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綾乃は31歳のリーダー


別れて二年がたつ。子どもはいない。


五つ年下の夫は、よく不貞腐(ふてくさ)れた。綾乃(あやの)(うち)の中にも仕事を持ち込む、とそう言っては不満そうな顔をしてみせた。


夜勤者から電話があれば、食事中でも応対した。欠勤者が出れば、休日でも「澄香(すみか)」へ自動車を走らせた。


でも、彼女に言わせると、夫が理解してくれなかった。彼女が負っている責任を、分かろうとはしなかった。


二階で事故が起きる。そうしたら、最後に頭を下げるのは自分だ。誰かがヘマをする … 記録を確認して、家族に説明して、再発防止策を考えて、 … するのは全部自分だ。


シフト作りやら、新人の技術指導やら、若い職員の相談やら、色々ある。


誰かがしなければならない。


自分は特養(とくよう)の職員だ。


今や登録十二年目の介護福祉士であり、介護職を(たば)ねるリーダー。「澄香(すみか)」で二階の介護をあずかっている。


リーダーだから、先月の晩にも急遽(きゅうきょ)出勤した。


二階の入所者が熱発(ねっぱつ)したと、帰りがけの事務員から電話がかかった。看護師には連絡ずみで今向かっているはずだけれど、夜勤を勤める介護士が119番を呼ぶべきか判断できずにいるという。


綾乃はすぐに車を出した。


職員通用口で靴を脱いで、それから下駄箱(げたばこ)を開けた時だった。


三足目のマチョッパーズがない。


「また?」


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