24.ハイパーストレンジ
「キアリー、ステラ。こいつらも頼む」
ボリスがそう言って、天井に届きそうなほど高く積み上がった大量のダンボール箱を、軽々と両手で抱えてやってきた。中にはずっしりと重いジャガイモやカボチャが詰まっているはずなのに、彼の様子には息一つ乱れていない。
「はい、お任せください。……でもボリスさん、毎回思うのですが、本当に力持ちですよねえ。ボクなんて一箱運ぶだけで腰が抜けそうなのに」
キアリーが感心しながら『トラップバスター』で野菜の傷みを見分けていると、ボリスはガハハと豪快に笑いながら、抱えていたダンボールをドサリと床に置いた。
「あははは、違う違う。これは俺の固有スキル『ハイパーストレンジ』のおかげさ」
「えっ、ボリスさん、固有スキル持ちなんですか!?」
隣でリンゴを磨いていたステラも、驚いて手を止める。
「そういえば言ってなかったな。このスキルを使うと5分間だけ、どんなに重い物でも羽毛みたいに軽々と持ち上げることができるんだ。ま、1度発動させると、次に使えるのは8時間後になるけどな。だから、朝の仕入れと夕方の棚出しの時にしか使えない、商人用のスキルさ」
「5分間だけ、どんなに重い物でも……」
キアリーはその言葉を口の中で繰り返した。
その瞬間、彼の脳裏に、第2階層のあの不気味な「空の宝箱」の姿がフラッシュバックした。
『いくら押しても引いても動かない宝箱。床に固定されているかのようにビクともしない――』
(待てよ……? もし、あの宝箱が動かないのが「ギミックのせいでロックされている」からではなく、単に「人間には動かせないほど、ものすごく重いだけ」だとしたら……?)
「あ……!」
キアリーの脳裏に、一つの仮説がピキーンと閃いた。
もしあの宝箱を、ボリスの怪力で無理やり「持ち上げる」か「引き剥がす」ことができたら、その下にある本当のスイッチや、隠し通路が物理的に露出するのではないか。
「ボリスさん! もしかして、あのダンジョンの宝箱を……あ、でも、冒険者でもないボリスさんを危険なダンジョンに連れていくのはダメですよね……。すみません、変なこと言って」
キアリーがしょんぼりと肩を落とすと、ボリスは不思議そうに首を傾げた。
「ん? 俺、一応ギルドに登録してるぞ?」
「ええっ!?」
「若い頃にちょっとな。今はただの八百屋だが、籍はそのまま残してあるんだ。デイビッドの旦那にも、たまにギルドの物資搬入の手伝いなんかで顔を合わせてるしな」
その言葉を聞くや否や、ステラの目が獲物を見つけた猛獣のように輝いた。
「決まりましたわね、キアリーさん。さっそくギルドマスターに直談判にいきましょう。あのクソ生意気な迷宮の鼻を明かしてやる絶好のチャンスですわ!」
「お、おいおい、ステラちゃん? なんだか話がとんでもない方向に転がってねえか……?」
ボリスが冷や汗を流すのも構わず、2人はその日のうちに冒険者ギルドへ走り、デイビッドに事の顛末を報告した。
「ガハハハ! 面白い! 八百屋のボリスをダンジョンに投入だと!?」
ギルドマスター室で、デイビッドは机を叩いて大笑いした。
「『ハイパーストレンジ』か。確かにあのスキルなら、迷宮が物理的に固定しているオブジェクトすら力技でぶち壊せるかもしれん。よし、特別に許可を出す! ボリス、お前の護衛には、うちの看板盾であるアーサーと、あの『爆殺堕天使』がついているんだ。安全は保証する。一丁、あの生意気な2階層をひっくり返してきてくれ!」
「デイビッドの旦那がそこまで言うなら、一肌脱ぐかねぇ……。キアリー、俺をしっかり守ってくれよ?」
「はい! ボリスさんには指一本触れさせません!(アーサーさんとステラさんが)」
こうして、アンチドートをしっかりと準備し、心強い(?)新メンバーである「怪力八百屋ボリス」を加えた、4度目のダンジョンアタックが決定した。
迷宮の底意地の悪い仕掛けを、「物理」と「ひらめき」で粉砕するための戦いが、今ここに幕を開ける――!




