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固有スキル『トラップバスター』と新しい街で暮らし始めた僕の話  作者: けろ
キアリーと黒鉄の迷宮

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20.偶然

「……あれ?」

ステラが手元の羊皮紙と、目の前の無機質な石壁を交互に見比べた。

彼女の鋭い観察眼が、ほんの少しの狂いを見逃すはずがない。

「おかしいわ。ここ、前回私たちがマッピングしたときは、間違いなく奥へ続く『T字路』になっていたはずよ? でも今は……ご覧の通り、ただの壁。行き止まりだわ」

「な……!?」

アーサーが驚いて前に出る。

迷宮の通路が入り組んでいるとはいえ、彼女たちのマッピングはギルドでも評価されるほどの正確さだ。それがこれほど綺麗に「壁」に差し替えられている。

「……第2階層、構造そのものが動いておるのか? まるで生きているようじゃな……」

マックが杖の先で壁を強く叩くが、コン、コン、と乾いた音が響くだけで、隠し扉のような気配は一切ない。

一行はしばし立ち尽くした。

前回通ったときは、この突き当たりに『唯一の宝箱』があった。今も変わらず、その場には宝箱が鎮座している。

「これだ。前回来たときも、この箱以外に目ぼしいものはなかった」

アーサーは苛立ちを隠せない様子で、その宝箱に近寄った。

中身は空っぽ。前回確認した通りだ。それでも「何か手掛かりがないか」と、彼は乱暴に箱を掴み、中を覗き込みながら、底板を指で強く押し付けたり、縁を無造作にひねったりと、毒の心配がないことをいいことに箱を弄くり回した。

その時だった。

カチリ、と小さな音が、箱の奥から聞こえたような気がした。

「――ん?」

アーサーが手を止める。直後、彼らの背後の空間で、「重い石が滑る摩擦音」が響いた。

「え?」

4人が一斉に振り返る。

先ほどまで彼らの行く手を阻んでいたはずの壁が、何の予兆もなく、まるで最初からそこには道があったかのように、すうっと石畳の中へ沈み込んでいたのだ。

「……は?」

開いた道の先には、前回マッピングした通路が何事もなかったかのように続いている。

「開いた……? 今、壁が動いたのか……?」

キアリーが慌てて眼を見開いた。

『トラップバスター』には罠の反応なし。

4人にはただ『そこに道がある』という事実だけが映っている。

「ど、どうなってるんだよ……! 罠の反応は何も出なかったぞ!? さっきまで壁だったんだぞ、ここ!」

キアリーが混乱して叫ぶが、ステラもまた、何が起きたのか理解できずに立ち尽くしていた。

「箱をいじった拍子に、偶然……いや、まさか」

アーサーは自分が触った宝箱を見下ろしたが、そこにはただの空箱があるだけだ。

まさに偶然、スイッチに手を触れていたのだが

どこに触れたことで扉が開いたのかわからない。

「……何が起きたのかさっぱりだけど、道が開いたのは事実だわ」

ステラは、壁が消えた先にある暗闇を、慎重な足取りで見つめた。

彼女たちの脳内では「迷宮が意志を持って、試練を課している」という恐怖と、「罠が反応しない以上、進むしかない」という迷宮探索の掟がぶつかり合っている。

自分たちが開けているはずなのに、それを「迷宮の気まぐれ」だと信じて疑わない4人は、冷や汗を流しながら、未知なるその先へと足を踏み入れた。

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