二人の儀式
盗んだマチョッパーズを嗅ぐには、まず、保存袋から取り出す。
マチョッパーをひとつずつ、両の手に持つ。手のひらに、マチョッパーの底面をのせる要領で、持つ。
左の手のひらには左足に履くマチョッパーを、右の手のひらには右足に履くマチョッパーを、持つ。
マチョッパーズを持ち上げ、インソール面と顔面との距離が15cm程度になるよう、相対的な位置関係を調整する。
左のマチョッパーと右のマチョッパーと、ふたつを平には持たない。平に持つと効果が半減する。互いのインソール面が向き合うよう、ちょうつがいを作り、90度の角度まで半閉じにして持つ。
そうすると、鼻から顎を覆うサイズの、一種のマチョッパー・マスクが出来る。そこへ顔を埋めるのだ。
鼻と口が隠れるほどに深く埋める … 肺の奥まで吸い込む … 止める … 止める … ゆっくり口から吐く …
『大丈夫。なるようになる。することをするだけ。安心していい。木下リーダーのこれがある限り、いつでもこの安らいだ心と体になれる。』
いっぽう風花はというと、亮太のアパートへ来て中に入りたい時は、一応ベルを鳴らす。
もたもたしていれば合鍵を使って入ってくるから、もしまだ使用中であれば急いでマチョッパーズを隠さなければならない。
さて風花をアパートに入れる。すると、風花は部屋を見渡す。洗ってない食器、脱いだ服、洗濯物の干し方、物の置き場所、冷蔵庫の中、室内の換気と、色々文句を言いたがる。一通り言い終えれば、シャワーを浴びる。これが風花の儀式だ。
浴室の扉が閉まるのを待って、亮太は今一度マチョッパーズを出して嗅ぐ。でないと、シャワー上がりの風花を前にして、男子の面子が保てるか不安だ。
だが、どうも、一足目のマチョッパーズも、二足目のマチョッパーズも、だいぶゴルゴンゾーラが薄くなった。数えきれないぐらい使ったので。
一足目からは、もうバニラが感じられない。
保存袋に入れても消えてゆく甘い香り。
だから亮太は、木下リーダーに見つかる前、そろそろ三足目が必要になってくるな、と考えていた。




