7話 初対面
お互いを小突きながらガジルを納品するためにギルドへと向かった。今日はより一層賑わっている。
「なんか昨日よりうるさいね」
「多分俺のせいだろうな」
「……?」
自惚れているのか、ちゃんと理由があるのか分からないままギルドに入る。今回は納品場所がある別の入り口から。ガジルの討伐依頼の報酬、それとガジルを素材として卸したことによる副収入は合わせて8万ギア。支払いは手の甲を合わせるだけで終わった。
「それだけで受け取り完了? どうなってるの?」
「ん? あぁ、ギアは法術で管理されてるんだ。勝手に税金分は引いてくれるし残高も簡単に確認できる。何より嵩張らない! 便利なもんだぜ」
「へぇー! 法術ってそんなことまで出来るんだー! ちなみに今貰った8万ギアってどのくらいなの?」
「俺の前職の給料2ヶ月分ってところだな。このレベルの依頼はマジでおいしいんだが、全然出されないのが悲しいな」
8万ギア、かなりの大金だった……! アグニの前職……研究員時代の生活がどのくらいの水準だったのかは知らないが、この依頼を2ヶ月に一回こなすだけでそれに並べる! 初仕事から大分夢を見せてくれるじゃないの。
命の危機に陥っていたことなどすっかり忘れ、自分の中の守銭奴が思考に幅を利かせようとしている。そんな私は、次に何をするかなど考えずアグニについていく。そのまま連れられて進んでいくとギルドのエントランスホール、今日の騒ぎの中心に辿り着く。何があるのか気になって、私は体を左右に揺らしながら人と人との間を覗き見るが人の密度が高すぎて何も見えない。しかし、アグニは私の手を引っ張って中心に進んでいく。
割り込んで進んでいくことに多少の恥じらいを覚える。顔を覆いながらただ歩いているといつのまにか中心にいた。
「おい、手どけろ。お前と顔合わせに来てくれてんだよ」
手を退ける。目の前に映るのは至る所にレースの装飾がついた純白のロングドレス。それだけが視界に映る。全体を見ようとして少し下がり、顔を上げる。顔にはドレスと同じ色のレースのアイマスク、頭にはつばの広い大きな帽子。全身がこの場には似つかわしくない雪白のコーディネートをしている大きな女性が立っている。
「この方は現在ギルド内トップのイノベーター、レディ・アマルガムだ。今日はお前のために来てくださった。感謝しろよ」
「いえいえ、感謝なんてとんでもないですよ。……初めまして。あなたが例の子ね。私はシャルル・アマルガム。アグニさんと同じであなたの管理・保護責任者です。これから仲良くしましょうね♪」
「は、はい」
「ふふっ、それではまずお互いのことを知ることから始めましょうか。何か聞きたいことがあればなんでも聞いて良いのよ。女性なのに何で名前がシャルロットじゃないの?とか、どうしたらこんなに大きくなれるの?とか」
社交性がドレスを着てる感じだ…… でも今言ってくれた情報だけじゃそんなに聞くことがない。というかアグニと同じポジションなんだ。この人の方が優しそうで良いな。……あんまり返答が遅れるのも良くないな。何か言わなくちゃ。
「えっ、あぁえぇとそれじゃあ……何でそんな格好をしてるんですか?」
「強さの証なの。私が何者にも負けていないこと、返り血すらつかないほどの圧倒的な力を持っていることの証明。それに綺麗でしょう?」
「はい!」
かっこいい……!! この人が私の保護責任者って本当? なんか嬉しくなってきちゃった。次は何を聞こうか。
「次は私の番ね。あなたのお名前は?」
そういえば言っていなかった。
「アルナです!」
「可愛いお名前ね。アグニさんが見つける前からあったの?それとももしかして……アグニさんが付けてくれた?」
「はい! 名前は気に入ってます!」
「あはは! そっか! ふふっ……名前“は”か、ふふっ」
なんかツボに入っちゃったみたい。口元に手を添えて上品に笑っている。けどその手の隙間から歯が見えてしまっている。鮫のように尖った歯、ガジルを彷彿とさせる。ギャップでちょっとドギマギする。
「ふふ、ふぅ……ふぅ。さて! もう一つぐらい質問してくれても良いよ」
「……目元がレースで隠れてますけど見えてるんですか?」
「見えてないよ! 子供の頃に怪我しちゃってね……だからどうせならオシャレしちゃおうと思って付けてるの」
やっぱり見えてないんだ。……それでトップ!? 視覚を補う方術とかがあるのかな…… いや、だとしても凄いな。私には計り知れないほどの実力者、それでいて人徳のある振る舞い。非の打ち所がない。アグニはこの人を見習うべきなのではないか。
「私の番! ……なのけど次は質問じゃないの。あなたに伝えることがあるの」
「? 伝えることって?」
「あなたの今後の予定。コレレちゃん……あなたが起きた時にその場に居合わせてた子が明日あなたの検査をしたいんだって。ちょっとハードなこともされちゃうだろうけど……アルナなら大丈夫!」
まーた変な予定が入った! あの興奮してた女性! 確かにちょっとそういうことしてきそうな言動してたわ!! あとハードって何! 怖いんですけど!!
「ハードって言っても腹開かれるとかはされないと思うから安心しろよ。まずは対話ぐらいで済むと思うぞ」
アグニ、一回嘘をついたキミの言葉じゃ安心できないよ。それに“まず”って言ったね! 最後には腹開かれるんじゃないのかい!!
シャルルさんは悶える私をみて微笑み、アグニは冷めた目で私を見る。ベクトルは違うがどちらの表情からも哀れみが汲み取れる。保護責任者だというなら助け出してくださいよ。でも管理責任者ならちゃんと私の検査をさせないといけないか。あぁー! やだー!
「あはは……それじゃあ私はもう行くね。次に会う時はもう少し言い予定を伝えに来るね! それまではまぁ……なんとかなるよ! アグニさんにも今度は何か持ってきますね! それではごきげんよう!」
そう言ってシャルルさんは帰っていき、それに続いて周りの人達も出て行く。分かってはいたがとてつもなく人気のようだ。
そしてその場に残ったのは私とアグニ、それと少しの人。
「ま、レディの言う通りなんとかなるだろ」
一難去ってまた一難、それが世の常。私はいつ難を逃れられるのだろう。




