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17.「彼氏、いないし。会長バカじゃないの」

17.クリスマスイブ


 木曜、クリスマスイブだという理由で、女子連中から次々と物をもらった。マフラーだの手袋だの菓子だの。礼を言いつつ、告白には断りを入れる。

 帰りは大荷物だな。カバンに収まらない。生徒会室のポリ袋を借用するか。

「会長ってば、モテるねぇ」

 そんなことを言いながら、沢野が昼休みに俺の教室に来て、手作りらしきクッキーをくれる。

「おい。わかってるなら物を持ってくるな。俺の荷物を増やすな。菓子は彼氏にやれ」

「わかってるからクッキーにしたんでしょ。この場で食べちゃえばいいじゃん。そしたら荷物減るよ」

「だから、菓子もさんざんもらってるんだって。俺そんなに甘党じゃねぇし」

 はぁ、とため息をつく。

「沢野、どれか引き取って。一個増やしたんだから一個減らせ」

 机の上の菓子類を指さすと、沢野が俺を叱る。

「ちょっと。ちゃんと会長が全部消費しなきゃだめでしょ。女心をなんだと思ってんの」

「お前は彼氏がいるだろうが。なにが女心だ。なぜ俺にまでクッキーを持ってくる」

「だっていつもお世話になってるし。彼氏の分作ったら余ったし」

 平然と言い放つ沢野を呆れて見やる。

「あのなぁ。余り物を俺に処理させるなよ。手作り品は賞味期限が短いだろうが。こっちはただでさえ手一杯だ」

「えー、だって、一応、心こもってるよ。彼氏の数百分の一くらい。会長、食べてよ。私の感謝の念を感じつつ。捨てたら来年あげないからね」

 だから、そもそもいらねーっつってんだ。結局押し切られてクッキーを渡される。

 なんなんだこの量は。去年よりどっと増えてるぞ。

 体育祭効果ならぬ会長効果か。会長とはこんなに物をもらうものなのか。去年は陰の実力者、元・図書委員長の真野先輩がプレゼントに埋もれて「もったいないからみんなで分けて。女の子達には内緒ね」と生徒会室で配布していた。俺も配布したいが沢野に叱られる。

 くそう、家族で消費するか。それとも明日ノアの家に持っていくか。

 女子の対応に追われて精神的に疲れつつ放課後を迎え、マクドナルドへ行った。

「悪い、遅れた」

 自分のアイスコーヒーを買い、先に来ていた山本の向かいに座る。学校を出ようとしたら女子連中につかまった。告白は手早く断り、物を受け取り、そうこうしているうちに時間が押した。山本との二時間を考えたらこのままでは最終下校時刻までに生徒会室に戻れないと判断し、カバンと荷物を持って学校を出た。マクドナルドへの道すがら、副会長の三浦に「今日は生徒会休む。悪いけど会長代理よろしく。緊急事態が起きたら電話して」とメールを入れておいた。

「すごい量ね」

 ポリ袋に放り込まれたプレゼントの山を見て、山本が言う。

「どれかいる? っていうかもらって。菓子類をほんとに消費しきれない。手袋もマフラーも何年分だってぐらいあるぞ。男物だから好きなの選んで父親か兄弟か彼氏にでもやってくれ」

 ポリ袋を山本の方に押しやると、山本が険しい顔をした。

 なんだまた機嫌を損ねたか。山本も沢野と同じく「会長が全部消費しろ」派か。

 山本が俺を睨む。

「彼氏、いないし。会長バカじゃないの」

 口調がもはや喧嘩腰だ。

「あ、そう。プライベート聞いて悪かったな」

 彼氏の話は地雷か。やれやれ。さっさと面談の体勢に入る。

「で、相談は? 悩み事。もう生徒会室に戻れないし、時間気にしなくていいぞ」

 そう告げて山本の顔を眺めていたが、山本が何も言わないので、アイスコーヒーを飲む。

 沈黙が続く。

 なんだ。俺が相手だと言いにくいか。

「山本ー」

 呼びかけてみるが応答がない。山本は自分のホットコーヒーをじっと見ている。

 どんどん時間が過ぎる。

 なんだ。二時間かかる話じゃないのか。

 アイスコーヒーを飲みながら待っていたが、山本は結局何も言わない。

 山本が黙り込んだまま三十分が経過したあたりで、提案してみる。

「ノア呼ぼうか? あいつなら、お前も相談しやすいだろ」

「あの子は嫌い」

 はぁ。

「まぁ、ポンコツだからな。しかし使えるとこでは使えるから、大目にみてやってくれ」

 体育祭も終わったし、学年も違うし、山本とノアの接点はない。山本がノアを嫌う理由など見あたらないのだが。

 山本がまた黙りこむので、内心ため息をつく。

 なんだこの状況は。生徒会を休んだ意味はあったのか。

 沈黙をうち破るべく、遅まきながらノア方式を使う。同意、繰り返し。

「うん。あの子は嫌い、な」

 山本は黙っている。

 勉強、体育委員会、友達関係、家族関係その他、悩みは何だ。

 俺にもノアレベルの読心術があればいいのだが。じっと山本を見ていると、山本が呟いた。

「岩熊くんに告白された」

 恋愛相談か。それなら女友達にするだろ、普通。

 山本は強気な性格だし、相談できる女友達がいないのか。

 しかし岩熊か。体育祭で山本の下についていた、体育委員会の一年生だ。

 山本のできの良さに惹かれたか、容姿に惚れたか、それともマゾっ気があるのか。

 俺が意見を述べるとまた山本を刺激しそうなので、とりあえずノア方式で返す。

「うん。岩熊に告白されたか」

 テーブルの上に頬杖をついてそのまま黙っていると、山本が俯いたまま言った。

「会長、どう思う?」

「んー……」

 岩熊なぁ。あまりできるやつではないが、血気盛んというか、猪突猛進というか。

 その勢いで山本にアタックしたか。

 どう思う、と聞かれてもなぁ。

 似合うかどうかで言ったら、どっちだろうな。山本とはずいぶん性格が違うと思うが、仕事での相性ならまだしも、恋愛の相性まではさすがの俺も判断できんぞ。

 仕方ないので正直に言っておく。

「悪いな。わからん」

「そう」

「うん」

 答えてアイスコーヒーを飲む。山本が言った。

「アイスコーヒー、なのね」

 はぁ。

「うん。アイスコーヒー」

「冬なのに」

「まぁ、冬だがな」

 俺は季節に関係なく、コーヒーはホットよりアイス派だ。

「明日は、仕事?」

「うん。仕事」

 そんな調子で、ぽつりぽつりと山本が言うことに、ひたすら同意、繰り返しをしていく。

 山本が腕時計を見る。

「二時間経った」

 さすが山本。時間管理はしっかりしている。俺も自分の腕時計を見る。夜八時半。

「まぁ、いいぞ。終電までなら付き合う。気が済むまで俺を使え」

「そう」

 山本が呟く。

「うん」

 俺は同意する。

 結局山本の終電の時間まで、二人で脈絡のない会話を続けていた。

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