【 外伝 】第11話 古代の遺物と伝説
こちらからの合図でイブシがルーン文字の刻まれたレバーを下げる。
扉の文字が「 ブオォォーン 」という低い振動音と共に、禍々しい青白さに輝きだした。
「 パシュゥゥゥー! 」
一瞬、激光が弾けると、空気が抜けるような音と共に光が失われていく。
仲間たちから漏れるざわめきと動揺。ドンは口をぽかんと開けていた。
「 ゴゴゴゴゴゴゴゴゥゥゥ…… 」
扉が悲鳴のようなうなりを上げ、重々しく下がっていく。
「 いいか! お前らビビるんじゃないぞい!…… あいやw 間違えた。ワシが一番ビビっておるわい! www 」
軽妙な軽口に、緊張で強張っていたみんなの肩が小刻みに揺れる。
( 本当に仲間になってくれて良かった。……親友よ、ゆっくり休んでは、いられないようだな。 )
幾度の死地も、この冗談で場を和らげ皆んなを支えてきた、奴の芯の強さが光る瞬間だ。
ドンは、シャルーク様を目指していると、常に公言している。
その男気が溢れ出す局面だ。
( ありがとう親友! )
脂汗を滲ませるドンと強く握手を交わすと、私は彼から託された巨大なカイトシールドを掲げ、先陣を切った。
改良爆裂瓶を持つイブシたち、精鋭10名。
足元が青白く発光し、人がすれ違える程度の狭い通路を左へ左へと進む。まるで神話の迷宮だ。
( これはいよいよ、ちびっ子探検隊の出番だなw )
留守を守る子供たちと相棒の笑顔が脳裏をよぎり、目頭が熱くなる。
頭を振って雑念を払う。行き止まりの左手に、先ほどと同じ扉が現れた。
イブシが私を見て大きく頷き、レバーを叩き落とす!
「 パシュゥゥゥー! ゴゴゴゴゴゴゴゴゥゥゥ…… 」
扉が青白く明滅し、沈んでいく。
嫌な予感が皮膚を刺す。足を踏み入れた先は、途方もなく巨大な空洞だった。
高音の残響からして、天井までは10メートル以上ある。
全方位が漆黒の闇に塗りつぶされていた。
その瞬間――!「 シューーーゥゥゥ、シュ! 」
背後の扉が猛烈な勢いで閉まり、気密が保たれる不快な高音が響く。
直後、部屋全体が青白く発光した。
「 ……なっッ!? 」
目が慣れるにつれ、そこに鎮座する「 それ 」の姿が露わになる。全員の息が止まった。
イブシの喉から、恐怖と戦慄に引きつった声が漏れる。
「 ば、バカな……!? バーン様! あれを……! 」
「 な……なんだ、あれは……!? 」
天井スレスレにそびえ立つ、体長10メートルを超える黒鉄の巨大金属兵士。
神話で一国を数日で滅ぼしたとされる伝説の巨人兵だ。
異様なのはその頭部だった。無数の肉厚なコードや太い肉管のような紐が絡みついた異様な兜。
そこに…… 半ば肉体に埋もれるようにして、ギャンリックが搭乗していた。
ギョロ目を剥き出しにしたまま、放心状態で沈黙している。
動けない。圧倒的な死の気配に、全員が生唾を飲み込むことすら忘れていた。
ズズ……とゴーレムの全身から赤い閃光が放射状に放たれ、室内を舐めるようにスキャンしていく。
身体を透過した赤光に何事かと身構えた――その時!?
『 コード999。シンニュウシャヲ、ハッケン。ハイジョシマス。 』
機械の全身に刻まれた極細のルーン文字が一斉に高出力で輝き出す!
「 みんな!!構えろ!!! 」
喉がちぎれんばかりの声で叫ぶ。
『 キケンジンブツカラハイジョシマス! 』
「 私がアレを引きつける!イブシ!その間に脱出方法を探せ! 散れ!物陰に隠れて戦うんだ! 」
渾身の氣を四肢に巡らせ、ドンの大盾を構える。
――その瞬時!?
巨体からはおよそ不釣り合いな、空気を置き去りにする超音速の踏み込み。
巨兵が低い姿勢から繰り出したのは、死角を切り裂く極大の『 アッパーカット 』だった。
( はっ!?速―― )
思考すら追いつかない。視界の全てが、鉄の拳で埋まる。
――「 ガッキィィィィン!!!! 」
衝撃波で鼓膜が弾け飛ぶ!
ドンの大盾を介して伝わったのは、
山が崩れ落ちてきたかのような超質量だった。
「 メキメキメキッ! 」と、大盾を支える左腕の骨と関節が悲鳴を上げ、凄まじい音を立てて軋む。
直後、頭の内部で脳がぐにゃりと揺れ動く強烈な衝撃! 視界が揺れ、左腕が完全に破壊された。上下左右の感覚が一瞬で吹き飛ぶ!
視界に流れる残像! 自分の体が真横へ一直線に、弾丸となって吹き飛んでいく滞空感!
「 ズザバァァァン!!! 」
――「 うぐぁッ……!? 」
壁際に積まれていた穀物の麻袋群に盾ごと激突し、深く没入する。
激痛で息が吸えない。だが。。。生きていた。
ドンの魂である大盾が衝撃を殺し、麻袋のクッションがなければ壁の肉片となっていた。
歪みきった大盾を見て、全身から冷や汗が噴き出す。
「 ウオオオォッ! 」
狂乱した仲間2人が、導火線に火をつけたアブー特製爆裂瓶を投げつけた!
「 !? 隠れろ! 耳を塞げぇ! 」
叫ぶのが精一杯だった。
「 ドドォォォーン!!! 」
「 ……ど、どうだ!? 」
煙の向こうを凝視する。
しかし――
『 |キケンブツヲケンシュツ《危険物を検出》。 』
ゴーレムは掠り傷一つ負っていなかった。
だが、爆炎の熱で判断回路が狂ったのか、巨大な手のひらを爆薬を投げた二人の仲間へと向けた。
!?――「 ブワッ。 」
掌の砲口が赤く熱を持った瞬間、空間そのものが異変を起こした!
部屋全体の空気が狂ったように加熱され、密閉された巨大な建造物全体が、
鍛冶屋の炉に入ったかのように......
「 ジジジジジジ! 」と小刻みかつ不気味に超振動を始める。
壁の石材から水分が蒸発し、白煙が立ち上る。
「 ヒッ……!?ピシュュューーー! 」
放たれたのは、細く繊細ですらある一筋の極高熱線。
その光線が触れた瞬間、二人の仲間の衣服と肉体が一瞬で朱熱の炎を上げて爆発的に発火!
一秒も経たずに貫いた!?
光線は止まらず、そのまま背後の分厚い要塞の壁すらも、真っ赤に溶かし切り裂いていく!
糸が切れたように崩れ落ちる二人。
焦げつく肉の臭いが充満する。
ゴーレムの頭部から、ノイズ混じりの奇妙な声が漏れ出た。
「 ヤメロ…… オレサマノタカラガ!……コウゲキ……ヤメロ……
コード1、|メイレイヲジュリシマス《命令を受理します》 」
( 何を言ってる? くそっ、やるしかない! )
「 みんな! 頭部のギョロ目を狙え! 限界ギリギリまで引きつけて投げるんだ! 」
「 おうっ!! 」
イブシと私以外の6名が、残り8瓶となった特製瓶の導火線に一斉に火を灯す。
「 3・2・1…… 今だ!! 」
「 ドドドドドォォォーン!!! 」
爆風が天井を突き破り、黒煙と共に外の光が射し込む。壁に無数の鉄屑が突き刺さる!
眩い太陽の光が煙を割ってゴーレムを照らし出した。
搭乗部で、血まみれのギャンリックが煙を上げて垂れ下がっている!
「 や、やったか……? 」
「 プシュー! プシュー! 」
なおも作動を止めないゴーレム。
しかし、頭部の損傷により完全に制御を失ったのか、狂乱するように巨腕を振り回し始めた!
「 タ、タスケテクレ……!オレサマヲココカラ……カイホウシテクレ! 」
巨大な拳が天井や壁を乱だれ殴り、破壊する。
それは攻撃というより、もがき苦しんでいる悲痛な暴走だった。
「 タスケテクレ! イヤダ! タスケテ! 」
「 ズゴン! 」と天井の支持力限界を超えた大穴を殴り開け、ゴーレムはバランスを崩して膝から崩れ落ちた!
「 ガシィィィ〜ン! 」
( チャンス……! 今度こそ仕留める! )
「 イブシ! 畳み掛けるぞ!!! 」
「 3、2、1、行くぞッ! 」
「 ドドドォォォーン! 」
直射された改良瓶がギャンリックの直近で破裂。炎が天井の大穴から空へと吹き荒れる。
煙が引くと、ギャンリックの頭部は半分が吹き飛び、頭部を縛っていた不気味なコード類も焼き切れていた。
( か、勝ったか……!? )
全員が剣を構え、沈黙した巨兵を固唾をのんで見つめる。
その時...... !? 「 ガシン! 」




