【 外伝 】第2話 闇夜に踊る影
【 ギャンリックのアジトの古城 】
冷たく湿った濃霧のなか、おぼろ月が白く霞んでいた。
静まり返った廃城に松明が灯っている。
「 パチパチ 」と爆ぜる赤い炎が、揺れる度に、
崩れかけた壁の影が生き物のようにゆらゆらと、うごめいていた。
その不気味な心臓の鼓動が跳ね上がる光景が広がり、カビ臭い冷気が首筋をなでるような感覚。
謁見の間へと続く通路の壁には、無数の『 人の顔 』が浮き出ている。
松明の光に照らされ、呻き声を漏らしそうな生々しさだ。
通路の奥には、鉄の錆びた臭いを放つ無骨な大扉がそびえ立つ。
その前で、見上げるような巨躯の男が、常人には扱えない大剣を石床にガツンと突き立てていた。
その番兵は息遣いすら立てず、圧倒的な威圧感の冷気を放ちながら、無言で一点を睨みつけている。
【 謁見の間の大広間 】
松明が ( ゆらゆら )と揺れながら大広間にうごめく盗賊たちを照らしている。
「 おまえら!飲めや!騒げや!歌えや!www 」
酒を酌み交わし、料理をほお張り大騒ぎをして、その影が怪しく伸びて動いている。
それは、神話時代にあったという魔族の酒宴のようだった。
そして王の玉座の前に置かれた大きなテーブルに幹部らしき人物たちと【 大盗賊ギャンリック 】が会合をしている。
異様な髪型の女盗賊が踏ん反り返っていた。
サロスでは商会長を務める、この女。
その出立ちは神話時代の悪魔王ワグナスの腹心【 蛇神バシリカ 】のようだ。
その邪神は、蛇の髪の毛を持つ伝説の悪魔女帝。
それを模した細かい三つ編みの先端の蛇の頭の黄金が不気味に輝いていた。
女盗賊が不敵な笑みを浮かべ席を立つ。
「 じゃあ、ギャンリック!商品調達は頼んだよ!今度は、ちゃんと孤児院だからね! 」
左のギョロ目を大きく見開き、大親分が蛇頭のような女盗賊に話しかける。
「 おいおい【 ジュマリナー!】もう帰るのかよ!あの頃みたいに楽しもうぜ!www 」
この女、特有の『 春の祭面 』のような笑顔になるも、その目は笑っていない。
「 バカ言ってんじゃ無いよ!お前さん!
こっちは、あんたの部下が商会に奴隷を持ち込みやがるから大損した上に、一から出直しで大忙しだよ! 」
大親分は、ギョロ目と逆の右の口角を上げて悪者がする特有の顔を見せる。
「 そいつは、さっき壁に塗り込んだぜ!www 一緒に見に行くかぁー? 」
「 もう帰るよ!聞き分けの無い人だね! 」
そう言うと鉄扉へ格下の盗賊たちを払い退けながら帰りだし、苛立っているだろう顔を見せた。
( ケッ!気持ち悪い。こんなブ男と薄気味悪い生首だらけの古城にいられるわけないだろうが! )
足早に去って行く彼女の後ろ姿を舐めるように見るギャンリック。
「 おい!【 カーリー 】そろそろ、あの女の商会を乗っ取りてぇーんだが、配下を増員してくれねぇーか? www 」
影から憮然とした面立ちで男が現れる。
「 バカ言ってるんじゃ無いぞ!リック!
ワシが、何人の部下たちを、あの偉大なお方から借りていたと思っている? 」
ギャンリックは ( ニヤリ ) と不服そうな男に『 ギャロ目 』を見開き笑う。
「 それは、お前がアハルに執拗に部隊を繰り出すからじゃねーかよ! www 」
「 ふん!リック!ワシらには成し遂げないといけない悲願があると、言っておろう?
しかも、お前たちのためでもあるのだぞ! 生意気を言っておると、もう助太刀せんぞ? 」
少し媚び顔の大親分。。。
「 また、お前らのカラクリ武器も買いたいし、奴隷も確保したい。そんな事言わず頼むぜ、カーリー! 」
「 ふん!ワシは一度、あのお方の本拠に戻るが、弟たちを近場に呼び寄せろ!
ヌシは、調子に乗って戦力を分散させすぎだ! 」
消えるように闇に溶ける男を見て、ギャンリックは、深いため息を吐く。
「 おい【 アマチ!】俺様の銃火器部隊とお前が居てくれりゃ、無敵だよなー? 」
料理を慎ましくとっていた青年の面立ちの異国の剣士が、口を開く。
「 強き戦士は、この世に沢山いるでござるよ。カーリー殿が言う通り、いささか守備兵が少ないでござるな。 」
ギャンリックは、ギョロ目を窄めると苦虫を噛み潰したような顔を見せる。
( 今ここだけで1000人も馬鹿をタダで飲み食いさせているんだ。
稼がせねーといけねぇーんだよ!もっと金が必要なんだよ! )
青年剣士の方から視線を外すと、ギョロ目は再び深いため息を吐いた。
「 ったく、アマチと兄弟以外は信用できねぇ奴ばっかだからよ!
そう言えばお前、女英雄【 哀戦士ナナス 】を知ってるか? 」
「 聞いたことが無いでござる。 」
「 赤鬼ジャバロンと、互角の武力と、高い忠誠心で名を馳せた巨漢の戦乙女だぜ!幹部に迎えてーんだ! www 」
「 ギャンリック殿、拙者はこの辺りの事情に疎いと申したはず。そのような強者なら、いるに越した事は無いでござる。 」
そうだったと大親分は、またまた深いため息を吐くと、
広間に響き渡る『 号令 』を掛ける。
そして隊長格らしき盗賊を、腕の武器で指して叫ぶ!
「 そっちは、【 愛戦士ナナス 】を探せ!
アハルの西にいるらしいからよ!
あいつは凄いぜぃ!身震いするほどになぁー! www 」
視線をズラすと更に、ギョロ目を見開き凄む!
「 おい!こっちの連中!俺は怒ってるぜぃー!
兄弟たちと、暴れている連中を全員ここに集めろ!手薄だと前々から言ってるだろうがぁぁー!!! 」
異国の青年剣士は思う。
( それ、さっきカーリー殿が言っていた件で、ごさるね www
しかも氣を消しているだけだからまだ聞いているで、ごさるな w )
そして、氣を消しているだけの男は諦め顔で首を左右に振ってから、眉間にシワを寄せ ( カッ )っと目を見開く!
( 赤獅子か?この忌々しいデカい氣は...... )
更に不敵ないやらしい笑みを浮かべる。
( この馬鹿な実験体も潮時か。何人の我が精鋭がジャバロンに斬り伏せられたと思っているのだ?
裏の古代遺物だけはヌシにくれてやる。
せいぜい頑張ってみせよ!www )
カーリーと呼ばれていた男は ( ピン! )と鋭い一閃の氣を天に放つと一斉に複数の氣配が闇夜に消える。
アマチという青年剣士だけが、涼やかな顔だが、それと莫大な氣が迫ってくるのを感じていた―――
―――【 鉱山町マデン付近の村 】
雲が低く垂れ込む暗闇の中、人々の逃げ惑う悲鳴と、残忍無比な怒号が " こだま " する。
藁葺き屋根が燃え上がり、無慈悲な惨劇が繰り広げられていた。
女と子供は、殴り、蹴り飛ばされ、襟首を掴まれ引きずられていく。
農具を持ち、果敢に立ち向かう村民の男たちには、冷酷な刃が突き刺さり、次々と倒されては下卑た怒号が飛び交う!
4本の剣を僅かに駐屯していた兵士2人から同時に( ヌルり ) と引き抜くと、刀身が漆黒の艶かしい光を放つ。
「 【 ギャンザック様 】 赤鬼ジャバロン軍なんて、腰抜けの集まりでしたね!ビビってて損してましたぜ〜〜 ! 」
雲の切れ間から差し込む月光が、4本の血で染まった暗黒の剣を構え立つ男を映し出す!
「 ギャギン!ギャギン!ギャギン! 」
四本の腕の剣を、擦るように鳴り響かせ血のりを払った、その男は悪魔のような笑みを浮かべて叫ぶ!
「 ギィーキッキッキ!テメェら!今夜も根こそぎ奪うぜ!女子供は殺すなよ!
逆らう男は皆殺しだ!www 」
「 うおおぉォォおおぉォォ〜〜 !!! 」
残忍な欲望に満ちた劣悪な怒号が村中に伝播して、更なる惨劇が繰り広げられる!
しかしそれを、聞いた者たちの憤怒の雄叫び声が、遠方で立ち上がった!




