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大家さん、その部屋だけは笑わせないでください  作者: あーちゃん


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2/10

大家さん、近すぎます

笑福荘での生活が始まったこまち。

静かな朝を迎えるはずが、大家のだんごは想像以上に距離感ゼロだった。

これは、こまちが「一人で生きる楽さ」と「誰かに気にされる面倒くささ」の間で揺れ始める朝の物語。

 笑福荘で迎える最初の朝は、こまちの理想とはまったく違う始まり方をした。


 理想では、朝日がカーテンの隙間からそっと差し込み、鳥の声が遠くで聞こえ、こまちは静かに目を覚ますはずだった。

 そして、まだ少し眠い目をこすりながら湯を沸かし、安いインスタントコーヒーを飲み、ノートパソコンを開く。

 昨日の不思議な出来事を思い出しながら、小説の続きを書く。


 そんな、いかにも小説家らしい朝。


 けれど現実は違った。


「こまちちゃーん! 生きてるー?」


 ドアの向こうから、太鼓のような声が響いた。


 こまちは布団の中で目を開けた。


 天井を見つめる。

 しばらく何も考えられなかった。


「……夢?」


「生きてるなら返事してー! 死んでたら大家さん困るからー!」


 夢ではなかった。


 こまちは掛け布団を頭までかぶった。

 しかし、だんごの声は布団など軽々と突き抜けてくる。


「こまちちゃーん!」


「生きてます!」


 思わず大きな声で返事をした。


 廊下の向こうで、だんごが嬉しそうに言った。


「よかったー!」


 足音が遠ざかっていく。


 こまちは布団から顔を出し、深く息を吐いた。


 まだ朝の七時だった。


「……生存確認が目覚まし代わりのアパートって、何?」


 独り言を言ってから、こまちは寝返りを打った。

 もう一度眠ろうとした。

 しかし、一度起こされた頭はなかなか眠りに戻ってくれない。


 仕方なく起き上がる。


 部屋の中には、まだ昨日の段ボールが積み上がっていた。

 本、衣類、食器、生活用品。

 そのほとんどがまだ箱の中だ。


 こまちは小さな台所で湯を沸かした。

 コーヒーの粉をカップに入れ、湯を注ぐ。

 香りは悪くなかった。


 やっと静かな朝が戻ってきた。

 そう思った瞬間、またドアが鳴った。


 こんこん。


 こまちはカップを持ったまま固まった。


 こんこんこん。


「こまちちゃーん、起きてるー?」


「今、生存確認しましたよね?」


「今度は朝ごはん確認よー!」


「そんな確認あります?」


 ドアを開けると、大家の福良だんごが立っていた。

 昨日と同じ割烹着姿。

 手には、おにぎりが乗った皿を持っている。


「引っ越し翌日の朝は、ちゃんと食べないとだめよ」


「ありがとうございます。でも、大丈夫です。コーヒー飲んでるので」


「コーヒーは朝ごはんじゃないわ」


「私の中では朝ごはんです」


「それは胃がかわいそう」


 だんごは遠慮なく部屋の中をのぞき込んだ。


「あら、まだ片付いてないのね」


「昨日引っ越してきたばかりなので」


「手伝おうか?」


「大丈夫です」


「遠慮しなくていいのよ」


「遠慮じゃなくて拒否です」


「あら、はっきり言うわねえ」


 だんごは笑った。


 こまちは、だんごのこの笑い方が少し苦手だった。

 何を言っても傷ついた様子を見せない。

 拒んでも怒らない。

 断っても、また別の方向から近づいてくる。


 まるで、閉めた窓の隙間から入ってくる朝の光みたいだった。


「とにかく、おにぎり置いていくわね」


「いや、本当に」


「具は梅と昆布。あと、ひとつだけ当たりが入ってる」


「当たり?」


「たくあん」


「おにぎりの中にたくあん?」


「歯ごたえが楽しいでしょ」


「びっくりはしますね」


 だんごは皿をこまちに渡すと、満足げにうなずいた。


「食べ終わったら、お皿は下に置いておいて。あと、九時から笑福荘の説明会ね」


「説明会?」


「住むうえで大事なことがあるの」


「契約の時に聞いてません」


「契約書に書くほどではないけど、暮らすには大事なことよ」


「その言い方、すごく不安です」


 だんごはにっこり笑った。


「大丈夫。怖いことじゃないから」


 そう言って去っていった。


 こまちはドアを閉め、しばらく立ち尽くした。


 家賃三万円。

 近隣環境、静か。

 住人、個性的。


 不動産屋の言葉を思い出す。


「個性的って、便利な言葉だな……」


 こまちはおにぎりを見た。

 断ったはずなのに、手元にある。

 だんごの距離感は、どうやら壁をすり抜けてくるらしい。


 食べないつもりだった。

 けれど、湯気がほんのり立っているおにぎりは、思ったよりおいしそうだった。


 こまちは梅のおにぎりを手に取った。

 一口食べる。


「……おいしい」


 悔しい。

 昨日のちくわの味噌汁といい、このアパートは食べ物で人の心を油断させてくる。


 二つ目の昆布も食べた。

 三つ目をかじると、こりっと音がした。


「たくあん……」


 当たりだった。


 こまちは思わず笑ってしまった。


 笑ってから、少しだけ悔しくなった。

 だんごの思うつぼみたいだったからだ。


 九時ちょうど。

 こまちは共同台所へ向かった。


 笑福荘の共同台所は、一階の奥にある。

 古い流し台と、共用の冷蔵庫、小さな棚。

 冷蔵庫には住人たちの名前が書かれた食材が入っているらしい。


 こまちが着くと、すでにだんご、ぽん太、すずめ、ちくわが集まっていた。


「おはようございます!」


 すずめが元気に手を振る。


「おはようございます」


「こまちさん、顔が眠そうですね!」


「起こされたので」


 こまちがだんごを見ると、だんごは悪びれもなく笑った。


「朝は人を起こすためにあるのよ」


「違います。人が起きるためにあります」


「似たようなものよ」


「全然違います」


 ぽん太は首から電卓を下げ、真剣な顔でメモ帳を持っていた。


「今日は新入居者向けの生活節約講座も兼ねています」


「兼ねなくていいです」


「まず、水道代を節約するには、顔を洗う回数を週三回に」


「不潔です」


「では週四回」


「交渉の問題じゃないです」


 ちくわは無言で味噌汁をよそっていた。


「朝から味噌汁ですか」


「朝こそ味噌汁だ」


「たしかに」


「今日はなめこ」


「ありがたいですけど、説明会ですよね?」


「味噌汁を飲みながら聞けばいい」


 だんごが手を叩いた。


「はい、それでは笑福荘の説明会を始めます」


 こまちは渡された紙を見た。

 手書きで「笑福荘の暮らしのきまり」と書かれている。


 一、挨拶はなるべく大きく。

 二、困った時は一人で抱え込まない。

 三、プリンには必ず名前を書く。

 四、洗濯機を蹴らない。五郎が怒る。

 五、泣いた日は味噌汁を飲む。

 六、大家の作りすぎた煮物は、可能な範囲で受け取る。

 七、ぽん太の節約術は一度疑う。

 八、すずめの噂話は半分だけ信じる。

 九、ちくわの味噌談義は長くなる前に止める。

 十、帰ってきたら、できれば「ただいま」と言う。


 こまちは紙から顔を上げた。


「最後だけ、急にちゃんとしてますね」


 だんごは少しだけ目を細めた。


「ここに住むなら、帰ってきたって思ってほしいのよ」


 その言葉は、騒がしい説明会の中で、少しだけ静かに響いた。


 こまちは返事に困った。


 帰ってきた。

 ただいま。

 おかえり。


 そういう言葉が、自分の生活からいつの間にか遠くなっていたことを、こまちは今さら思い出した。


 一人暮らしは気楽だ。

 誰にも干渉されない。

 好きな時間に寝て、好きな時間に起きて、好きなものを食べられる。


 けれど、帰ってきても誰もいない。

 ただいまを言わなくても困らない。

 おかえりがなくても、一日は終わる。


 そんな日々を、こまちは自分に合っていると思っていた。


 だが、だんごの「帰ってきたって思ってほしい」という言葉は、胸の奥に小さく引っかかった。


「まあ、無理に言わなくてもいいわよ」


 だんごは明るく言った。


「ただ、言ったら私が喜ぶ」


「それ、圧じゃないですか」


「軽めの圧よ」


「圧に軽いも重いもあります?」


 すずめが手を挙げた。


「私は毎日言ってます! ただいまーって!」


「すずめちゃんは、たまに隣の家にも言ってるわよね」


「癖で!」


「隣の人、返事してくれるの?」


「はい! 最近は『おかえり、でもここじゃないよ』って言ってくれます!」


「優しい隣人ですね」


 ぽん太が真剣にうなずく。


「僕は節約のため、ただいまを小声で言っています」


「何を節約してるんですか」


「声帯です」


「そこ節約しなくていいです」


 ちくわは味噌汁を置きながら言った。


「俺は言わない」


「あら、ちくわちゃんは言わないの?」


「味噌汁があるから」


「会話が独特すぎます」


 説明会は、説明会というより、住人たちの自己紹介第二弾だった。


 こまちは、だんごの話を聞きながら、笑福荘のルールをひとつずつ頭に入れていった。


 ごみ出しの日。

 共同冷蔵庫の使い方。

 洗濯機の使い方。

 階段の四段目は踏み方に注意。

 雨の日は玄関にバケツを置く。

 大家の煮物は突然増える。

 そして、冷蔵庫のプリンには必ず名前を書くこと。


「プリンに名前を書くの、そんなに大事なんですか?」


 こまちが聞くと、その場に緊張が走った。


 すずめが小声で言う。


「こまちさん、その話題は……」


「え?」


 ぽん太も真顔になった。


「笑福荘では、プリンはただの甘味ではありません」


「何なんですか」


「信頼です」


 ちくわが静かに言った。


「冷蔵庫のプリンは、人間関係の縮図だ」


「味噌汁の人が急に哲学者になった」


 だんごは腕を組み、重々しくうなずいた。


「過去に何度も、プリンをめぐる悲しい争いがあったの」


「そんな戦国時代みたいに言われても」


「だから、プリンには名前を書く。これは笑福荘の平和を守るための約束なのよ」


「そんなに?」


「そんなに」


 こまちは、よく分からないままうなずいた。


 その時はまだ知らなかった。

 この「プリンに名前を書く」という決まりが、翌日、とんでもなくくだらない大事件につながることを。


 説明会が終わると、こまちは部屋に戻ろうとした。

 しかし、だんごが当然のようについてきた。


「部屋、片付けるんでしょ?」


「はい」


「手伝うわ」


「大丈夫です」


「本当に?」


「本当に」


「でも、本の段ボール重そうだったわよ」


「見たんですか?」


「昨日、ちょっとだけ」


「大家さん、近すぎます」


 こまちが思わず言うと、だんごは目を丸くした。


「近い?」


「近いです。すごく近いです。初日から大根を渡して、朝に生存確認して、おにぎりを持ってきて、説明会をして、部屋の段ボールまで把握してるのは、かなり近いです」


 言いながら、こまちは少し言いすぎたかもしれないと思った。

 だんごが傷ついたらどうしよう。

 怒ったらどうしよう。

 家賃三万円の部屋を追い出されたらどうしよう。


 しかし、だんごは怒らなかった。


 むしろ、少し考えるように首を傾げた。


「そうねえ。近いかもしれないわね」


「自覚なかったんですか」


「あったような、なかったような」


「一番困るやつです」


 だんごは廊下の手すりにもたれた。


「昔ね、ここに住んでた人で、誰にも何も言わずに出ていった子がいたの」


 こまちは黙った。


「その子も、静かに暮らしたいって言ってた。誰にも迷惑かけたくないって。だから私も、あまり声をかけないようにしたの。でも、ある日突然いなくなってね」


 だんごの声は、いつもより少しだけ小さかった。


「迷惑かけたくないって言う人ほど、本当は誰かに気づいてほしい時があるのかもしれないって、その時に思ったのよ」


 こまちは何も言えなかった。


 だんごはすぐに笑顔に戻った。


「だから私は、ちょっと近い大家さんになったの」


「ちょっとではないです」


「じゃあ、だいぶ近い大家さん」


「そこは認めるんですね」


「でもね、嫌な時は嫌って言っていいのよ。こまちちゃんは、ちゃんと言える人みたいだから」


 だんごはそう言って、階段を下りていった。


 四段目が「ぐえっ」と鳴った。


「五郎、今日も元気ね」


「元気な音じゃないと思います」


 こまちは部屋に戻った。


 静かになった部屋で、だんごの言葉を思い返す。


 迷惑をかけたくない。

 誰にも気づかれたくない。

 一人で大丈夫。


 それは、こまち自身がずっと使ってきた言葉だった。


 小説がうまくいかなくても。

 お金がなくても。

 寂しくても。

 苦しくても。


 大丈夫です。

 一人で平気です。

 気にしないでください。


 そう言えば、相手はそれ以上踏み込んでこない。

 楽だった。

 けれど、本当に楽だったのかは分からない。


 こまちは段ボールをひとつ開けた。

 中には、これまで書いてきたノートが入っていた。


 アイデア帳。

 途中で止まった長編。

 誰にも見せていない短編。

 落選した作品のメモ。


 こまちは一冊を手に取り、ページをめくった。


 どの物語にも、どこかで一人ぼっちの主人公がいた。

 誰にも頼れず、誰にも本音を言えず、それでも平気なふりをする人ばかりだった。


「……私じゃん」


 思わず笑ってしまった。


 その時、またドアが鳴った。


 こんこん。


 こまちは身構えた。


「今度は何ですか?」


 ドアを開けると、そこにいたのはすずめだった。

 手には小さな紙袋を持っている。


「こまちさん、これ、近所の和菓子屋さんのどら焼きです!」


「ありがとうございます。でも、なぜ?」


「大家さんが、こまちさんは甘いもの好きそうって」


「勝手に予想されてる」


「違いました?」


「……嫌いではないです」


「やった!」


 すずめは嬉しそうに笑った。


「あと、ぽん太さんから伝言です」


「何ですか?」


「節約のため、今日の夕飯は空気を食べるそうです」


「止めてください」


「ですよね!」


 すずめは元気に走っていった。


 こまちは紙袋を見つめた。

 どら焼きが二つ入っていた。


 一人で食べるには少し多い。

 でも、誰かに分けるほどでもない。


 こまちは一つを皿に置き、もう一つを机の上に置いた。


 そして、何となくペンを取った。


 白い付箋に、自分の名前を書く。


『こまち』


 それを、どら焼きの袋に貼った。


 プリンではない。

 でも、名前を書いておいた方がいい気がした。


 それから、こまちは小説を書き始めた。


 大家さん、その部屋だけは笑わせないでください。


 仮のタイトルを打ち込む。


 昨日の自分なら、こんなタイトルはつけなかった。

 もっと静かで、切なくて、誰にも踏み込まれないような題名を選んでいたはずだ。


 けれど今は、少しだけ違う。


 騒がしい大家。

 近すぎる距離感。

 おにぎりの中のたくあん。

 味噌汁。

 プリンの掟。

 階段の五郎。


 くだらないものばかりなのに、書いていると指が止まらなかった。


 夕方になり、こまちは共同冷蔵庫にどら焼きを入れに行った。

 部屋に置いておくと、つい二つとも食べてしまいそうだったからだ。


 冷蔵庫を開けると、中にはさまざまなものが入っていた。


 だんご、と書かれた煮物。

 ちくわ、と書かれた味噌。

 すずめ、と書かれた紙パックのジュース。

 ぽん太、と書かれたもやし。


 そして、奥の方にプリンがひとつあった。


 ふたには大きく「だんご」と書かれている。


「本当に名前が書いてある……」


 こまちは自分のどら焼きを入れた。

 もちろん、名前付きで。


 その時、背後からぽん太の声がした。


「こまちさん」


「うわっ」


 振り返ると、ぽん太が真剣な顔で立っていた。


「そのどら焼き、いくらでしたか?」


「もらいものです」


「つまり、実質無料」


「そうですね」


「素晴らしい。食費節約の理想形です」


「人からもらう前提の生活は危ないですよ」


 ぽん太は冷蔵庫の中を見つめた。


「僕も何か無料で手に入れたい」


「働いて買ってください」


「こまちさん、現実を言うのが早い」


 そこへだんごが現れた。


「あら、二人で冷蔵庫会議?」


「そんな会議ありません」


「でも、冷蔵庫の前で話してると、だいたい会議になるのよ」


「このアパート、何でも会議にしますね」


 だんごは冷蔵庫をのぞき込んだ。


「あ、私のプリン。明日食べようと思ってるの」


「名前、ちゃんと書いてますね」


「当然よ。プリンの名前は命の札だから」


「そこまで?」


「そこまで」


 だんごは満足そうに冷蔵庫を閉めた。


 こまちはその時、確かに見た。

 だんごが冷蔵庫の前に、小さなメモを貼ったのを。


 そこには、こう書かれていた。


『明日の私へ。プリンを食べるのを忘れないこと。だんごより』


 こまちは首を傾げた。


「大家さん、自分宛てのメモですか」


「最近忘れっぽいのよ」


「でも、プリンのことは忘れてもよくないですか?」


「よくないわ。楽しみは忘れたらもったいないもの」


 だんごは笑った。


 その笑顔を見て、こまちは少しだけ思った。


 この人は、楽しみを拾うのが上手なのかもしれない。


 大根が安かった。

 おにぎりにたくあんを入れた。

 プリンを明日食べる。

 誰かが帰ってきたら、おかえりと言う。


 小さなことを、いちいち大事にする。

 それは少し騒がしくて、少し面倒で、でも少し羨ましかった。


 夜。


 こまちは部屋で小説を書いていた。

 外から、住人たちの声がかすかに聞こえる。


 ぽん太が空腹に耐えられず、結局カップ麺を食べている声。

 すずめが配達先を間違えた話をしている声。

 ちくわが味噌の保存方法について語っている声。

 だんごが大きく笑う声。


 うるさい。

 静かではない。


 でも、昨日より少しだけ、気にならなくなっていた。


 こまちはキーボードを打つ。


『大家さんは近すぎる。

 けれど、近いからこそ見えるものもある。

 人は、離れていれば傷つかない。

 でも、離れすぎると、笑い声も届かない。』


 そこまで書いて、こまちは手を止めた。


「……なんか、いいこと書いた気がする」


 自分で言って、少し照れた。


 その時、廊下からだんごの声がした。


「こまちちゃーん、もう寝るー?」


「寝ません!」


「夜更かしはほどほどにねー!」


「大家さん!」


「なあにー?」


「近すぎます!」


 少し間があった。


 そして、だんごの笑い声が響いた。


「はーい、今日はここまでにしまーす!」


 足音が遠ざかる。


 こまちはため息をつき、それから少し笑った。


 笑福荘の二日目。

 静かな生活は、やっぱり遠かった。


 けれど、こまちはまだ引っ越しを後悔していなかった。


 それどころか、明日の朝。

 だんごが本当に生存確認に来ないのか、少しだけ気になっている自分がいた。


 そして翌日。


 共同冷蔵庫から、だんごのプリンが消えることになる。

第2ページでは、大家のだんごの距離感ゼロな優しさに、こまちが少し戸惑いながらも心を動かされていきます。

笑福荘のルールや住人たちの個性も見えてきました。

次回はいよいよ、共同冷蔵庫のプリンをめぐる大事件「消えたプリン裁判」が始まります。

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