かぐや姫と仲良しタイム
斜め上から見た美しい世界2の前日譚。
無事、月の住人として幸せに暮らすようになった元カチカチ山の狸タヌちゃんは、寺子屋の先生として楽しく勉強を教えていた。
ある日、月についてアレコレ予言や透視をする水星人について生徒たちから聞かされる。
それはトンデモナイ者かもしれない!詳しく確認しなければ!あまりにも酷いことが書いてあるのなら、抗議文を送ってやろう。
まずは、ある事ない事書きまくる水星人カサンドラ嬢が管理する《ツキペディア》という百科事典サイトにアクセスするのだった。
「あーー♡かぐやひめぇ〜」
「タヌちゃん!こっちこっち!」
待ち合わせ場所は、かぐや姫の貢献している服屋さんm.uです。
洋服や靴のことなどよく分からない狸に、かぐや姫がいつも素敵な一点物を見繕ってくれます。
一度も自分で服を買ったことはないのですが、家の押し入れの中はm.uの新作でパンパンです。
とってもラクなので、甚平は気に入っています。
パンダの着ぐるみパジャマもフワフワになった気分になれるので、よく自宅で着ているのです。
どれもプニプニのウエストがマークされない、着心地よい逸品です!
かぐや姫のセンスは本当に良い!
狸からのお礼は、着物にポケットを縫い付けたり、にんにく炒飯を作ったり…つい最近は、マネキンに着ける為の花冠を作って喜ばれたのです!
m.uの出入り口の前で待っていた大好きなひとに駆け寄ると、屈んで頭を撫でてくれました。
「タヌちゃんお疲れさまー!今日は寺子屋どーだった?」
「えへへ〜♡とっても充実していました!
また神様が一番前の席を陣取っていたんですが
それを除けば素敵な一日でした!」
「アハハ〜!神様、タヌちゃんの授業好きだもんねぇ!」
「はぁ…あんまり嬉しくは無いですけど…
最近はおとなしく聞いているだけなので、良しとしてます!かぐや姫はm.uどーでしたぁ?」
ふたりは世間話をしながら、近くのグルメスポットに向かって歩き始めました。
かぐや姫のお気に入りで、《今日のプリン》が大人気なお店です。
店長渾身の新作《BIGプルプルプリン》が登場する大切な日!
そういえば、そんな記念日にタヌったらTシャツで来てしまった!
かぐや姫は、素敵なm.uのキラキラ着物に身を包んでいるというのに…
一旦帰って着替えたい!と思っていると、目的地に着いてしまいました。
「タヌちゃんどーしたの?急に黙り込んで」
「いっいえ!なんでもないです!」
m.uの目と鼻の先に、白い教会のような大きい建物が建っています。
正面には大きい扉があり、そのすぐ上には金色の鐘がぶら下がっています。
ここへ来た当初、かぐや姫に『あの鐘食べられるらしいわよ』と教えてもらいました。
【食べる時間は神聖だ】をコンセプトにしたmoon cafeは、今日も月の住人たちでごった返しています。
「お〜い!かぐやー!タヌちゃーん!」
扉の前で、フカフカの白いうさぎが手招きしています。
「席とってあるよー!」
「うさぎー!ありがとー!」
かぐや姫が答えました。
早く行こー!と手を引っ張られながら、扉の前にある緩やかなS字カーブを描く横幅の広い階段を上ります。
なんとも美しい建物に、なんとも美しい白いフカフカのうさぎ。
そして、身も心もお美しいかぐや姫…
ゴワゴワでぷよぷよの狸は、なんだか場違いな気がしました。
しかし…BIGプルプルプリンがどれくらいプルプルなのか確認するまでは、この食いしん坊たぬき!……帰るわけにはいきません。
「うわぁ〜凄いですねぇ!」
店の中は、実際の教会と似た造りになっているらしく、天井はたぬき池にあった大木のてっぺんよりも遥かに高いのです。
受付があるところは、住人たちが上着や荷物を預ける為に列を作っていました。
やっぱり普段着で来て良かったかも…と、面倒くさがりの狸は思いました。
そのまま真っすぐ歩いていくと、客席エリアが広がっています。
縦方向に四列、ながーいテーブルとながーい椅子が置かれており、沢山の住人が腰掛けて甘味を味わっています。
席は繋がっていて、仕切り等はありません。
うさぎの後をついて行くと、一番奥の端っこに空席が三つありました。
テーブルの上には、綺麗に畳まれた青のハンカチが置かれています。
先日、うさぎオススメのお酒屋さんに行ったとき
横並びに三人で座り、狸は驚きました。
カウンター席と呼ぶらしい。
そのときと同じように、かぐやを真ん中にして着席しました。
「ありがとー!うさぎー」
「ちょうどよく席が空いたんだよー最高だよね!
moon cafeはいつも満席だもん。ほらLiveも目の前で見れるよ」
うさぎはワクワクした表情で、席の目の前にある
一段…二段…三段は床が高くなっているステージを指差しました。
「あれってなんですかぁ?」
得体のしれない機械を指差すと、かぐや姫は「あれはドラムっていうのよ」と教えてくれました。
「叩くと良い音がするのよねー!色んな楽器が置いてあるわね」
「ほぅ…なるほど…。タヌのお腹も叩くといい音がしますよ!!」
かぐや姫が狸の冗談に笑っていると、三人の前に飲み物が運ばれてきました。
「お待たせいたしました!当店自慢のチョコレートドリンクでぇす!」
「え!?まだ何も頼んでいないですよぉ?」
なんの迷いもない失礼な店員に抗議すると、うさぎが狸のほうを見て言いました。
「ここは、すべてお店のお任せなんだよ」
「えぇ!?そんなの嫌ですよ!」
「ふふふ、大丈夫よー絶対全部美味しいから」
食通の食いしん坊狸は『選ばせろ』と悪態をつきたい気分でしたが、かぐや姫の笑顔を見てぐっと堪えました。
勝手に運んできたチョコドリンクとやら…
仕方ない
この狸が味わってやろう
不味かったら容赦しないぞ
泥みたいな色をした飲み物に、恐る恐る口を近付けます。
すると、細長いグラスからふわぁん…と何とも言えない美味しそうな香りがしてきました。
「なっ!なんですか!これ!」
「うわぁー美味しいねぇ」
うさぎはもう一口飲んだのか、うっとりした顔で言いました。
「さっ!タヌちゃん飲んで飲んで」
かぐや姫は目をキラキラさせて狸を見つめています。
「はっはい!の…飲みますよ!」
泥みたいでどうしても緊張してしまいます。
カチカチ山のたぬきだったときに、泥船に乗せられ溺れそうになりました。
あのときの泥の味をまだ覚えているのです。
少しだけ舐めてみよう…
それなら…
なんとか…
勇気を出して、ブルブルしながら小さい舌でペロッとしました。
すると…
「ふわぁぁぁぁああ!!なんですかこれ!!
すっすっすっごく美味です!!!!」
美味しい!
ほんとうに!
泥の味ではありません!
なんというか…柿よりもみかんよりも…
一度蜂さんにお願いして少しだけ戴いた蜂蜜よりも、ずっとずっと甘いのです!
もちろん月に来てから、たくさんの珍しいものを食べましたが、何よりも美味なのです!!
「チョコドリンクうめぇ〜〜」
美味しすぎて涙が出そうです。
「ふふふ そうだよね!わかるー!美味しすぎて泣きたくなるわよね!タヌちゃんもチョコが好きで良かったわ!」
かぐや姫は嬉しそうに狸を眺めていました。
いつだったか…
そうだ初めて出会った日だ
かぐや姫と隣でお茶をしたいと話したことを思い出しました。
なんて幸せ者な狸なのか!
父狸、母狸!ター坊は幸せです。
ほんとうに…とっても。
叶えたかった夢が、こんなにも早く叶ったのだから。
ドリンクを持ったまま、ボーッとしていると隣に座ったひとたちの会話が耳に入ってきました。
「ほんとねー信じられないよね」
「カサンドラ嬢も堕ちたよね、起こってもいないこと書いててさー」
カサンドラ……?
あぁ……
あぁ!
あの悪口野郎のことか!
ったく、せっかく忘れていたのに!
「どーしたの、タヌちゃんったら」
ドリンクを飲みながら、あまりにも可愛くない顔をしていたらしい
かぐや姫が覗き込んでいる
「ツキペディアなんて閉鎖されればいいのにねー」
かぐや姫とうさぎは隣のひとの大きい声に注目しました。
「ツキペディアがどーしたんだろうね?」
うさぎが口を開きます。
ふと見ると、口の周りの白いフカフカにチョコドリンクをたくさんつけていた。
「ね、なにかしら?」
「寺子屋の生徒から聞いたのですが、カサンドラというツキペディアの管理人が月のことをあれやこれや書きまくってるんですって」
今日あったことを、ふたりに話します。
「え!そうなんだ!」
「うわっうさぎ汚いわね…もう」
かぐや姫は、おしぼりでうさぎの口の周りを拭いてあげています。
「今日初めてサイトを見たんですが…酷いもんですよ。月は孤立する!とか書いてました」
「なによそれ…孤立なんかしてないわ」
「そうですよね!
カサンドラという奴は、予言や透視をして書いているんだとか…。ほんとうなんでしょうか?」
「うーん…僕には分からないけど、でもツキペディアって事実しか書いていないから信頼されてたのにね。サンタも見てたし!」
うさぎが口を拭かれながら言いました。
「全く…トンデモナイ者ですよ」
「ツキペディア離れが進みそうね〜」
かぐや姫はおしぼりを畳みながら言います。
「ぜっったい許せません!抗議文送る予定です!」
「そんなに?!ほっとけばいいよー
なんでそんなに怒ってるの??」
うさぎが聞くと、狸は黙りました。
肥えていると書かれたからだ、とは格好悪くて言いたく無かったのだ…。




