28.干しブルースライム
ボリスの店の裏手で、青いゼリー状の破片をザルに乗せて干し始めてから3日目の朝。
キアリーは出来栄えを確認するため、天日干しされたブルースライムの前に立っていた。
水分がすっかり抜けたその破片は、まるで青いガラス細工か、あるいは乾いた寒天のようになっている。キアリーは全神経を集中させ、その破片に『トラップバスター』の視線を注ぎ込んだ。
結果は――何もなし。
以前なら鮮烈に浮かび上がっていた「激しい下痢」という不気味な紫色のログは、跡形もなく消え去っている。そして、それ以外の文字や情報も、視界には一切映らない。
キアリーの固有スキルは、あくまで「対象が人間に害をなすかどうか」を判定するものだ。害が消えて無害化された今、この青い干物が一体どんな効果を持っているのか、あるいは本当にただの無味無臭の塊になってしまったのか、「不明」という文字すらスキルは教えてくれない。ただの普通の乾いた肉片として、キアリーの目に映るだけだった。
「……よし、ちょっとだけ」
キアリーは意を決して、爪の先ほどの小さな破片をパキッと折り、口の中に放り込んでみた。
モグモグ、と咀嚼してみる。
「…………ん?」
味は、完全に無味無臭。驚くほど何の特徴もない。食感も少し歯ごたえのあるゼリーのようで、毒気もなければ旨味もない。数分待ってみたが、お腹が痛くなる気配も、体に力がみなぎるような感覚も、一切なかった。
「本当に、ただの味のない干物になっちゃったのかな……」
「あら、何をしてますの?」
背後から、いつの間にか起きてきていたステラが声をかけてきた。手には当然のようにモーニングスターが握られている(物騒な朝のルーティンだ)。
「あ、ステラさん。これ、この前のブルースライムを干してみたんです。毒は完全に消えたみたいなんですけど、ボクのスキルじゃもう何も見えなくて。食べても何も起きないんです」
「まぁ。あの意地の悪い迷宮のモンスターですもの。ただの無駄骨で終わるようなタマとは思えませんわね」
ステラがフムと顎に手を当てる。
「ボクもそう思うんです。あの『黒鉄の迷宮』で獲れたものですから、きっと何か、ボクたちの気づいていない条件があるはずなんです。例えば……特定のピンチの時にだけ何か起きるとか」
キアリーはそう言うと、残りの青い干物を丁寧に小袋へと小分けにし、次回の探索用リュックの底へと大切に詰め込んだ。
味はしない。スキルも今は何も語らない。
しかし、あのモンスターハウスという絶望的な『罠の扉』が待つ第3階層を突破するためには、どんな小さな可能性でもバックパックに詰めていく必要がある。
「さぁ、キアリーさん。不思議な干物の実験が終わったら、今日も美味しい朝食をお願いしますわ。お腹が空いては、あの分厚い扉を叩き割る力が出ませんもの」
「あはは、すぐ作りますね!」
正体不明の「青い干物」をリュックに忍ばせ、キアリーたちは迫りくる第3階層のモンスターハウス攻略に向けて、再び牙を研ぎ始めるのだった。




