30.第4階層
『キンコーン……♪』
二度目の呼び鈴に、再びドアがガチャリと開く。
「あん? またお前らか。手土産もねえのに何度も――」
「あの! 何度もすいません……! 手土産、これなんてどうでしょう……」
キアリーはオークの言葉を遮るように、リュックの底から大切に取り出した『干しブルースライム』の小袋を恐る恐る差し出した。
オークは不機嫌そうにその袋を受け取り、中身を覗き込んだ――その瞬間、豚の目が皿のようにひん剥かれた。
「――っ!! お、おいおい、こいつは……! こんな上物、本当に俺にくれるってのか!?」
「え? あ、はい! どうぞ!」
どうやら、あの無味無臭の青いガラス細工のような干物は、オークさんの琴線にこれ以上ないほど強烈に引っかかったらしい。オークは狂喜乱舞しながら干物を抱きしめた。
「最高だ! 下への階段だろ? いくらでも通ってくれ! こっちの通路からいつでも通れるようにしておくからよ!」
そう言うと、オークさんはスタスタとあの巨大な大扉の前に立った。そして、大きな手を扉の縁にかけると――グッと横へスライドさせた。
『すいっ……』
「あ」
4人の口から、間の抜けた声が漏れる。
重厚な鉄の扉は、滑らかに横へと開いたのだ。
押しても引いてもびくともしなかった理由が、あまりにもあっけなく解明された。これには前回のアーサー以上に、4人全員が「そりゃ開かないわけだよ!」と心の内で激しくツッコミを入れたのは言うまでもない。
オークさんの親切な案内に連れられ、4人はついに未踏の『第4階層』へと降り立った。
しかし、階段を下りた瞬間、4人の鼻を猛烈な「獣の匂い」が突き刺した。
「うわ、なんだこの匂い……」
アーサーが鼻をまみえる。
「ここはミノタウロスを育ててるんだ」
オークさんが誇らしげに柵の向こうを指差した。
見れば、頑丈な柵の中に、二足歩行の立派な牛頭の怪物――ミノタウロスたちがたくさん飼育されていた。彼らは、周りをぴょんぴょんとおもちゃのように飛び跳ねる小さなブルースライムを、手づかみでバクバクと貪り食っている。
「ブルースライムはこいつらの主食でな。でも、大きくなると毒を持つようになるんだよ。干物はうちでも作ってるんだけど、上の階層の階段をデカいスライムが塞いでて、狩りにも行けなくて困ってたんだ。……もしかして、お前ら、あれを倒してくれたのか?」
4人が揃ってコクコクと頷くと、オークさんはキアリーの両手をがっしりと握りしめた。
「そいつはありがたい! じゃあ、もっとお礼をしなきゃならねえな!」
そう言うと、オークさんは屋根のある一際立派な牛舎へと4人を招き入れた。
そこには、一般的なイメージの凶暴な怪物とは一線を画す、もの凄く艶っぽい雰囲気を醸し出した雌のミノタウロスが2頭、豪華なソファーにしなだれかかるように横たわっていた。
オークさんは手際よく、その2頭のたわわに実った立派な胸部へ、搾乳機をカチャリと取り付け、スイッチを入れた。
ヴィーーー、という機械音と共に、搾乳が始まる。
「――んもぉぉぉぉ~~~ん……っ」
ミノタウロスは、潤んだ瞳で口元を抑え、恍惚とした艶めかしい声を上げた。心なしか、牛の顔が林檎のようにポッと紅潮している。
(……ただの乳搾りのはずなのに、なんか、もの凄くえっちな気がする……!)
キアリーは真っ赤になって目を逸らそうとしたが、隣を見れば、アーサーもマックも、完全に言葉を失ってその様子を凝視している。
それどころか、元・神聖な修道女であるはずのステラまでが、ゴクリと唾を飲み込み、鼻の下をびよーんと伸ばして「あらまぁ……ふふ、凄いですわね……」とニヤニヤしながら、その官能的な搾乳の様子を食い入るように眺めていた。




