【 外伝 】第5話 バーンの回想録〜継承者達〜
そんな義父の回想と共に、
先ほど相棒に見せてしまった焦りと葛藤を恥じる、未熟な自分が書庫にいた。
( 本当に、相棒と会う前の矮小な私は、なかなか居なくならないものだな...... )
持って来てもらった早めの食事を取りながら偉大な漢の国のことを考えていた。
私の父が愛用していたカップから漂う、ハーブ茶の清涼な香りを楽しんでから、一口味わう。
( 美味しい。父もいつも美味しそうに飲んでいたよな...... )
硬い黒パンを濃厚で芳醇な湯気が立ち昇る野菜スープに漬けて、柔らかくしながら頬張り、そして考える。
義父の国では、当時から未だ疫病の大発生はしていない。
思えば住居の間隔や、井戸の配置も考慮されていた気がする。
( 密集具合かな?...... )
『 悪魔の呪い 』は死者や汚濁した水だけでない。
都市部で大発生するのも、だいたいそれだ!
少ない資金で造成したのが原因かもしれない。
人を分散させずに、町を発展させるには......
水を汚濁させずに、呪われ人を増やさないためには......
父の施術で、【 ドンの弟 】を死なせてしまった血を抜く慣習を止めるためには......
「 とにかく、文献を片っ端から調べるんだ!それしか無い! 」―――
!?......「 む!? 」
―――
「 イブシか?夜の番ご苦労様。 」
微かな氣が近づいてくる。
「 バーン様、侵入者です。 」
【 イブシ 】が目の前にひざまずく。
「 外周部隊の妹は、どうした?お前たちが、侵入者を見逃すはずもない。 」
「 真っ直ぐここへ向かっております。
氣を消し、窓からご退避を! 」
とっさに皿と器を下に置き、形見のカップの少し冷めたハーブ茶を一口すすると文献の間に隠し、窓から外に脱出する―――
―――窓を少し開け書庫の様子を見ることに。
そもそも、アハル砦への潜伏は顔見知りばかりな上に、
子供を含めた約8割ほどが氣を使いこなし、それは不可能に近い。
更に先程の今は亡き親友【 サイガ 】の半島最強と言われる諜報部隊までいる。
( 身内だな。しかし、夜間の立ち入りは厳罰にしている...... 誰だ? )
その者は、書庫の大人でも力がいる扉に手こずっているようだ。
( 重装している暗殺者か。。。 )
重い扉が開くと、大きな布を引きずり、右手にランタンを持つ小柄な人影が書庫に入って来た。
その途端!? イブシの完璧に隠す事が出来る氣の乱れに、私の心が揺れ動く。
( かなりの強敵か?氣はそれほど感じないが。。。奴をこれほどまでに動揺させる人物とは...... )
王都ではその昔、年端のいかぬ少年暗殺者に国の重鎮が次々に闇に葬られた事件があったと聞いたことがある。
私は……息を詰め、せり上がってきた生唾を辛うじて飲み下す。
その人影はランタンを掲げて、書棚を何やら物色している。大きな布から、もう片方の細い手が伸び ( バサり )とそれが落ちた。
「 あった...... 良かった www 」
( 子供の声...... 女の子?...... )
「 まさか...... アブーか? 」
ランタンを幼子に持たせるとは、我が相棒とミリアは、何をやっているのだ!
( それよりも、何しに来たのだ?あの娘は? )
ランタンと、インクを机に置き毛布を椅子に丸め置くと正座で座り込む。
「 いざ描かん!『 古文書イント大作戦 』開催だぞぉォォ〜い www 」
( おいおいおい何を言い出す?あの娘は? )
「 ケタケタケタケタ w ここはこうだな!ほととぎす!www 」
窓から諌めようと何度も思ったが、愉快そうなアブーの弾ける笑い声が、それを止める。
あの可愛らしい笑い声を聞くと、
私の悩みや葛藤が消え去り、
壁に背をやり、いつの間にか空を見上げて和んでいた。
( 星空を眺めるなんて...... いつ以来だろうか?...... すっかり忘れていた...... )
天の海に撒き散らされたダイヤモンドの砕片が、夜の帳を密やかに震わせる。
息を呑むほどに美しい、満天の星々の瞬き。
浮かぶ半月は、白銀に鍛え上げられ、
凛とした月光が、地上の色彩を奪い、すべてを銀の静寂で塗り替えていた。
( こんなにも、美しかったんだな......
アハルの夜の情景は、本当に美しい。)
掌を伸ばせば触れられそうな、幻惑的な夜に、私はただ、宇宙の吐息に呑み込まれるように、その高みを見つめていた。
そして、再び偉大な2人の男たちの声が心のうちに蘇る。
「 そうですね。女神フレイちゃんに、
今日の私の大切な時間をあげようと思います。我がお父さんたち。 」―――
―――偉大な2人の男たちが楽しそうに笑っている。
「 ...... 起きてください。」
.....
「 バーン様、起きてください。これを。」
......朝か。
いつの間に寝てしまったようだ。。。
「 なんだイブシ? その手に持っている羊皮紙は? 」
「 アブーが昨晩、書いていました w 」
書庫に入りそれを片手に、文献を掻き分け、父の味わいある陶器製カップの冷え切ったハーブ茶で乾いた喉を潤すことに......
「 ブッっ!ゲホ、ゲホ、ゲホ。な、なんだ!この文献は!?...... 」
あまりの苦さと、それに思わず咽せてしまう。。。
( アブーが “ ケタケタ "として笑いながら、書いていたのはこれか!一体、何なんだあの娘は...... )
「 イ...... イブシ、この件は一切口外しないでくれ。 」
「 ジャバロン様にもでしょうか? 」
「 そうだ!この非常事態に相棒まで錯乱してみろ!国が本当に傾く。 」
「 はっ!バーン様。若き当主様をお守りくださるお二人のため、我らもまた、持てる力のすべてを捧げお仕えいたしましょう。 」
進む道が今ここに突然開かれた!
我が父とシャルーク様、そして女神フレイ様がお力を貸してくれたのかも知れない。
( 後は、資金を調達する方法を確立して加速させるのみだ!
ありがとう相棒の娘。アブーよ! )




