11.アンチポイズン
「頼む、誰かおらんか! 怪我人じゃ!」
マックの怒鳴り声と共に、キアリーとマックはアーサーを両脇から担ぎ上げ、街の教会の重厚な扉を蹴破るようにして飛び込んだ。
ここ教会には、治癒系の固有スキルを持った神官や修道女が多く集まっている。彼らに相応の「寄付金」さえ支払えば、死にさえしていなければどんな重病も怪我も治療可能と言われていた。
世間では「治癒スキルを授かるのは信心深さの証」と崇められ、スキル保持者は教会内で瞬く間に高い地位へ上り詰める。
だが実際のところは、星の数ほどいる信者たちがこぞって『回復系スキルが欲しい』と毎日熱烈に願っているため、発現の素養がある人間が一定の確率で引っかかってくるという、至極単純な数撃ちゃ当たるの話に過ぎなかった。
そんな大人の事情はともかく、今の3人にとって彼らは唯一の希望だった。
「まぁ、これはひどい神経毒……!すぐに処置を始めます、こちらへ!」
慌てて駆け寄ってきたのは、美しい白の法衣を纏った、ステラ・マリーベル上級修道女(24)だった。彼女はすぐさまアーサーをベッドへ横たわらせると、その右腕にそっと両手をかざした。
「――『アンチポイズン』」
ステラが自身のスキルに名付けたその名が紡がれた瞬間、彼女の手のひらから神聖な緑色の光が溢れ出し、アーサーの腕を包み込んだ。
『アンチポイズン』は、対象から有害な毒素を強制的に排除する解毒特化スキルだ。
光が収まると、アーサーの肌を黒く変色させていた毒線がみるみるうちに薄くなり、やがて消え去った。
「ふぅ……あ、動くわ! 右手、ちゃんと動くわよ! 死ぬかと思ったわぁ……」
アーサーはベッドの上にガバッと起き上がると、指を何度もグーパーさせて、涙目でステラの手を握りしめた。
「ありがとう、ステラちゃん!」
「お役に立てて何よりです。ですが、しばらくは無理をなさらないでくださいね」
聖母のような微笑みを浮かべるステラ。
そんな感動的な治療の様子を、少し離れた椅子から見守っていたキアリーは、真剣な顔で顎に手を当て、自身の『トラップバスター』の視界をステラに向けていた。
(……『アンチポイズン』。ありとあらゆる毒素を排除する、か……)
キアリーの脳裏に、さっきダンジョンで見かけた、まるまると太ったあの「フグ型モンスター」の姿が鮮明に思い浮かぶ。
(……ということは。あのフグ型モンスターを仕留めて、新鮮なうちにこの教会へ持ち込んでステラさんに『アンチポイズン』をかけてもらえば……ボクが苦労して毒抜きをしなくても、完璧に安全で最高に美味しい『フグ鍋』が完成するんじゃないだろうか……?)
「キアリーちゃん、アタシの心配してくれてありがとね!」とベッドの上から手を振るアーサーに対し、
キアリーは「あ、はい!本当によかったです!」と笑顔を返しつつも、頭の中は完全に「聖なる力を利用したフグのワンタップ解毒調理法」のシミュレーションでいっぱいになっているのだった。




