はこれ。
毒の半減期: 生成された毒素は永続的なものではなく、「本体が絶たれれば数日で自然消滅・無効化する」という性質を持つ。
※実際に巨大個体を粉砕・討伐した後、第2階層の宝箱やモンスターから毒の反応は完全に消え去った。
3. 【加工・利用価値】
基本調理法: 【解毒】と【天日干し】を施すことで、毒素が完全に分解され、安全かつ保存の利く干物となる。
味と品質: 大きくなった個体ほど、干物にした際の旨味とコクが格別になる。雌ミノタウロスたちが特に品質の良い干しブルースライムを欲していて、実際、ミルクの質も向上する。
4. 【今後の産業的展望】
安全な巨大化栽培: 毒の漏れ出しを防ぐ「密閉型育成箱」を開発し、意図的にスライムを巨大化させる。
地上での天日干し事業: 収穫した巨大スライムを地上へ持ち出し、太陽光で一気に干物化。
期待される効果: ミノタウロスの飼料品質、ひいては流通される肉や乳製品が街の特産品となる可能性。
そして、キアリーの『究極の干しブルースライム作り』がスタートした。
第2階層を完全に塞いでいた超巨大スライム(フロアボス級)まで育ててしまうと、討伐時の暴走や解体作業が手に負えなくなってしまう。
そう考えたキアリーは、安全面を第一に考慮した「ブルースライム効率育成実験」を開始した。
ターゲットの目標サイズは、前の半分の大きさ――「高さおよそ5メートル」。
半分とはいえ、二階建ての家並みの巨体なのだが、あの絶望的な大きさを経験したキアリーにとっては「扱いやすいサイズ」に感じられてしまうのが恐ろしいところだ。
雄のミノタウロスたちが普段おやつのように食べている10センチほどの小ぶりなブルースライムを1体確保し、街の職人さんに作ってもらった頑丈なアクリルケースの中へと投入。あとは経過を観察する。
1日目:
ケースの中でぷにぷにと愛らしく揺れている。
2日目:
早くも倍以上の大きさに膨らみ、ケースの底を覆い尽くす。
4日目:
急激な成長期を迎え、ケースの中でメリメリと音を立て始める。
6日目:
高さ5メートル級にまで膨れ上がり、アクリルケースの内壁にみっちりと押し付けられてギチギチ状態になった。
「よし……実験通り、これ以上大きくなるとアクリルが破裂するね」
キアリーは安全な隙間から長い槍を突きたて、スライムの中心にある「核」を的確に一突きで破壊!
プシューッと音を立てて崩れ落ち、バラバラの青いゼリー状になった破片を回収すると、そのまま日光の当たる場所でじっくりと3日間天日干しにした。
完成したのは、美しい青色の干しスライム。
キアリーは手応えを感じつつ、完成品を携えて牛舎へと向かった。
「ミノ姐さんたち、新しい干物ができましたよー!」
「んもぉぉぉ~?」
ソファーでくつろいでいた雌ミノタウロスたちが、キアリーの姿を見つけるなり瞳を輝かせて歩み寄ってくる。さっそく出来立ての干物を差し出すと、パクリと口に含んでモグモグと咀嚼し始めた。
しかし――。
「んも~……?」
咀嚼を終えたミノ姐さんは、どこか首を傾げ、物足りなさそうな顔でキアリーを見下ろした。
オークのご主人が苦笑いしながら通訳してくれる。
「ああ……『前のやつに比べたら旨味とコクが物足りないわねぇ』だそうだ。やっぱり、ギリギリまで巨大化させて熟成させたスライムじゃないと、あの極上の味にはならないらしいな」
「うーん、やっぱり妥協して小さめで収穫すると味が落ちちゃうんだ……」
キアリーが頭を抱えていると、ミノ姐さんがトロンとした目つきでキアリーの顔を覗き込んできた。
「『でもね、キアリーちゃんが作ってくれたってだけでお母さん満足なんだけどぉ~……足りない分の満足感は、搾乳してくれれば帳消しにしてあげるわん』……だとよ」
「え、あ、通訳ありがとうございますってえぇえぇ!??」
通訳を聞き終わるか終わらないかのうちに、キアリーの両サイドから2頭のミノ姐さんが『んもぉぉん♡』と熱い吐息を漏らしながら身体をぴったりと擦り寄せてきた。
甘いミルクと石鹸の香りに包まれ、豊満な肉体に挟まれたキアリーは、逃げ場を失って完全に身動きが取れなくなる。
「ぴ、ぴゃああああっ! お、オークさん、搾乳機! 早く搾乳機を持ってきてくださいーーっ!!」
結局、味の妥協は許されず、キアリーは汗だくになりながらミノ姐さんたちの搾乳作業に追われることになるのだった。




