第10話 おじさんの壺
皆さんは、どんな壺をお持ちですか?
かつて織田信長は「天下三名壷」と呼ばれる有名な茶壺「松島」、「松花」、「初花」などを愛用していたと言います。
人の感情にもいろいろな壺があると思います。
ジャバロン軍の天才軍師、バーンおじさんには、
どんな壺があるのでしょうか?
ぜひご覧ください。
我々は天国にいた......
あの芳醇なスパイスの香り......
間違いなく我々はいたのだろう......
お師匠は豊かな香りに、
『 伝説の戦乙女フレイ 』が天界に辿り着き、
黄金色に輝く『 宝剣グランヒルデ 』を発見した時のような恍惚の表情を浮かべていた。
その溢れんばかりの滴る濃厚な肉汁に、
旅立ったフレイを慕い悲しむ、
『 英雄王オルガルド 』のように、
弟は未だに号泣している ww
旨味成分のイノシン酸がおそらく最大値であり、
たんぱく質の塊でもある、
その圧倒的な熱量と絶妙な塩加減......
それはフレイに立ちはだかる、
絶望感あふれる恐怖の根源、
『 悪魔王ワグナス 』が放った、
世界を震撼させた衝撃波 『 虚無の熱光 』のようだ!
相方は間違いなく、今晩『 おねしょ 』をするだろう......www
この世に生まれ、久しぶりに食べた串焼き肉とは、
まさに、その境地......( どの境地?w )
前世では健康オタクだったが、普通にグルメでもあり熟成肉とか大好物だった。
そのうち、更なる至高の逸品をこの世でも創造してみせると、心に誓う。
「 串焼き肉...... 食べてうれしい......
はないちもんめ...... 超字余り 」
食後の余韻を楽しみつつ、未だ興奮し、高鳴る鼓動を抑えられず、
詩が、はみ出てしまったようだ。
空を見上げながらさらに詩を読んでいると、
お師匠が「 クスクス 」笑い言ってくる。
「 ごちそうさま!詩人アブ子先生の時間か? www
先生には悪いけど、今日は、夕方前の業務があるから早く帰るぞ!」
( そうだ、私もまた古文書作成をしなければいけないんだった! )
歩きながらお師匠と、さっきの雑貨屋モノホンポの【 長男ファルーク 】の声に乗せてくる氣について語る。
熟練戦士や弁舌に優れた者以外が、生まれながらに使えるのは、
やはり才能や超能力?と言う感じで話が終わる。
未知な物は探求しようとも、なかなか手の届かないものであると語る。
かと思えば時が経ち、ひょんなところから解明できたりするものだと締めくくってくれた。
お師匠ですら現時点では、それ以上はわからないとの見解。
しばらく進むと、中央港の倉庫エリアに差しかかる。
全身を新品の亜麻布で覆った兵士たちが従事し、重病人の為に解放されていた。
さながら大病院のような、慌ただしい足音や話し声がこだまする。
( さすがバーンおじさんだ!仕事が早い!)
殺菌力がありそうなハーブの清涼な香りが漂っている。
こちらでは、手や顔に布を巻いた兵士たちが、
煮沸したハーブ水を患者たちに与えていた。
( いいね!私が作った文献を使ってくれている!こんなに嬉しい事は無い! )
こちらの大鍋からは、具沢山のスープの濃厚で芳醇な、各種野菜のにぎやかな香りが漂ってくる。
「 あ......あれは絶対に美味いやつだよ!アブ姉...... 」
さっきまで号泣していた食いしん坊さんの弟がヨダレを垂らし、
物欲しそうな顔をして見ている。
病人たちは、一様に苦しそうではあるが、
献身的に看病してもらえる環境に、感動しているようだ。
( 良かった、良きかな、良ろコンブだよ...... )
船で食材や薪などの物資も運搬できるし、港はまさに最適な場所と言える。
疫病対処の喧騒を抜け、階段が見えてくる。偉大なバーンおじさんにクエスト品を渡すため、みんなで急いで駆け上がって行く―――
―――まずは自分の黄ばんだ羊皮紙を見られないように隠し、外の騒がしさが嘘のような静寂に包まれた書庫に向かう。
その重い扉を開き、書斎コーナーにいる、バーンおじさんに、
クエストの新品の羊皮紙100枚と共に青いインクも渡した。
羊皮紙の質の良さにご満悦だった顔が驚きに変わる!
「 お、おい?アブー...... どうしたんだ、
この青のインクは?......
金貨20枚じゃ買えないだろう?」
流石おじさんは『 青の王 』の、その貴重で高価な点も心得ているようだ。
私はおじさんに無言で、『 必殺の美少女ポーズ 』をする。
「 おいおいw…… まさか...... アブー?
その顔一つで値切ってきたのか? 」
おじさんの肩が小刻みに揺れ、
喉の奥を転がす様な、乾いた笑いが漏れ出す。
私はすかさず、広げた親指と人差し指を、
アゴに当て、右の口角を吊り上げ、
悪役さながらの歪んだ笑みを浮かべてみせる。
「 わぁっはっはっはぁぁ〜〜www!」
おじさんは仰け反り、肩を激しく振るわせ、腹筋をリズミカルに躍動させ、
右手で目元を隠して高らかに笑い声を上げた。
書庫に沈殿していた、埃と古びたインクの混じった重苦しい空気が、
おじさんの笑い声によってかき回される。
ビリビリと空気が震え、私の肌を震わせ、
まるで建物全体が笑っているかのようだ!
おじさんは、しばらく笑い続ける。
「 いや〜...... 参った!
お前のお母さんみたいだな www
あの方がご健在なら、さぞかし喜んだだろうな! 」
おじさんは、そこで思い出した様に、
引き出しから破けた数枚の羊皮紙を取り出し机の上に置く。
「 アブー!実際の羊皮紙を使って書くのも、いい勉強になる!使ってみろ!
私の色インクを使っていいぞ!」
私はその話の意味を考える。
もしかしたら、おじさんは古文書の著者の正体に、気付いているのかも......
だが、この間合いを保ってくれるなら、わざわざ確認する必要もない。
人と人との付き合いは、間合いと言うのが重要だと思っている。
同じ遺伝子を分けた、親子が激しく喧嘩してしまうのも、
この間合いを錯覚して、深く踏み込んでしまうが故に発生してしまう。
前世でも仲の良いうらやましい家族と言うのは、
とてもこれが上手だったと記憶している。
そのおじさんの慈愛に満ちたサポートが、私の情熱に火を灯した。
小さな胸の鼓動が、熱いビートを刻み出す!
おじさんに丁寧にお礼をすると、
決意を持って立ち上がる!
「 夏終わる...... 攻めあるのみぞ!ヴァルキュリアたん!敢えて字余り」
ここは敢えて、整え秘めるより
一歩さらけ出し、はみ出る強さを表現したかった。
おじさんは、またも私の言葉に、
「 ぷぷっw 」と吹き出す。
どうやら、今日の私はおじさんの壺のようだ。
「 戦乙女フレイは、お前の祖父が、
お母さんたちに良く聞かせていた物語だぞ! 」
( この間も母に聞かせてもらっているぜぃ!!! )
私はおじさんの方を顔だけ振り向くと、
またも、片方の口角を吊り上げ、
悪役さながらの歪んだ笑みを浮かべ、
親指を立てウインクをする。
おじさんの高らかな笑いが書庫に響き渡る中、
私は文献創作の戦場へ向かうのであった......
ここも改稿しましたが、元から2400文字ありましたので、各文章に少しずつ足していったら終わってしまいましたね。
バーンおじさんの壺を表現したかったので、こんな感じかなと思いました。
行雲 日千羽 R8.3/29




