ツキペディア更新
斜め上から見た美しい世界2の前日譚。
無事、月の住人として幸せに暮らすようになった元カチカチ山の狸タヌちゃんは、寺子屋の先生として楽しく勉強を教えていた。
ある日、月についてアレコレ予言や透視をする水星人について生徒たちから聞かされる。
それはトンデモナイ者かもしれない!詳しく確認しなければ!あまりにも酷いことが書いてあるのなら、抗議文を送ってやろう。
まずは、ある事ない事書きまくる水星人カサンドラ嬢が管理する《ツキペディア》という百科事典サイトにアクセスするのだった。
ピンポ~ンという呼び鈴が鳴り、狸は一瞬で目が覚めました。
「タヌせんせ〜ぃ!おはようございまーす!
今日ってお休みですかー?」
寺子屋の生徒の声だ!
布団から飛び上がると、寝起きのガラガラ声で寝室から玄関に向かって声を掛けました。
「申し訳ないです!ちょっとみんなで予習しててくれますかぁ!?」
生徒は「オッケーでぇーす!」と言ったあと、すぐに立ち去ったようです。
寝すぎてしまった…。
たぬき全書が面白くてやめられなかったのです!
涎をたらして、寝落ちするまで読みふけってしまいました。
化け学のやり方まで詳しく書いてあったので、ついつい一人で盛り上がってしまったのです。
となり町の化け狸に学んだことが、ほとんど記されていました。
《指の呪文・指の動かし方講座》のページで歓喜の声をあげたのです!
化けるときは、対象を強く思い浮かべて指の呪文を繰り返します。
手の平をくっつけることが始まりで、そのあと両手で三角形をつくる→左手だけ縦に戻す→両手の指を繋ぎ人差し指だけ立てる…。
何に化けるにしても途中まで同じですが、化けの難易度が上がれば速度も上げなければいけないのです。
それはこのタヌ先生、もちろん知っています!
しかし、神狸が言うには人に化けるよりも物に化ける方が難易度は上らしいのです。
ついつい椅子やら扉やらドラムなどなど…遅くまで化けて楽しんでしまいました。
まったく…タヌもまだまだ子供だな!
月では、時間という縛りが無いので寺子屋も自由に出入りしていいのですが、先生がいないと寺子屋の意味がありません。
コーヒーを一杯飲んだら出掛けなきゃ!
この忙しなさも狸は嫌いじゃないのです。
暇なのは真っ平ですから!
授業の御礼にと生徒から貰ったコーヒーマシンは、
狸でも使いやすい逸品で薄い紙に包まれた粉をセットしてボタンを押すだけ!
とっても簡単です。
すぐに香ばしい良い匂いがふわふわぁ〜と漂ってきます。
数秒で完成した飲み物は、主に香りを楽しむ為に淹れている気がします。
なにせ狸は飲み干したことがないのですから!
「はぁーいい匂いです」
ちょっと熱いので、冷蔵庫さんから氷を出してもらいマグカップに入れました。
チロチロ舐めながら、ホッと息をつきます。
「ふぅ…そろそろ行きますか」
狸は身支度を整えると、すぐに目の前の寺子屋へ向かいました。
寺子屋に近づくにつれて、生徒たちの騒々しい声が聞こえてきます。
なんでしょう…?喧嘩でもしているのかな…?
珍しい。
玄関を開けると…
「だってさ!!こんなの許せないよ!」
「そーだよ!神様に言おうよ!」
「まぁそうだけどさーこんな奴に反応しない方がよくない?」
複数の生徒たちの熱い口論がハッキリ聞こえます。
急いで中へ入ると、一斉に狸のほうへ視線が集まりました。
「どうしたんですかぁ?」
「タヌ先生!!聞いてくださいよ!」
「見てもらったほうが早いんじゃない?」
生徒のひとりが、ピンクのスマートフォンを狸の前に差し出しました。
「ん…………?
………………?
なんじゃこりゃぁぁあああ!!!!!!!!!!」
画面を見て、つい絶叫してしまいます。
更に……
こっこっこっ肥えるだとぉぉおお??!!
何を根拠に!
あのカサンドラという悪口野郎がまた更新したようです!
「ぐぬぬぬぬ……許せん!」
「ですよね!moon cafeみんな大好きだもん!」
ふぇ?
もう一度、スマートフォンの画面をよく見ると
《New moon cafe崩壊》と書いてあります。
そっちか!
「なっなるほど…ふむふむ。moon cafeならタヌ先生も昨日行ったところだから。崩壊なんて書かれたらムカつきますね!」
ここは一つ…落ち着いて、冷静に対応します。
「なんでこんなこと書かれなきゃいけないのー!店長絶対落ち込んじゃうよね…」
「ねー…」
生徒たちの暗い顔を見て、心底自分が恥ずかしくなりました。
皆、タヌが肥えようがどうでもいいらしい
「それについては、私が抗議文を送りますよ!このツキペディアってどこからメール送るんですかね?」
スマートフォンに詳しそうな生徒に聞いてみる
「昔は、ご意見箱っていうところがあったんですが、今は無くなったみたいですよ」
「そうそう!文句は受け付けないぞって書いてあるもんねぇ…」
「酷いよなぁほんとー」
生徒たちが更に暗い顔になってしまいます。
「ふむふむ…そうですか…なら」
狸は教壇へ向かいます。
机の内側にある収納スペースに入れてあった、レターセットを取り出します。
「一筆書いてやりましょう!」
「アナログっすねー」
「さすがタヌ先生!!」
「あっでも……」
ひとりの生徒が何かに気が付きました。
「今、郵便屋さん地球旅行中ですよね…」
「ぬぬぬ」
えぇ"〜!!という、ガッカリした声が寺子屋に響きました。
うーむ…どうしたものか。
「じゃあ、私が届ける?」
金髪の人間っぽい生徒が言いました。
「私、普段タクシー運転手やってて水星まで行ったこともあるからさ」
今度は、おぉ!!!!という歓喜の声と拍手が響きます。
「これはありがたい!狸が手紙を渡しますから、君に水星まで送ってもらおうかな!で………今日の授業は抗議文…いや、お手紙の書き方にしましょうか!
終わったらタヌ先生は水星へ行ってきますね」
生徒たちに笑顔が戻りました。
畜生…
覚えてろカサンドラ野郎
絶対許さん
まさか、この狸が水星まで来ることは予言できぬだろう
馬鹿たれめ!
「では、皆さん。黒いボールペンを用意して下さいね〜」
絶対に書き換えさせてやる!
それか…削除させても良いだろう
悪口言われるのは許さん!




