おじさんの壺
皆さんは、どんな壺をお持ちですか?
かつて織田信長は「天下三名壷」と呼ばれる有名な茶壺「松島」、「松花」、「初花」などを愛用していたと言います。
人の感情にもいろいろな壺があると思います。
ジャバロン軍の天才軍師、バーンおじさんには、
どんな壺があるのでしょうか?
ぜひご覧ください。
我々は天国にいた......
あの芳醇なスパイスの香り......
間違いなく我々はいたのだろう......
お師匠は豊かな香りに、
伝説の戦乙女フレイが天界に辿り着き、
黄金色に輝く宝剣グランヒルデを発見した時のような恍惚の表情を浮かべていた。
その溢れんばかりの滴る濃厚な肉汁に、
旅立ったフレイを慕い悲しむ、
英雄王オルガルドのように、
弟は未だに号泣している ww
旨味成分のイノシン酸がおそらく最大値であり、
たんぱく質の塊でもある、
その圧倒的な熱量と絶妙な塩加減......
それはフレイに立ちはだかる、
絶望感あふれる恐怖の根源、
悪魔王ワグナスが放った、
世界を震撼させた衝撃波 [ 虚無の熱光 ]のようだ!
相方は間違いなく、
今晩はおねしょをするだろう......www
前世からこの世に生まれ、
久しぶりに食べた串焼き肉とは、
まさに、その境地......( どの境地?w )
前世では健康オタクだったが、
普通にグルメでもあり、
熟成肉とか大好物だった。
そのうち、更なる至高の一品をこの世でも創造してみせると、
心に誓う。
「 串焼き肉......食べてうれしい......
はないちもんめ......超字余り」
空を見上げて余韻に浸りながら歌を読んでいると、
お師匠がクスクス笑い言ってくる。
「 ごちそうさま!
詩人アブ子先生の時間か?www
悪いけど、夕方前の業務があるから早く帰るぞ!」
そうだ、私もまた古文書作成をしなければいけないんだった!
歩きながらお師匠と、
さっきの雑貨屋モノホンポの
長男ファルークの声に乗せてくる氣について語る。
熟練戦士や弁舌に優れた者以外が、
生まれながらに使えるのは、
やはり超能力?と言う感じで話が終わる。
未知な物は探求しようとも、
なかなか手の届かないものであり、
かと思えば、時が経ち、
ひょんなところから、
解明できたりするもの。
お師匠も現時点では、
それ以上はわからないとの見解。
港の倉庫に差しかかる。
すでにそこは疫病の重病人の為に解放。
さながら病院のようだ。
( さすがバーンおじさんだ。仕事が早い!)
漂ってくるハーブの清涼な香り。
手や顔に布を巻いた兵士たちが、
煮沸した飲み水を与えている。
( いいね!私が作った文献を使ってくれている!こんなに嬉しい事は無いw )
大鍋からは具沢山のスープの、
濃厚で芳醇な、各種野菜の香りが漂ってきた。
「 あれは絶対に美味いやつだよ!アブ姉w」
さっきまで号泣していた食いしん坊さんの弟がヨダレを垂らし、
物欲しそうな顔をして見ている。
病人たちは、苦しそうではあるが、
献身的に看病してもらえる環境に、
感動しているようだ。
( 良かった......)
船で食材や薪などの物資も運搬できるし、
港は、まさに最適な場所。
まずは自分の黄ばんだ羊皮紙を隠す。
その後、バーンおじさんに、
クエストの新品の羊皮紙100枚と共に
青いインクも渡した。
おじさんは青インクに、
少し驚いている。
「 お、おい?アブー......どうしたんだ、
この青のインクは?......
金貨20枚じゃ買えないだろう?」
私はおじさんに無言で、
必殺の美少女ポーズをする。
「おいおいw……アブー?
まさか、その顔一つで値切ってきたのか?」
おじさんの肩が小刻みに揺れ、
喉の奥を転がす様な、乾いた笑いが漏れ出す。
私はすかさず、広げた親指と人差し指を、
アゴに当て、右の口角を吊り上げ、
悪役さながらの歪んだ笑みを浮かべてみせる。
「わーっはっはっはwww!!」
おじさんは仰け反り、
肩を激しく振るわせ、腹筋をリズミカルに躍動させ、
右手で目元を隠して高らかに笑い声を上げた。
書庫に沈殿していた、
埃と古びたインクの混じった重苦しい空気が、
おじさんの笑い声によってかき回される。
ビリビリと空気が震え、私の肌を震わせ、
まるで建物全体が笑っているかのようだった。
おじさんは、しばらく笑い続ける。
「 いや〜......参った!
お前のお母さんや祖父みたいだなwww
シャルーク様がご健在なら、
さぞかし喜んだだろうな! 」
おじさんは、そこで思い出した様に、
引き出しから破けた数枚の羊皮紙を取り出し机の上に置く。
「 アブー!実際の羊皮紙を使って書くのも、いい勉強になる!
使ってみろ!
私の色インクを使っていいぞ!」
私はその話の意味を考える。
もしかしたら、おじさんは古文書の著者の正体に、
気付いているのかも......
だが、この間合いを保ってくれるなら、
わざわざ確認する必要もない。
人と人との付き合いは、
間合いと言うのが、
重要だと思っている。
同じ遺伝子を分けた、
親子が激しく喧嘩してしまうのも、
この間合いを錯覚して、
深く踏み込んでしまうが故に発生してしまう。
前世でも仲の良いうらやましい家族と言うのは、
とてもこれが上手だったと記憶している。
そのおじさんの慈愛に満ちたサポートが、
情熱に火を灯した。
私の胸の鼓動が、熱いビートを刻み出す。
おじさんに丁寧にお礼をし、
決意を持って、立ち上がる。
「 夏終わる......攻めあるのみぞ!...... ヴァルキュリア、敢えて字余り」
ここは敢えて、整え秘めるより
一歩さらけ出し、
はみ出る強さを表現したかった。
おじさんは私のつぶやきが聞こえたらしい。
「 ぷぷっw 」と吹き出す。
今日の私はおじさんの壺のようだ。
「 なんだ?突然......アブー?
最近は戦乙女フレイごっこでもしているのか?w
お前の祖父のシャルーク様が、お母さん達に良く聞かせていた物語だぞ! 」
( この間も母に聞かせてもらっている!)
私はおじさんの方を顔だけ振り向くと、
またも、片方の口角を吊り上げ、
悪役さながらの歪んだ笑みを浮かべ、
親指を立てウインクをする。
おじさんの笑いが書庫に響き渡る中、
私は文献創作の戦場へ向かうのであった......




