31.発情
搾乳の儀式を終えた雌ミノタウロスたちは、まだ身体の芯に残り火のような熱を宿しているのか、まどろんだような恍惚の表情を浮かべていた。
オークの主は、そんな彼女たちを労うように、肩を叩いてから懐から一枚の干物を差し出す。それは先ほどまでダンジョンの通路をうろついていた、あの弾力あるブルースライムを乾燥させたものだ。
「ほらよ、あの人間のあんちゃんたちがくれた、上物の干物だぞ」
オークの低い声が響くと、彼女たちの耳がピクリと反応した。その言葉の意味を理解したのか、一頭の雌ミノタウロスが、先ほどまで搾乳を行っていたキアリーのもとへと迷いなく歩み寄ってくる。
彼女は鼻を鳴らし、キアリーの匂いを深く嗅ぐと、信頼を寄せるようにその身を全身で擦り付けてきた。
「干物を作ったのがあんちゃんだってわかったんだな。こいつなりの感謝の印だ」
オークが豪快に笑う。キアリーも恐る恐るその身体に触れるが、驚くべきことに、その肌からは牛舎特有の野性味あふれる獣臭さは一切感じられない。代わりに漂ってくるのは、清潔に保たれた肌の温もりと、石鹸の香気、そしてほんのりと甘いミルクの香りだった。それはオスには決してない、雌ならではの優しげな芳香だった。
油断したキアリーの隙を突くように、もう一頭も背後に回り込み、耳の裏をくすぐるように甘噛みをしてくる。
「ぴ、ぴゃ……っ」
キアリーの脳裏を、未知の痺れのような感覚が駆け抜ける。今まで経験したことのない、甘く重たい刺激に、自分でも聞いたことのないような裏返った声が漏れてしまった。さらに別の個体が首筋を舐め回し始め、キアリーが完全に赤面して身をよじらせたその時――。
「こら、発情するな! そろそろ離れろ!!」
オークの呆れたような制止の声が響いた。我に返った雌ミノタウロスたちは、まだ名残惜しそうにしながらも、しぶしぶとキアリーから離れる。彼女たちは部屋の隅に置かれたソファーへとお行儀よく横たわると、受け取ったブルースライムの干物を咀嚼し始めた。
ようやく騒ぎが収まり、キアリーは熱くなった頬を必死に冷ましながら、改めてオークに向き直る。
「お礼がわりといってはなんですが……このダンジョンについて、いくつかお聞きしたいんですがよろしいですか?」
「おう、俺の知ってることなら何でも話すぞ」
一行はそのままオークの自宅へと戻ることにした。
彼らはこの奥深いダンジョンの秘密を紐解くための対話へと入っていくのだった。




