33.クックドゥドゥドゥ
「ひとまず今日はうちでメシでも喰って行けや」
人間姿のご主人の太っ腹な申し出に、キアリーたちは大喜びで甘えることにした。
ちなみにご主人の『ヒューマノイド』は、一度発動すると「2時間」で元のオークの姿に戻ってしまい、再使用には「12時間」の経過が必要なのだという。どこかボリスさんのスキルを思わせる制限時間に、キアリーは親近感を覚えずにいられなかった。
やがて、弟さんが厨房から鼻歌交じりに『フゴフゴ♪』と巨大な大皿を何皿も運んできた。
テーブルの上にズラリと並べられたのは、まさに夢のようなご馳走の数々だった。
第1階層で採れるマジカルマッシュルームの濃厚なバターソテー、ホーンラビットの香草焼き、そして第5階層で採れたばかりの新鮮なミノタウロス肉の極上ステーキに、とろけるような自家製チーズ。
しかし、その豪華な料理の真ん中に、一際異彩を放つ一皿があった。
透き通るような美しい白身が、お皿の模様が見えるほど見事に並べられた、まるで「お刺身」のような薄切り肉だ。
ご主人が「どれどれ」と弟さんの言葉を通訳してくれる。
「これは『グローヴフィッシュの薄造り』だそうだ」
「えっ……!? それって……フグ型の……!?」
キアリーは思わず身を乗り出した。
グローヴフィッシュ――かつてキアリーが『トラップバスター』で「猛毒(即死)」の警告を見て諦め、しかし「絶対に美味しいはずだ」と密かに悔しがっていたあのモンスターだ。
「おいおい大丈夫か!? あいつは確か、触るだけでもヤバい猛毒持ちだろ!?」
アーサーがギョッとして身を引くが、ご主人はガハハと豪快に笑った。
「安心してくれ、うちの弟には固有スキル『クックドゥドゥドゥ』がある。これを使えば、どんな未知の食材でも適切な下拵えや調理方法が直感的に分かって、完璧に毒を処理できるんだ」
「『クックドゥドゥドゥ』……!!」
何という料理人のための神スキルだろうか。
キアリーは震える手で『トラップバスター』の全神経をその薄造りに注ぎ込んだ。
結果は――何も表示されず。
完璧だ。毒は一切残っていない。
長年憧れていた「フグの刺身」が、今、目の前で安全な食べ物として輝いている。
キアリーは箸で数枚まとめてすくい上げ、ポン酢のようなタレに潜らせて口に運んだ。
「……っ!!!!」
弾力のある歯ごたえ、噛めば噛むほど口いっぱいに広がる上品で濃厚な旨味。
「おいしい……! 最高においしいです!! 最高のごちそうをありがとうございます!!」
キアリーの目からポロリと感動の涙が零れ落ちた。
それを見た弟さんも嬉しそうに『フゴフゴ!』と胸を張り、ステラも「まぁ、なんて素晴らしい歯ごたえ……! おかわりをいただけますかしら?」と舌鼓を打っていた。
食事が終わる頃には、ちょうどご主人の2時間の制限時間が切れ、まばゆい光と共に元の立派なオークの姿へと戻っていた。
「いやあ、助かったぜ。またいつでも遊びに来てくれよな!」
「はい! 今度はボリスさんの店の最高のお野菜を持ってきますね!」
帰り際、リュックに入りきらないほどのミノタウロス肉と極上ミルク、そしてチーズをお土産にもらい、4人は大満足の笑顔で地上への帰路につく。
凶悪な未踏破ダンジョン『黒鉄の迷宮』の第3・第4階層は、こうして「最高の食べ歩きルート」としてキアリーたちの胸に刻まれるのだった。




