35.大ウソつき
ギルドの静かな事務室が一転、修羅場と化した。
「なんで私も呼んでくれなかったんですか!!」
激しい剣幕で怒りを爆発させているのは、ギルドの受付嬢エレンだ。デスクをバンと叩き、キアリーとアーサーの2人にずいっと顔を近づけて詰め寄る。
「ミノタウロス肉のステーキなんて、私のお給料じゃ滅多に食べられないんですよ! それを……パーティーメンバーだけで独占するなんてズルいです!!」
「ひ、ひえぇ……っ」
キアリーは思わず一歩後退り、アーサーの背中に隠れようとする。
あの至高の味わい、口の中でとろける甘い脂、そしてミノ姐(雌ミノタウロスの俗称)たちの極上チーズ……確かにエレンを置いてけぼりにして自分たちだけで腹いっぱい堪能してしまったのは紛れもない事実だ。
しかし、ここで素直に認めれば「今すぐどこかで奢れ」という流れになりかねない。窮地に立たされたアーサーは、引きつった笑みを浮かべながら必死の口裏合わせを試みた。
「あ、いや……エレンちゃん、落ち着いてくれよ! ミノタウロス……別に言うほど美味しくなんてなかったわよねえ、キアリー?」
「そ、そうですよ! 肉もすっごく硬いし……! 顎が痛くなっちゃうくらいで、全然大したことなかったんですってば!」
引きつった笑顔で必死に演技をする二人。
しかし、エレンの表情はピクリとも動かない。それどころか、氷のように冷たいジト目で二人を静かに見下ろした。
「……ふーん」
エレンは腕を組み、冷ややかな声を潜ませる。
「私に、固有スキル『テルアライ』があるのをお忘れですか?」
「「……あ」」
一瞬で凍りつく二人。
そうだ、エレンには言葉の真偽を完璧に見抜く『テルアライ』という恐ろしいスキルがあったのだ。
『すっごく硬くて全然大したことなかった』というキアリーの言葉は、エレンの視界の中で
【真実度:0%(真っ赤な大嘘)】
として鮮明に弾け飛んでいたことだろう。
「……『口の中でとろけた』『普通の牛肉には戻れない』『至高の味だった』……ふふ、お二人のお腹の中から、そんな心の声がバンバン聞こえてきますよ?」
「ひ、ヒィィィッ!! ごめんなさい!!」
「悪かった! 今度! 今度オークさんの家からお肉とミルクをもらってきたら、一番にエレンちゃんを招待するから!!」
頭を下げて必死に平謝りするキアリーとアーサー。
どんなに恐ろしい罠もモンスターも乗り越えてきた二人だったが、「食べ物の恨み」を買った女性の怒りだけは、どんな防御スキルも通用しないことを心底痛感するのだった。




