西と東、陽と陰
真夏の太陽が容赦なく照りつける。
砦の石壁が白く熱を帯び、
触れれば火傷しそうなほどだ。
足元の石畳が靴底に熱を伝えてくる。
海は眩しく輝き、
遠くから聞こえる波の音が誘うように響く。
港町の人口は順調に増えていた。
父の可愛い嬉しそうな顔w
バーンおじさんの穏やかな笑み。
……どちらも印象的だ。
アハルの町をざっくり説明すると、
私の家もある砦と港がある所から、
南西へと続く海岸線を見下ろす。
抜けるような青い海と、
小さな個人商店と民家が立ち並び、
古くからの漁港が点在する。
私と同じ頃合いの子供達が追いかけっこして遊び、
小さな港には、
潮風に晒されて銀色に褪せた木造の漁船が並び、
潮の香りがする網を繕ったり、
生臭い、獲れたての元気な魚の仕分けを一生懸命している。
こちらでは、香ばしい香りを放つ焼き魚の匂い......
午前中にも関わらず、
お酒を飲み、魚をつまみに、
楽しそうに話をする老漁師たちの長閑な情景が広がる元からのアハルの町。
一方、砦から東側の入江にかけては、
一変して新しい色に溢れている。
サロスや近隣の町、国などから、
アハルの噂を聞き、
希望を胸にやって来た移民達。
急ごしらえで建てた赤瓦の家々や
テントの布が風に鳴る。
土煙が舞い、職人達の放つ作業音が絶えない。
兵士や職人と共に、
新たに加わった2千人の夢や希望が、
活気となって陽光の中に舞い上がっている。
この地区の商魂溢れる人々は、
西側ののんびりした感じとは異なり、
色々な商材で互いを魅惑しあう。
我々ちびっ子探検隊は――
この時、衝撃の食べ物を目にする事になる......。
鼻をくすぐる、肉の焦げた匂い。
胡椒では無い......クミン? コリアンダー?知らないスパイスの刺激。
口の中に勝手に唾液が溢れる。
肉だ!お肉だ!串焼き肉だ!!!
太い木串に刺さった肉片が、
炭火の上で「 ジュージュー 」と音を立てて縮む。
脂が滴り、炎が一瞬高く上がる瞬間。
……ヨダレが止まらないww......
しかし肩落として、
砦にとぼとぼ重い足取りで帰るちびっ子探検隊......
「 そもそもお小遣いをもらった事が無いから買えないのさwww 」
その年の夏には、いろいろなイベントが発生する。
港の堆積泥の除去が終わり、
北の砂漠の大国ラハビア《ラハビア》から商人が来た。
これには父が大喜びして、
連日、我々も連れて港に入り浸る。
( こ、この片時も忘れる事の無かった香りは?...... )
串焼き肉の露店までもが港に進出......。
父におねだりするも、
申し訳なさそうな顔と共に、
両手を広げ、
肩をすくめ断られた......。
( ぐぬぬw......
ま、まぁ仕方あるまい......。
高いしな......。
母にお小遣いをおねだりして
コツコツ貯めるしかあるまいw )
またそれだけで無く、
色々な露店が並び、
人々が行き交い、
店主が景気の良い声を張り上げる。
その熱気と美味しそうな香りが、
子供ながらに、
お祭りのような雰囲気に感じ、
心が踊っていた。
父と同じ年でよほど馬が合うのだろうが、
毎日の様に懇意に話をしていたラハビアから来た商人の名は、
アリー《アリー》と言う。
カッコ良くは無いが、
頭は良さそうで、
スマートな体躯の持ち主。
彼は、ツンと鼻を突く香辛料のスパイシーな香りが漂ってくる、
いかにも異国の商人!みたいな人物。
その出立ち(いでたち)の珍しさで、
しばらく、子供たちのからかう対象となっていた。
そして我々はこの時、初めて実物の大型の帆船を見る。
当然の様に港周辺の子供達の間では、
船乗りの冒険ごっこが、あちらこちらで繰り広げられていた。
これには、
本家本元の我々ちびっ子探検隊だって
負けてはいられない!
相方たちと興奮して船に乗り込もうとするも、
すぐに捕まり怒られていたwww
しかしこのアリーがもたらした香辛料が、
潤沢に流通し始めると、
どこから聞きつけて来たのか?
お師匠からの情報によると、
東のフリージア諸国連合の大都会と言われる、
ザノバ《ザノバ》からも交易船が入るようになり、
アハルの港は夏の強烈な焼けつく日差しと共に、
益々、その熱気に拍車を掛けて行くのだった―――
しかし良いイベントばかりではない。
新設された東の入江付近の住居区で、
疫病が発生し始める。
父たちは迅速に、首都から名高い祈祷師を呼ぶ。
港の広場は、その夜から―――
それまでと全く違う異様な熱気に包まれた。
三日三晩、浄化のかがり火が天を焦がすように高く燃え上がり、
炎の柱が夜空を赤く染め上げる。
みんな真剣に、そして一心に祈っていた。
( しかし、みんなは気づいているんだろうか? いや、わかっていないなw
あまり意味がないことを......)
中には祈祷によるプラシーボ効果と元からの免疫力の強さで回復する者もいたが、
全員が全員そんな体質や心構えを持っているはずもない......。
事態は深刻になっていく。
東地区の街から楽しげな会話は消え、
聞こえるのは沈黙を破る風の音と、
病人の呻き声だけ。
死臭漂う絶望的な状況下で、
疫病の原因が「悪魔」や「呪い」だと噂が流れる。
人々が悪魔が乗り移ることを恐れ、
互いに疑心暗鬼になっていた。
当然、アハルで一番活動的と言われた、
我々ちびっ子探検隊もこの地区への冒険は、
父たち、兵士たちに厳しく禁止される。
アリーがもたらした、
スパイスの芳醇かつ賑やかな、
豊かで活気ある香りは、
今やこのほのかに漂う腐臭に完全にかき消されていた。
そんな中、
私は何をしていたかと言うと、
文化や風習が全く違う大人たちに、
監督業で培った衛生管理の概念を、
どう伝えれば理解してもらえるか、
それを必死に模索している。
そして最大の難関は、
たった五歳の小娘である私が、
それを信用してもらい、
大人たちに効率的に実行させ、
疫病防止に役立てられるかどうかだ。
子供の戯言と思われないよう、
誰に味方になってもらい、
どんな順序で計画を進めればいいのか?
そんなことを、頭をフル回転させて
ミッションに挑むのだった。




