隙あらば…
正直、けっこう前から、隙あらば、とも、思ってはいる彼のことだ。
恋人にしたい、わけでは、ない。九つも下の新人と、面倒な関係になるつもり … はないような。
ただ、でも、もし、佐野君のほうから求めるなら … 拒む必要も … ないような。
少しいけないリーダーだとは分かる。自分でもね。
で、佐野君の姿が、ない。
見ると、休憩室の扉がわずかに開いている。
中をのぞく。
ぎょっとする。足がすくむ。
佐野君だ。椅子に浅く腰かける佐野君。思いっきり後ろにもたれて。手には人参色のマチョッパーズ。
鼻と口が隠れるほどに顔を埋めている。マチョッパーズに。顔を。
試しに臭いを嗅いでいる、というふうではない。
肺の奥まで吸い込んで、息を止める。おもむろに肩の力を抜きながら、吐き出す。そうして再び、マチョッパーズの中へ顔を埋めにいく。
頬が赤い。
目は半ば閉じられ、まなじりは下がり、口元には、普段の彼から想像もできない不敵な笑みを浮かべている。フロアリーダーが扉の前に立っていることにさえ気づかない。
綾乃は足がすくむ。だが同時に、目をそらすことができない。
二十二の彼が、三十一の女の足が汗を染み込ませた履き物に、心を奪われている。
「ちょっと」
呼びかけに返事をしない。
「何してるの?」
ようやく顔を上げる。悪いことをして見つかった者の顔ではない。
酒に酔ったような、とろっとした目を向ける。
「す、すみま…せん…ごめ…」
寝言でも言うように言う。
「ちょとだけ。借りまひた。借りました。」




