酷い一日
酷い一日だ
今、俺は瓦礫をその身一つでかき分けている。それも誰の助けもなく、300m四方を1人でこなさなければならない。炭鉱夫でもこんな仕事は御免だろう。
なぜこんなことをしなければいけないのだといった思いが頭をよぎるが、これも悠々自適な休日と俺のプライドとを天秤にかけた結果だ。
たとえフリーだとしても、ギルドからの頼みだ。組織が個人に依頼してきたんだ、こんな小さな頼みでも断っちまったら面子を潰しちまう。
……でも、報酬低かったなぁ……マジでやめときゃ良かったかな……
早くも後悔し始めてきた。でもそんなことも言ってられない。もう引き受けてしまったんだから。でもやっぱり良くなかったかもしれない。
そうやってあれこれ考えながら作業を続けていると
「っ……ぅ……う」
今、声がした。この瓦礫の山の中で、確かに声がした。誰かが下にいる、埋まっている。非常事態だ。
「おい!! 聞こえてるか!? この声が聞こえてるなら何とか居場所を教えてくれ!! 少しでも音を出してくれれば必ず助けに行く!!」
こんな大声を出すのは久々で、喉が掠れて咳き込みそうだ。
だから、もしかしたら今の声が聞き取れなかったかもしれない。
そう思って大きく息を吸ったその時、後ろの方からコツコツと音がした。
すぐさま振り向いて、音がした方向に近づいていく。未だに等間隔で音を鳴らし続けてくれているおかげで、おそらくここに埋まっているであろうという場所が特定できた。
あとは瓦礫をどかすだけだ。と、そう思っていたが覆い被さっている土や木、それにどっかから漏れている水が瓦礫の周りをこれでもかというほどに固めている。遭難者の命も時間の問題だというのに最悪だ。
俺ならいざとなったら爆破解体もできるが、それをしてしまうと遭難者も被害を受ける可能性がある…かと言ってこのまま地道に掘っていては時間切れだ。てかもっと人が入ればマンパワーでどうにかなったかもしれないのに俺が安請け負いしたせいで一人死なせるなんてことになったらヤバい。
「どうする……俺……!」
思わず声に出してしまった。でも仕方ない、だってヤバいんだもん。
今俺にできることは遭難者に被害が出ないことに賭けて爆破するか、人を呼びに行くか、全力で作業をするかの3つだ。人を呼びに行くのは論外、ここら一帯には作業員がいない。俺自体の移動が早くても、かなりの重さの道具を持って走らなければいけない奴らを何人もかき集めてたら作業が始まった時にはもう遅いだろう。
爆破か作業か、どっちかしかない。爆破の場合は飛散した破片で傷がつかないこと、作業の場合は遭難者の息がそれまでもっていること、どちらも運に賭けるしかない。だとしたら俺は自分が得意な方を選択する。
そう、爆破だ。
俺は全身の血を沸き立たせるように力を込める。やがてその血は巡り、俺の指に凝縮されていく。今回はできるだけ威力を下げて行うため指に集まった血を少しづつ全身へと戻していき、大方の威力調整が完了した。あとは祈るだけだ。
「どうにかなってくれ……!」
そう言って俺は人差し指をちぎって瓦礫に投げた。
人差し指は爆ぜ、煩わしかった木、水、土をまるでなかったかのように消し飛ばし瓦礫に穴を開けた。
そしてその穴からは人の足らしきものがチラリと見える。
「よっしゃ!!」
俺は自分の腕前に歓喜した。だって凄いもん。凄いよね?
まぁそんなことを考えながら、俺は遭難者の方へ向かった。
穴を潜るとそこには確かに人がいた。人はいた。
ただ、何故か全裸だっただけだ。
どうして全裸なんだよ……! ここは変質者の来る場所じゃねぇんだよ!! 俺は変態助けるために神経すり減らしてたわけじゃねぇんだよ!!
目の前にそいつがいるというのに叫びたくなった。これまでの人生で1番集中していたといっても過言ではないほど集中していたのに、それが全裸の変態を助けるためだったなんて最悪だ。
今日はやはり酷い1日だ。そんなことを考えていると段々と冷静になってきた。
たとえ危険地帯で露出するようなド変態のカスだとしても命があるのだから助けたことは誇るべきなのだ。怒ったところでしょうがない。それに傷一つつくことなく救出できたのだから自慢話にもなるさ。そう思って自分の怒りも完全に抑えるきって見せたところで、俺は妙なことに気づいた。
こいつ、瓦礫に埋まっていたというのに傷どころか汚れひとつついていない。
明らかにおかしい。俺の爆破がどれだけ上手くいっていたとしても砂や泥の汚れぐらいは残っていなければ変だ。それだというのに今目の前にいる奴はその玉のような肌がただ艶めいているだけ。俺は少し警戒しながらそいつに歩み寄っていく。やはりどこから見ても傷ついておらず、新品の蝋人形のような不気味さがある。
「んぅ……」
目が覚めたようだ。か細い呼吸なれど、全身に酸素を送り込もうとしている。胸が呼吸に合わせて膨らんで、手足もゆっくりと動かしていく。
するといきなりバチっと目を見開いて、ヨロヨロと起き上がりこちらを向く。
そこで俺はまた気づいた、こいつ生殖器もない。魔物の類だろうか、そうだとしたら本当にキレてしまいそうだ。
血管が切れそうになりそうなその時だ。
「お前、何?」
こいつ喋った!?!?普通の魔物なら人語を解すことはできない、つまりこれはこいつが人間であるか普通じゃないやばい魔物であるかの2択だ。そして見た限りこいつには生殖器がない、これは人間なら明らかにおかしいことだ。切除の線も考えられなくもないが、そんなことをやっていたら肌に傷痕があるはずだ。こいつの肌には本当に傷ひとつない。マジで何だこいつは……! 何なんだよ本当に……! そう思っているとまたそいつが口を開いた
「それに、ここどこ? 私も、何なの?」
「ねぇ、私って何?」
「知らねぇよ!!」
怒号が瓦礫の中でこだまする。てめぇの自分探しに付き合ってる余裕なんてねぇんだよ!!
こんなやつの対応までしなきゃいけないなんて今日の朝は思ってもなかった。
やっぱり今日は酷い一日だ。




