綾乃の警告
捕まった翌朝。
佐野は、休憩中も眠れずに夜勤を終えようとしていた。事務室で朝の申し送りが始まった。
二階の夜勤を担当した佐野と、三階の夜勤を担当した職員。
向かい側には、日勤で来た綾乃と、三階の日勤職員。ナースが二人。施設長。ケアマネ。リハビリ師。栄養士等々。
佐野はまず、北島氏の今朝の状態から伝えた。それだけを伝えた。
「7時15分、37度1分。132の76。プルス78。サチュレーション98。咳、くしゃみ、鼻水はありません。顔の紅潮も見られていません」
「ゆうべカロナールのあとはどうだった?」と綾乃が尋ねた。
「20時30分に38度6分です。20時10分ごろ、福田ナースがカロナールを投与しています。0時に37度8分まで下がっています」
「今朝の水分は?」
「朝食時に250です。居配で全量摂取されています」
手元の記録から目を離さないけれど、どうしてどうして、きけば答えられるではないか。
ナースも、
「佐野君やるじゃん」
「は」
ナースは綾乃に向かって、
「北島さん、お昼は無理しなくていいから」
綾乃は黙ってうなずいた。
昨晩、休憩室で人参色のサンダルに顔を埋めていた男と、いま申し送りをしている男は、同じ佐野亮太だ。
同じだけれど、事務室にいる他の者は知らない。
申し送りが終わる。皆が持ち場に行く。
綾乃は佐野に追いつく。独り言を言うように、
「忘れないで。ゆうべのこと。忘れたらゆるさない」
浴室から応援を頼まれたので、佐野は二時間ばかり入浴介助して帰った。




