【 外伝 】第9話 鉄壁最後の英雄譚
ドンはすでに鋼鉄の香りと共に、爆発的な氣を放ち城壁が小刻みに揺れている。
奴の体から溢れ出たそれが、周囲の空気を濃縮しながら光を放ち防壁の質量に変えていく。
ドンは吠える!鼓膜を震わせる轟音と共に、文字通り誰も突破できないだろう『 鉄壁 』の如くの分厚い氣脈が発現!
ギャンリックが ( ビクり) と身じろぎ、奴のギョロ目に明らかな恐怖が広がっていた。
それでも、口元は不敵な笑みを崩していない。
「 いいか?ワシが突進したら、皆を通路の右側に伏せさせるんじゃ! 」
奴は、視線をギャンリックから外さず、イブシと私に語りかけると、前に出る。
「 はっ、ドン様! 」
私は未だにショックから立ち直っていない。
黒煙が薄っすらと立ち込める眼前に相棒が高らかに笑い出てこないかと、探し続けている。
イブシが重装歩兵に話し掛け、後方に手振り身振りで指示を出していく。
ドンは、それを確認し三つ編みのヒゲをひと撫でしてうなずくと、前に出る!
「 おい!ギャロ目の大将!ワシが相手してやる。掛かって来い! 」
ギョロ目をさらに大きく見開き悪役さながらの歪んだ笑みを浮かべ、奴は叫ぶ!
「 もう勝ったつもりでいやがるのか?
お前ら吹き飛ばせば、俺さまの勝ちだぜぃィィー www 」
私は、イブシに肩を抱えられ通路の右側に倒され頭を押さえつけられた。
ドンが雄叫びを上げ、ピンクの三つ編みのヒゲを振り乱しギョロ目の大将に突進していく!
「 ピンチの時こそ、ワシの出番じゃわい!輝く時じゃわい!
うおおぉォォおおぉォォーーー! 」
ひたすらに猛進していく!
ギャンリックは左腕を構えニヤリと叫ぶ!
「 死ねえぇェェーーい!オスマトルの英雄なんぞ、このギャンリック様が、全滅させてやるぅゥゥー! 」
「 くそ!届かぬか!しかし、させるかぁァー!盗賊風情がァァー! 」
至近距離まで詰める。しかしドンは、右足を振り上げると勢い良く、床を踏み抜く!!!
左足のつま先を我々の後ろ床に突き立てる!
盾を構え両腕で、それを支え氣を爆散させた!
氣が足、腰から背骨を通り両腕の盾に集中して、輝きを放つ黄金色のオーラ!
( すごい!?一段と磨き上げている! )
その刹那!?
ギョロ目の左腕が閃光を放ち、ドンと共に視界は、爆炎に包まれる!!!
「 ズゴゴゴゴゴゴゴーーーーーン!!! 」
恐ろしいぐらいの熱気と赤い炎が迫ってくる!
目を閉じ顔を伏せていても感じてくるほどだ!―――
「 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーー!!!
―――熱い。泥を塗った髪の毛が「 チリチリ 」と灼熱の熱さと共に音を立てている。
背中に感じる爆風と共に、超高温の熱波が襲ってきた。マントが「 バタバタ 」となびいている。それが焼き切れ吹き飛ぶ音がした。
悔しいが、我々はここまでか。
作戦も段取りも完璧だったはずだが、ギャンリックの武力が我らを上回っていただけの話。
無念だ。悔しい。まだまだ夢を見続けたかった。
( ドン...... あの至近距離では......
ピエー様...... この場にいなくて良かった。)
「 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴー! 」
建物が激しく揺れ、瓦礫が落ちる中、意識が遠のいていく......
( ジブラ、お前は無事でいてくれ。
相棒、私も...... )
視界が真っ白になって......
......
「 ......バーン様! 」
「 大丈夫ですか!バーン様! 」
!?――意識を失っていた?
「 な、なんだ?イブシ? わ、私は? 」
ここは、天国なのか?地獄なのか?
私は顔を持ち上げる。髪の毛の焦げた匂いが鼻を突いた。黒煙が立ち込めていて咳き込んでしまう。
しかし、後方の仲間たちが、呆然とした面持ちで、次々と立ち上がる。
( みんな...... 何故生きて......? )
「 パラパラ 」と天井の壁が落ちてきた。
ふと見上げれば、左側の城壁が数十メートルに渡り吹き飛んでいる!
建物の粉塵と黒煙が漂いながら、外の強風に吸い込まれるように流れていく。
まるで立ち込めたギャンリックの邪気を吸い出すように。。。
暗黒の火薬臭の向こうには悠然と白銀色の閃光を放つ、夜の女王だけが我々を優しく微笑んでいた。
未だに建物は振動のうねりの叫び声を上げている。
叫び声で思い出す。戦闘中だった。
( そう言えば、あの悪党の声がしない。
いや...... 謁見の間で怒号を上げている! )
「 な、何故だ?どうして?我らを一気に蹂躙しないのだ? 」
事態を飲み込めていない私にイブシが肩を揺すり話しかけてきた!
「 バ、バーン様!ドン様が! 」
!?
黒煙が立ち込める中、真っ黒な仰向けになった人間が倒れていた。
辛うじて煤だらけのカイトシールドで、奴だと分かる―――
「 ドーーーン!!! 」
―――自慢のヒゲも、愛娘のピンクのリボンも、手入れの行き届いていた鎧も、すべてが真っ黒な煤と灰にまみれていた。
右腕は肘からあり得ない方向に曲がり、右膝から下は吹き飛んでいる。
煤と固まった黒い血にまみれ、息をするたびに胸が痛々しく上下していた。
駆けつけた仲間たちが膝をついて絶望に泣き出す。
だが、イブシだけは違った。
悲痛をこらえ、後方へ指示を出すと、自らは謁見の間へと向かっていく。
( 本当にすごい漢だ。それに引き換え、私は…… )
完全に心を折られ、項垂れる私に、掠れた不協和音が届いた。
「 カハッ......ッ、ゴホッ! ...... 何しとる...... バーン! 」
「 なっ!? 」
「体制を...... 整えんか。カハッ。カハッ...... 喉を焼かれた。声が......うまく出んな。だが、あの頃みたいに...... 縮こまるな! 」
声は掠れ、一語一語を吐き出すたびに口から煤の混じった血を吐いている。
私はそのボロボロの体の元へ崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
「 ド、ドン!? 」
「 カハッ!...... い、今のお前は...... あの頃の『 泣き虫バーン 』か? 立ち上がれ......今ここだ。ここが輝く時じゃ 」
「 ド、ドン...... 喋るな、もう喋らないでくれ! 」
みんなが、涙ながらに奴を見る。
ドンは、その様子を見て、煤と血で汚れた顔で痛みに耐えながら不敵に白い歯を覗かせた。
「 ......カハッ、みんな、赤髪の大将が...... 外へ散歩に行きよったわ w
たまには...... ワシらの底力を...... 見せてやろうぞ…… 」
息も絶え絶えの、しかし力強い言葉。
皆んなの瞳に希望の光が灯りだす。
元メンバーが私の肩を叩いてくれた。
後方の部隊に雄叫びを上げ、連動していく。
腕利きの医療メンバーが「 任せろ! 」と言わんばかりに胸を叩きドンの治療を開始する。
さっきのドンの言葉が私の心を鼓舞し続けていた。
( 私も相棒やドンみたいに輝けるんだろうか? )
大きく息を吸い込み深呼吸をする。
両方の頬をアブーの真似をして叩き、気合いを入れ直そう!
「 ビシン!ビシン! 」
医療メンバーがドンに、鎮痛剤を水に溶かし飲ませている。
もう1人の医療班が、傷口に消毒酒を吹きかけ、苦痛の声を上げるも、こちらを見て白い歯を見せニヤリと笑った。
「 うううぅゥゥ...... 大親父様から偉大な二つ名を賜った男。踏ん張ってくれ...... お前が最後の希望じゃ 」
私の目尻から一筋の涙が、静かに月夜に光り、闇に溶けた。
( なんて男だ。胆力が違う...... )
呼吸を吐き、大きく息を吸って氣を立ち上げた。
今出来る、精一杯の笑顔を作る。
「 ああ!我が親友ドンよ。わかった。任せてくれ。
二つ名に恥じぬ鉄壁ぶりだったよ。ありがとう。お前は英雄だ! 」




