11話 新人
疲れた。あれから数日、私はアグニが厳選してきた依頼を1日3つのペースで消化している。1ヶ月で全部終わるわけがないと抗議しようと思ったが、ずっと私の数倍の依頼をこなし続けているせいで何も言えない。私はまだまだ新人だが、あいつが確実におかしいことは分かる。
「よぉ新人さ〜ん。今日の依頼はもう終わったか〜?」
件の男がギルド内を彷徨いていた私に話しかけてくる。
「終わったけどさぁ……一々煽りながら確認してくるのやめてよね」
「煽ってなんかないさ。ただ新人がこの程度でへばってるのを見ると気分が上がっちまうってだけ」
「きも」
息を吐くように罵倒が出てしまう。だが彼の濁り切った心には何も響かない。こんなやり取りをずっとしている。
「そういやお前、今のところ採集依頼しか受けてなくないか? 戦闘依頼だけ残ってると連戦することになるぞ?」
「それはそうなんだけど……」
目敏い。私が戦闘を嫌がっていることをちゃんと見抜いている。でも言い訳させて欲しい。初回からガジルみたいな化け物相手にしたせいで、戦闘が怖くてしょうがない。
「大方、ガジルレベルのやつとまた出くわすのが怖いってとこだろ? 安心しろよ。緑級はあいつが上限、あいつに無傷で勝てたお前なら何したって大丈夫だ」
「……緑級なら大丈夫って言うけどさ! アグニが渡してきたの全部青級でしょ!! 何の役にも立たない激励しないでよね!!」
そう、この男いきなり難度を一段階上げてきた。ガジルが上限だった緑級とは違い、青級はガジルレベルで中の中らしい。私がこのことに気づいた時、アグニは舌打ちした。私がちゃんと依頼書を読むタイプで良かった〜! ……結局受けることになるんだから何も良くないんだけどね。
「初めて青級に行く時は俺が付いてってやるよ。だから早めに戦闘に慣れとけよ」
「えっ、いいの?」
「そこまで戦闘嫌がると思ってなかったしな。それにイノベーターは戦闘が1番効率よく稼げる」
金のことしか考えていない発言だが、それでもアグニの付き添いというのはとても安心感がある。ここ最近アグニにまつわる噂話に聞き耳を立てていたが、どうやらアグニはイノベーターの間でお助けキャラ扱いされているらしい。フロンティア内で困ったことがあればうだうだと文句を垂れながら助けてくれるという話があったり、依頼を受ける時はアグニと同じ日、同じ場所のものを選べば絶対に死ぬことはないとお守り扱いされていたり彼の人気の秘訣が分かる話でいっぱいだった。そんな彼が自ら付き添ってくれるというのであればこれほど心強いことはない。
「それなら明日行こうかな! 1番難しそうなやつ一緒に行こうよ!」
「俺を便利アイテム扱いしてんだろ。まぁ別にいいけど」
「んーと、このウッドマンの殲滅ってやつが1番良さそうかな? 明日これね!」
「俺を連れていくにはいいチョイスだな。こいつらは俺と相性がいいぞ」
でしょ? 血が爆破物って聞いたから選んだの。やっぱり相性有利なんだ〜。
「……あ、待て! 俺明日引率しなきゃいけないんだった!」
「え〜! 何で〜!」
一緒に行けると思ったのに〜! 引率って何だよ〜! 私の引率もしてくれよ〜!!
「ん? あ、やっぱり行けるかもしれん。行き先同じだわ」
「うっそ! やった〜!」
僥倖!! 私のチョイスは完璧だったね! ……でも初対面の人と一緒に行動しなきゃいけないってことか。大丈夫かな……?
「お前も連いてくるってことでいいよな? いいならあいつらにもう1人増えるって連絡するが」
「ん〜、いいよ!」
私の交友関係を広げるきっかけになるかもしれないしね! もう緊張してきたけど明日はきっと大丈夫!
そう意気込んでいる私を尻目に、アグニは手を耳に添えて話していた。
「よし、もう連絡したから明日の予定は確定したな。俺とお前、そしてあと2人で明日は行動することになる。分かってるとは思うがお前の依頼の他にそいつらの依頼も達成するまで帰らないからな」
「はーい!」
やることは増えたが集団で動けることの方が大きいし、それくらいなら全然構わないよ。
「あらかじめあいつらのことは教えとくか」
「教えて教えてー!」
「1人目、ディア・シンフォニア。こいつは素直な良いやつだ。ただビビりだから頼りになるかと言われたら……って感じだな。」
「へー」
素直だけどビビり……私とキャラ被ってないか? でも私と気が合いそうで良いね。
「2人目、マラキア・ラグニア。こいつは生意気なやつだ。でも実力は本物で、イノベーターになって2ヶ月の間で功績を上げまくってた。超新星なんて呼ばれたりもしてる」
「ほー」
すごい人っぽいか? 2ヶ月でそこまで言われるほどの功績ってどんなものなんだろうか。
「……何でそんな人が青級にアグニまで連れて行く必要があるの?」
「今回の依頼はギルドからの直請けなんだ。だからそこそこ実力があるやつらを集めてるってわけ。内容は……明日までのお楽しみってことで」
「ふ〜ん」
何か嫌な予感がしてきた。ギルドが実力者を集めてまで解決したい案件、絶対にガジル以上の何かがいる。日をズラした方が良かったかもしれない。でももう遅い。連絡はしてしまったし、私もついて行くことに了承してしまった。
「まぁ俺たちがいればお前の出る幕はないとは思うが……一応覚悟はしておけよ」
「……分かった」
不安要素が追加された。ちゃんと忠告されたせいで私がさっきまで思っていた以上の危険性があることが確定してしまった。
不安だ……
自身の不安を明日に持ち越さないように、美味しかった夕食のことを考えて眠る。……明日は何が食べられるかな。明日の気分はお魚かな。
この日の夜は、寝るまでに時間がかかった。
そして翌日、この前達成した依頼の報酬で改築した私の家で目覚める。屋根をつけたが窓がないせいでとても暗い。それにまだ寝具を買えていないからただの板の上で寝ている。睡眠環境を整えることを目標にすべきだったかもしれない。だが以前よりは断然快適、睡眠の質が向上したおかげで今日の目覚めも良い。
「起きてるな。それじゃあ、もう行くか」
「うん!」
いつも通り、私より早く起きていたアグニの後ろを追いかける。その足取りは、重くはなかった。




