ガントレイダー1
10階層を進むにつれテンションが上がっていく3人を見守っている私の手には、Dr.ヘーゲルシュタインが出したポップコーンもどきとコーラもどきが握られており、完璧に観客と化していた。
急がなければならないはずなのにライアン・クレイジーに遭遇するたびに立ち止まり、3人は交互に戦いを挑んでいた。
ときには、締め技を決められた田中さんがギブアップして負けたりもしたが、乱入した『破壊者』が大暴れしたりと、見ている方は命のやり取りをしているのにもかかわらず、プロレスを見ているかのように楽しんでいた。
そうして進んでいると、進行方向に見えてきたのは2体のライアン・クレイジーであった。
「ダブルか、俺と誰が行く?」
「ただでさえ格闘が苦手なのにあなたと一緒に戦ったらこちらが持たないです」
「私も、先ほどの締め技が効いているので今回は無理です」
「さすがに、俺一人で2体同時は無理だぞ」
「2体同時に相手した方が楽になるんじゃないんですか?」
田中さんの疑問に少し考えた遠藤さんが答えた。
「ん?ああ、ライアン・クレイジーはこちらに合わせて戦ってくれるが、2体出てきたときはそれぞれが一番強い者に合わせてくるため、2対1だとこちらの倍以上の強さになってしまうんですよ。ですので2対2での戦闘が基本となっているんですが」
いくら観戦者になっていても今がダンジョンの攻略の真っ最中だということは忘れていなかったので、困っている3人にある提案をしてみた。
「それなら、私が眷属を新たに召喚しましょうか?さすがにここで足止めは嫌ですし」
「ああ、出せるなら頼む」
「わかりました」
そう言って、『魂』カードを取り出して口上を唱えることにした。
『天空に昇は煌々と輝く満月。天へと上る塔の頂点にはマントをはためかせる人型。『ヒーロー見参』悪を絶て、天に咆えろ、今宵は彼のステージだ』
口上を唱え終えると次の口上を唱え始める。
『誰が求めた私の名を、誰もが待ち望んだ私のことを今ここでその炎を纏いし剛腕で悪を打ち滅ぼせ『ガントレイダー1』炎椀悪滅、ヒーローは遅れてやってくる』
口上を唱えている最中にいきなり周りが暗くなっていき、全員が何事かと周りを見渡すと、ライアン・クレイジーの後ろから足音が聞こえてきた。
その足音に2体のライアン・クレイジーが振り向くと、右腕に炎をともしたガントレイダー1はライアン・クレイジーを飛び越え私たちのもとに来た。
私たちの目の前にガントレイダー1が着地すると、何事もなかったように周囲の明るさが元に戻った。
明るくなってガントレイダー1の全体像をよく見ると、つなぎ目が無く金属のような光沢を持ち表面が波打つ素材の鎧を身の纏い、どのように動かしているのか尻尾が生えていた。
顔には猛禽類を思わせるような御面をつけており、顔が確認できなかった。
「なんだよ、キザな演出入れてくるじゃないか」
先ほどの演出に興奮した『破壊者』がガントレイダー1に絡み始めたが無視して私のもとに来た。
「主よ、悪を絶つこの力、あなたに捧げます」
猛禽類を思わせる御面を取ると、女性に見間違えるような顔が現れてこの場の誰よりも低い声で忠誠を誓ってきた。
「今、あなたに絡んだ『破壊者』と一緒に戦ってください」
「はっ」
「よろしく頼むぜ」
2人が前に出ると、2体のライアン・クレイジーは構えて戦いが始まった。
ガントレイダー”1”とありますが、”2”が登場する予定はありません。




