【 外伝 】第7話 猛牛の英雄譚
【 再び、次男の西の包囲部隊 】
仲の良い兵士は思う。
( 若様は踏ん張って、良く指揮していらっしゃる。。。)
しかし、円陣の外では、突風が吹き荒れる中、盗賊たちの下卑た笑いが闇夜を震わせる。
「 ギャハハハハァァーーー! 」
「 腰抜けの青二才どもが! 」
( くそっ!くそっ!この数には敵わないか......しかし負けるな俺は鉄壁の息子だ! )
俺は必死の鼓舞を放つ!
鉄と鉄がぶつかる音。
盾が弾け飛び、誰かの断末魔。。。
奴らの下卑な笑い声と、怒号が鳴り響く。
生暖かい汗と血の臭いが、風に乗って鼻腔を刺してくる。
兵士たちは肩で息していた。俺の槍を握る手から汗が滴り落ちる。
突風が吹き荒れ、時より顔を見せる月明かりだけが、静かにそれを照らしていた。
その時!?
――ドン。
......
仲間が足を止めた。
( 北側か? )
盗賊の笑い声が、一瞬だけ途切れる。
森の木々が、不自然に揺れた。
――ドン。
今度は誰もが聞いた。
地の底から響くような重い振動。
足裏から腹へ。
腹から背骨へ。
鈍い震えが身体を突き上げる。
「 ……なんだ? 」
盗賊幹部の一人が呟く。
返事をする者はいない。
――ドン。
――ドン。
地面が、まるで巨大な心臓の鼓動のように脈打ち始める。
砂が跳ねる。
小石が震える。
折れた槍が、カタカタと音を立てて転がった。
俺たち円陣中心の全体が静まり返っていく。。。
強風の中に流れる暗雲が、次々と夜空を包み隠していたが、今は全てを吹き飛ばし、月が白銀色に、輝いている。
雲が、その近づいている鼓動の振動に逃げているように見えた。
次男の部隊を殲滅させかけていた盗賊たちに戦慄が走る!
その光の中に、一つの巨大な影が浮かび上がった。
最初に見えたのは。。。
月光を鈍く反射する、二本の尖頭だった。
まるで神話の魔物が、そのまま歩いて来るかのような巨大な角。
続いて、
岩山のような肩。
大木の幹よりも太い腕。
一歩踏み出すたび、大地が低く唸る。
盗賊たちの喉が ( ゴクり ) と鳴った。
敵の幹部が呟く。
「 う…… 嘘だろ…… 」
側近の盗賊が目を見開き、震え出す。
「 あれは…… 」
下っ端の盗賊が剣を手から滑らせ慌てる。
「 そんな馬鹿な…… 北の本陣じゃ無かったのか...... 」
一人の盗賊が悲鳴を上げて逃げ出す。
乾いた金属音が、異様なほど大きく響いた。
別の男は尻餅をつき、後ずさる。
誰も近付こうとしない。
いや、近付けなかった。
応戦なんて出来るはずもない。。。
近付いた瞬間、自分が ”獲物 ”になると、本能が理解してしまったのだ。
そして―――
―――その巨人は、巨躯の身体を物ともせず、常人では不可能な空中から片手に掴んだ盗賊の顔を地面に叩きつけ、着地する。
そして、地鳴りのような憤怒の爆発的な氣が周囲に充満し、盗賊たち、味方までもが次々と失神していく。
その漢は...... その修羅のオーラを抑えているか如くに、静かに顔を上げた。
月光が、その兜の双角を光眩しく照らす。
...... 次の瞬間!?
腹の底をえぐるような唸り声が。。。
大地を揺らし始める。
「 ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォー! 」
両腕を左右に広げ、目を見開く!
「 おい...... コラ!テメェら...... オラの子供たちに……
何やってくれてんだあぁァァーーーーーーッ!!!」
その修羅と化した怒りに震える全身から憤怒の氣が爆散する!!!
空気が震えた。
森の鳥たちが一斉に飛び立つ。
木々がざわめき、爆風が吹き抜ける。
兵士たちは思わず耳を塞ぐ。
盗賊たちが、白目を剥き次々と倒れる!
耐えた者たちの顔から、下卑た笑みが完全に消えた。
代わりに彼らの脳裏に浮かんだのは。。。
底がない...... 絶望だった―――
―――神話の【 大地のブルザーク 】。
その異名を持つ男。
【 猛牛ジブラ 】が、ついに西の戦場へ降り立った!!!
月明かりに照らされた兜が伝説を予感させる。
その巨大な影がゆっくりと盗賊たちに歩いてきた。
北からの援軍を引き連れて。
憤怒の心を抑え無言だが、軍足の足音が圧倒的に場を支配し始める。
その時!?
北の本陣から大太鼓が鳴り響く!!!
「 ドン!ドン!ドン!ドドド、ドン!!! 」
北側の俺たちと同じく孤立していた部隊が一気に雄叫びを上げた!
ジブラ様が引き連れ来た無言だった部隊が憤怒の溜まりに溜まった怒号を張り上げる!!!
「 うおおぉォォおおぉォォ〜〜!!! 」
「 こ、この鳴らし方。。。兄貴。兄貴なのか! 」
俺の涙腺は一気に崩壊した。
盗賊たちが震え次々と瓦解していく。
親父からいつも聞かされていた『 阿吽の呼吸 』が。。。今ここに。
怒れる猛牛が一気に優しい顔になり近づいて来る。
「 次男坊!よく持ちこたえてくれた!
流石、鉄壁の息子だ!
偉かったぞ!オラの子供たち! 」
「 じ、ジブラさま...... 」
本陣からの大太鼓が鳴り響く。
「 うおおぉォォおおぉォォ〜〜!!! 」
味方全体が巨大な一匹の猛牛の如くの雄叫びを上げた!
俺たち円陣のわずかになった兵士も湧き立つ!
ジブラ様が俺の肩に手を置く。
「 すまなかった。オラが悪かった。まだ泣くんじゃない。泣くのは終わってからにしろ。ほら指揮をしろ!次期 鉄壁様よ。 」
「 は、はい。 」
俺は涙を拭うと、号令を張り上げた!
「 行くぞォォォー兄弟たち!勝つぞォォォー 」
「 うおおぉォォおおぉォォ〜〜!!! 」
ジブラ様はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、茂みを睨みつける。
「 おい出てこい!また逃げるつもりか?4本剣のギャンザック!!!
オラは貴様を捻り潰しに来ただけだ!!! 」
すると茂みから奴は姿を現した。
「 ギィーキッキッキ!それはお前が鈍牛すぎるからだギャ!www
また、鬼ごっこでもしてやる! 」
その時、またも大太鼓が鳴り響く―――
―――すると更に!?
盗賊たちが逃げていた南戦線から、大太鼓に呼応するように憤怒の雄叫びが一斉に上がる!
「 グモオオオォォォーオォォォー!!! 」
見れば、怒れる2本の角を振り上げ大男が戦鎚を振りかざし、
猛牛の如くの体躯が月夜に照らされる!
巨大なマントが強風になびいて強者の風格を漂わせていた。
「 ジブラ様がもう1人!? 」
月に照らされ隣に立つ、側近の大男が怒号を張り上げる!
「 我ら猛牛のジブラ軍を舐めるな!
踏み潰してやる!!!全軍突撃だ!
蹂躙してやれぇぇーー!!! 」
「 グモオオオォォォーオォォォー!!! 」
憤怒の雄叫びを鳴り響かせ、地響きで大地が揺れジブラ軍が、盗賊たち部隊に雪崩込む!!!
しかし戦鎚を振りかざしていた、もう1人の猛牛はプルプル震えていた―――
―――側近の副将軍がニッコリと優しい顔で話しかける。
「 猛牛さま w さあ!前進いたしますぞ! www 」
プルプル震えたもっちりした腕。
ぽっちゃり、むっちり、ふっくらボディの猛牛は口を開く。
「 あの〜。もう腕が限界。このポーズ何回するんですか?もう100回以上も上げ下げしておるんですが?もう無理なんですけど? 」
側近の猛者たちが優しい顔で、ぽっちゃりボディを見つめている。
副将軍が、優しく話しかけた。
「 勝つまでですぞ。猛牛さま www 」
もう1人の将軍が口を開く。
「 さあ!猛牛さま。ここが正念場。
10mピッチで決めポーズをお願いいたしますぞ! www
我ら猛牛のジブラ軍ここにありと盗賊たちに分からせてやりましょうぞ! 」
「 それって超BADじゃんよぉォォ〜www 」
みんなが、温かい眼差しで『 ぽっちゃり猛牛 』を見ている。
癒されて、やる気がみなぎっているようだ。
誰もが笑い、雄叫びを上げ始める。
ジブラ軍の結束が今!更に強まり勢いついたという。




