↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かくも素晴らしき青き世界  作者: 花形都
序章 肉と皮、そして心
PR
2/16

1話 世界の始まり

 曇っている。ただ、曇っている。

 何かが見える。でも曇っている。何も見えていないのと一緒なのかもしれない。

 そんなことを考えていると、遠くから近づいてきたように段々と何かが聞こえてきた。


「起きろ」


 私はその言葉に従い、起きてみた。


「うわっ、マジで起きた」


 何だこいつ。起きろと言ったのはそっちじゃないか。それなのに何なんだその反応は。対して似合ってもない可愛い色の髪の毛しやがって。胸元も開け……というか上裸に上着を着ているだけだな……変態なのかこいつは


「ほ……本当に人語を理解してる!! これはアガりますよ〜!!」

「なんかヤベェの拾ってきたんじゃねぇのか、アグニ?」


 推定変態の失礼なやつの奥から、うるさいやつらの声もしてきた。興奮気味の女性と、少し怠そうな声色をした男性だ。後ろの方に目をやると、どちらも片手を突き出しながらもう片方の手で何かを書いているようだ。


「うるせぇなぁ……お前らは結界の維持だけしてろ」

「……そんじゃ、今から尋問始めるか」


 彼はすぐに私にずいっと顔を近づけて話し始めた。


「質問1、お前が瓦礫の下に埋まっていたところを俺が助けたが覚えてるか?」

「……覚えてない」


 そう言うと彼の額に少しばかり皺ができ、首筋にはうっすらと血管が浮き出ている。どうやら彼は私の返答が不満のようだ。だがそれは仕方ないことである。だって覚えてないし! それにそんな奇抜な格好をしているというのに私の記憶に残らなかったそっちの方が悪い気もしてきた。

 そんな事を考えていると感情を抑えられた様子の彼がまた口を開く。


「質問2、お前が話すことができるのはなぜだ?」

「……それも、覚えてない」


 この返答にも彼は不満を露わにし、明らかにこの場にいる全員に自身の所感を伝えようととても大きなため息をついた。不機嫌なのは分かったがそれを自分の心の内に留めて置けないあたり、こいつが面倒な性格をしているか私のことが嫌いかの2択だろう。まぁ状況からして当然後者寄りではあるのだろうけども。


「質問3だ、お前は魔物か?それとも人間か?」


 ……私は今、迷っている。

 先ほどから状況を把握することに思考のリソースを割いていたおかげである程度は分かっている。魔物が何かは知らないがおそらく身体的特徴が人間と一致しないにも関わらず、人間の言葉で喋る私を警戒しているのだろう。私が知っている人間の特徴に、私の体は“近づけて”ある。そう、“近づけて”あるのだ。鏡はないが自分のシルエットが人間と同様なのは何となくわかる。だが肌が違う。目の前にいる3人と比べると肌に光沢がある。まるで釉薬をかけた焼き物のような不自然な色合い、それにそもそも自身の肉体から重みを感じる。おそらく体の材質から人間とは違っているのだろう。これでは私が魔物というもので確定してしまう……でもそれはそれで違和感がある。自身が人間でないとなれば今思考できているのはなぜだ? 言葉を思考するために使えるのは何故なんだ? そう思うとどう答えれば良いのか全く分からなくなって、数十秒ほど沈黙を続けてしまった。


「……やっぱわかんねぇか。俺が助けてやった時も言ってたもんな……」

「……とりあえず質問4。お前に敵対意思はあるか?」


 沈黙を破ってすぐに中々大事そうな質問がきた。この質問には「いいえ」と答えた方がよく、自分としても「いいえ」と答えたい。だが自分は何かを忘れているはずの存在なのだ。実のところ、彼に起こされるまでの記憶が一切ない。もし記憶が完全に蘇った時、ここで「いいえ」と自信を持って答えられるような存在なのか不安で仕方がない。今のところ人間寄りの思想と思考をしているから、人間と仲良くしていたい。その思いのままに答えても良いのかとまたもや考えてしまうと、即答しなかった私のことを見る彼らの目が変わった。その目はまるで獲物を見つけた狩人のように鋭く、視線に晒されているだけで喉が渇いてくるようだった。そんな視線に耐えきれず、投げ出すように私は答えた。


「敵対意思はない」

「……まぁ、ひとまずはってとこか」


 そう言う彼は肩の力を抜いたようだ。後ろの2人も緊張を解き、空間の居心地が良くなった。……やっぱり空間の居心地は良くないかもしれない。


「さて、そんじゃこっからはお前の処遇についてだ。ちょっと話し合うから待ってろ」

「話し合う必要あります〜? もうアグニさんが引き取れば良いって結論出たじゃないですか〜」

「アンタが拾ったんだから面倒見てやれよ」

「それで良いわけねぇからもっかい話し合うんだよ!! 大体未知の魔物だとしたらギルドか国に引き渡すべきだろうがよ!!」


少し和やかな雰囲気になってきた。彼がイジられ系のポジションにいることがわかってちょっと面白い。


「だって〜そんなとこに引き渡したら私のとこに来てくれないじゃないですか〜!! こんな貴重なサンプルなら絶対確保しといた方がいいですって〜!!」

「それならお前が引き取れよ!! 俺は魔物研究なんざ興味ねぇんだからよぉ!!」

「うちの隊は忙しいんで面倒見きれないんです〜!! それに国もギルドも私以上の成果あげられない上に新種の研究は予算が出ないらしいじゃないですか〜!! お願〜い!! 引き取ってあげて〜!!」

「おい、何でも良いからさっさとしてくれ。今日は俺が飯番なんだ。このままじゃ夕飯に間に合わない」


会話がヒートアップしてきた。私も混ざってみようかな。……やっぱやめとこう。絶対怒られるし。

そんなこんなでいつの間にか窓から差す光が茜色になってきたころにやっと結論が出たようだ。


「大変不本意ながら、お前の面倒は俺が見ることになった。予め言っておくがお前に行動の自由はない。全て俺に従えよ」


口論に負けた彼に引き取られることが決定したようだ。どれだけ威圧的な言葉使いでも先ほどのやりとりを聞いていた身からすると滑稽に見えてしょうがない。甲斐性のなさそうな男として私のイメージが固まりきらぬ前に何とか挽回して欲しいものである。


こうして、私は彼に引き取られ新しい生活が始まった。それは私にとって新しい世界の始まりだったと言っても過言ではなないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。