13話 差
ウッドマンの攻撃手段、それは鞭打。茨のような蔓を伸ばし打ちつける。相手を出血させることだけを考えた攻撃。一度でも出血してしまえば、ウッドマンの苗床となってしまう。
「全然倒れないんだけどこいつ!!」
更に物理攻撃にもある程度耐性がある。僅かな隙を狙った一撃では大して怯まない。十数回殴ってようやく倒れてくれる。これでは埒があかない、そう思ったが……
「う〜い! ほらほら〜ドンドンきなよ〜?」
「来ないで!! やだ!!」
2人が積極的に手助けしてくれているおかげで目に見えて数が減っている。マラキアは尻尾や触手、見方を変えればただの的を生やしているが全方位から迫り来る蔓を華麗に身を翻して避け、まるで液体のような流動を見せながら尻尾を振るってウッドマンを切り倒している。なんだかガジルを思い出す。それに対してディアは弱音を吐きながらも衝撃波で応戦している。おそらく掌、というか手袋から出ている衝撃波によって一度に複数のウッドマンがひしゃげていく。……2人とも強い。
「アルナー。殴るってより指真っ直ぐ伸ばして貫く方がいいぞ〜」
一方この男、早々に木登りを始め高所からアドバイスだけを送ってくる。
「ちょっとは手伝ってよね!!」
「お前がピンチにならない限りは手出さない方針なんで〜」
教育方針の押し付けがすごいですねぇ!! わかりましたよ! アドバイス通りにやればいいんでしょ!
なんだかんだで的確なアドバイスをしてくれるアグニに従い、指先まできっちりと伸ばしてウッドマンに一撃を叩き込む。するとウッドマンの胴体に私の腕と同じ大きさの穴が開く。そりゃそうだ、私が貫いてるんだから。
そこからは楽だった。ひたすら貫いて穴を開け、両手を入れて内から引き裂く。これの繰り返しであっという間に残りは10体を切る。
「おりゃあ!!」
「よいしょー」
「早くどっか行って!!」
3人で1体ずつ丁寧に処理していく。残り6体、3体……
その時だった。
キュリィィィィ
ウッドマンの討ち漏らし、いや仲間を苗床にして生まれた新たなウッドマンが私の背後から迫り来る。気付くのが遅れた。蔓を避けるには間に合わない。それなら硬化を発動させられれば……
「ピ〜ンチ!」
そう言ったアグニは、何かをこちらに放り投げる。落下するその物体を、私の目は確かに捉えた。それは肉片、もといアグニの小指だった。
空気を引き裂くような高く乾いた破裂音が響く。その音と共に、指が炸裂しウッドマンを粉々に吹き飛ばす。
「はい残り1体! 早く片付けろよ」
「うん!」
ちゃんと助けてくれたから信頼度が回復した。自分から下げにいっていることはさておき、言ったことを守ってくれるなら快く従うことができる。最後の1体を貫き、引き裂く。これで私の依頼は終わりだ。
「よし! とりあえずひとつ目は終わったな。全員無傷だし上々!」
「そりゃあね〜なんたってあたしは超新星ですから!!」
「みんな強くて良かったです! おかげさまで生き残れましたー!」
「ふふん、頑張ったでしょ」
「ハハッ、お前らあんま調子乗んなよ」
怖っ。さっきまで褒めてくれてたのに。まぁフロンティアにいる以上は、調子乗ってるとすぐにでも死ねるってことなんだろうけど。それにしても気持ちの切り替えの速度がイカれすぎてるよ。あとマラキアとディアがこの余計な一言を無視してるあたり、言われ慣れてそうだね。
「さて、次は滝壺に行くぞ。アルナ、お前は一旦俺の後ろにつけよ」
「はーい!」
アグニ達が受けたギルド直々の依頼。その内容はお楽しみということだったがいったいどのようなものなのだろうか。言われた通り、いつの間にか指が治っていたアグニの後ろにつく。大きな不安と小さな興味を携えて、目的地へと向かう。
「アルナちゃ〜ん! その指ってどうなってるの〜?」
道中、マラキアが振り返って話しかけてくる。
「指? 指は指だけど…… わっ!」
まるで針のように指先が変形している。確実にウッドマンとの戦闘中に変形していたのだと思うが、それがいつだったか、これの戻し方のどちらも分からない。
「お前がウッドマンの胴をぶち抜き始めた時からそんな感じだったぞ。無自覚だったとは思ってなかったけどな」
あたふたしている私に、いつから変形していたのか、その答えを教えてくれた。
……なるほど。おそらく自分のしたい行動に合わせて部分的に効果が発動するようだ。ガジルの攻撃を受け止めた時のように、指先も角張っている。反射的、もしくは本能的なところがこの能力の肝なのかもしれない。
……それはそうとどうやって戻すんだこれ。
「もしかして戻せないの? 私の触手みたいに戻れ〜!とか千切れろ〜!とか思ったらその部分取れたりしない?」
そんな方法で取れるの!? 一体どういう仕組みなんだろう…… 私もやってみるか。
目を強く瞑り、精一杯念じてみる。すると地面に何か重いものが落ちたような低音が聞こえる。目を開けてみると尖っていた指先が崩れ落ち、元の丸い指先に戻っていた。
「前のアンカーもそうだったけどボロッボロ崩れ落ちるのな」
前のアンカー…… あっガジルの時に足から出てたやつ! そういえばあれもすぐに取れてたね! あの時も今も、不要だと感じたら崩れ落ちてくれるのかな?
「そんなことは置いといて、もう滝壺に着くぞ。全員一旦下がってろ」
アグニはそう言って先陣を切る。水が流れているだけとは思えない轟音が辺り一帯にこだまする。そのまま進んだ先、そこには大きな穴があった。その穴に向かって円形に水が流れ落ちていく。思い返せば道中水が流れる様を見ていない。おそらくはこの穴から地下を通って流れているのだろう。
「そんじゃちょっと下がっとけ。……よし、麻痺」
穴を見つめていた私を退かせ、何かを唱える。きっと法術だろう。
「さ、下に降りるぞ。俺が飛び降りたら後に続け」
そう言ってさっさと飛び降りたアグニ。それに続いてマラキアが私の手を握りながら飛び降りる。引っ張られたまま飛び降りるというよりは落下している私の手を、1人では飛ぶ勇気のなかったであろうディアが掴んだことで多少安定する。そのまま3人で手を繋いだまま着地、誰も怪我はしていない。
「これからコア周辺の活性状況の調査を始める。お前らはそのまま3人で行動してろ。周辺の魔物の種類と数の記録、それと処理をしといてくれ」
「りょうか〜い!」
「はい!」
「はーい!」
具体的にはまだ何も分からないが、なんだか重要そうな仕事が始まった。




