12話 活気
本日攻略するのは青級フロンティア【虚脱の木陰】、【堅牢の緑河】と同じ森林型フロンティア。両者の違いは魔物の質、ただそれだけ。
日が昇り始めて少しして、私達はそこに着いた。残りの2人が来るまで体をほぐして待っている。そして指先まで滑らかに駆動するようになった頃、2人が来た。
「今日はよろしくお願いします!! アグニ先輩! アルナさん!!」
柑橘類のような鮮やかな橙色の髪色をした爽やかな男、ディア・シンフォニアだ。
「よろしくねー! アグニさんと〜アルナちゃ〜ん!」
内側が発色の良い赤紫色に綺麗に染まっている紺色の髪の女、マラキア・ラグニアだ。……え、尻尾生えてる!
「悪りぃな、急に1人追加しちまって」
「大丈夫ですよ! むしろ人手が増えて心強いです! それに俺なんかよりずっと強そうですし!」
「あたしも全然オッケーですよ〜。それにこ〜んなにカワイイ子なら大歓迎!! アルナちゃ〜んあたしと仲良くしようね〜?」
もう2人の性格が掴めてきた。健康優良児といった感じの風貌をしておいて、まだあどけなさを残した少年少女のような私の方が強そうだと言ったディア。ビビりというよりは自分に自信がないのかもしれない。マラキアからはコレレとは別ベクトルで私に対する興味関心を持っていることが感じ取れる。というか視線がいやらしい。
「初対面のやつもいることだし、一度全員の戦力把握のためミーティングを行う。自分のできること、自分にどういったポジションを任せて欲しいかだけ話してくれ」
おお、アグニがちゃんと仕切っている。今まで得てきた情報からこういうことのできる人物だと分かっているため意外性はないが、普段の私を執拗に煽ってくるアグニとは全然違うため新鮮味はある。
「俺は衝撃波とか出せるんで後方支援がいいです! というか前衛は無理です!!」
「あたしは尻尾とか、触手とか生やせるから肉弾戦が本領かな〜。前衛後衛どっちもイケるけどー、ディアが後ろ行きたいんなら前衛がいいかな〜」
ディアは本当にビビりだが、こういう場ですぐさま答えられるあたり場数を踏んでいそう。一方マラキアからは自信が可視化されているのかと思うほどに満ち溢れている。2人とも中々面白い能力を持っている。戦っている姿を見るのが楽しみになってきた。
「次お前が言え」
「え、私? えっと、私は……その、体が硬いからマラキアと同じで肉弾戦が本領かな。でも前衛はちょっと怖いから最前線はマラキアにいて欲しい、かな」
「りょ〜!」
軽く二つ返事をしてくれたマラキア、これはとてもありがたい。おかげで多少は安心できる。
「俺は全身どこでも爆発させられるし、ちぎって投げたりもできるからどこでもいける。今回はディアと一緒に後衛をやらせてもらう」
え? 血が爆発物だとは聞いてたけどそこまでグロテスクな能力なの?
「ねぇ、体ちぎって大丈夫なの……? 体は大切にしなよ……?」
「忠告ありがとよ。だが生憎俺は不死身なんだよ。体は消耗品だ」
「えっ」
聞いてないんだが!! 私が皮膚が人間のものじゃないとか、血液が水だったとか気にしてたのバカみたいじゃん!! なんだよ不死身って! お前の方が魔物寄りじゃねぇかよぉ!! というか能力二つ持ちみたいなもんじゃん! ずるいよ!!
「アグニ先輩言ってなかったんですか? というかアルナさんもアグニさんといえばってぐらい有名なのに知らないんすね」
「ね〜。ってかアルナちゃんってどこからきたの〜? いくつ〜? 女の子って好き〜?」
ディア、無自覚に私の情報収集能力の無さを煽ってこないでくれ。あとマラキアは質問してこないでください。怖いです。
「次は今日のルートの確認だ。先にアルナが受けたウッドマンの殲滅を終わらせる。その後に滝壺エリアで俺たちの依頼であるコア付近の調査を終わらせる。これでいいか?」
「はい!」
「問題なーし!」
「……あっ、うん!」
アグニのことを考えていたせいでアグニへの返事が遅れてしまった。お前のせいだぞアグニ。あと話をよく聞いていなかったけど返事をした手前、聞き返せなくなってしまった。何かの調査をするみたいな? そういう感じの話だった気がする。
「それじゃあお前ら、準備はいいか?」
「はい!」
「オッケー!」
「うん!!」
「出発だ!!」
こうして意気揚々とフロンティアに足を踏み入れる。順番はマラキア、私、ディアとアグニ。この形を崩さずに歩いて行くが、私がまだ慣れていないせいで全体の進行ペースが落ちている。申し訳ないとは思っているが、息を切らしていないディア、息を切らさないどころか汗ひとつかていないマラキア、息を切らさず汗もかかずに目を瞑りながら鼻歌を歌っているアグニ。この三者に合わせるのは生後1ヶ月立っていない赤ん坊の私にはキツい。そうして早々に弱音を吐きそうになっているとマラキアが口を開く。
「アルナちゃんってイノベーターになって何ヶ月なの〜? ちなみに私は一年ぐらいで〜ディアも一年半ぐらいだよ〜」
「いや、私はまだ十数日ってところ」
流石に質問に答えるぐらいの体力はまだまだ残っている。だからマラキアの質問に答えてあげた。それなのに何故か返事が返ってこない。
「……アグニさん? アルナちゃんは【虚脱の木陰】に連れてくるには早すぎませんか?」
「俺もそう思います」
ん? 何? そんなにまずいの? 初陣ガジル並みに私に無茶振りしてきたってこと?
「ここってそんなに危ないの?」
「そりゃあもう! 青級の中だとかなりヤバいとこだよ! 特にアルナちゃんのお目当てのウッドマンがヤバい! 傷口に種子を植え付けて身体中に根を張ってくるの!!」
オイオイオイオイ、聞いてないぜアグニさんよ。そんな悍ましい生態のやつと事前情報無しで相対させようとするなよ。既に信頼の負債が溜まってるぞ。
「大丈夫だ。こいつの肌ならウッドマン程度の攻撃じゃ傷つかねぇよ」
「確証はあるんですかぁ?? ねぇ?? というか先教えてくれますか?? 次やったら私怒るよ??」
こいつマジで……。大丈夫って言葉の信頼度を1人でどこまで下げる気なんだ。
「おっ、話してたら来たぞ! アルナ、ウッドマンのお出ましだぞ〜」
話を適当に流したアグニに憤りを覚えながら唐突に会敵する。ウッドマンはその名の通りいくつかの幹が人の形を模すように絡み合って立っている。そしてそれが1、2、3、4 ……待って多すぎ。
「ちょっ、多くない!?」
「殲滅依頼なんだから当たり前だろ?」
ここにきて正論をかましてきたアグニに何も言い返すことのできないもどかしさを感じる。だが、今はそんな感情は不要。見える限りのウッドマンの数はおそらく100を超えている。
「あぁもう!! やってやる!!」
自身に喝を入れてウッドマン達と対峙する。そうして踏み出した一歩は、深く足跡を残した。




