表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レタルギアの堰  作者:
第1章 出会い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/5

1-2

言葉がこの豚から出てきたというのを理解するのに、数秒の時間を要した。


「あんた、なんでこんなところで彷徨いてるんだ?」


肩に食い込んでいた手が離れる———その瞬間、咄嗟に逃げ出そうとしたが、松明の光で豚の腰に光る仰々しい斧が目に入り、膝から力が抜ける。


「おいおい、もしかして共通語がわかんないのか?」

 

そう言われて気づく、日本語と似ても似つかない響きなのに、なぜか頭の中に意味が流れ込んでくる。意思疎通を図れるかもしれない。そう思って喋ろうとするが、喉に蓋をされたみたいに、言葉が喉奥で詰まってしまう。


「どうしたもんか…」


豚の背後、暗闇から松明の明かりと共に馬車が姿を現した。


「何をしてる、ドルガン」


冷徹な声の主は、燻んだ金髪を丸めた、精悍な顔立ちの男だった。


「あぁ、リーダー。こいつが森の中から出てきたんで、事情を聞こうとしたんだが、この通り口を開かなくて…」


情報を得る機会が舞い込んで来たのに、このままでは疑われて終わってしまう。緊張と恐怖を押し殺して、なんとか声を搾り出す。


「あっ…あの、気づいたらっ、こんな、場所にい..って、ここって…ここって、どこなんですか?」


拙い言葉を聞き、豚とリーダーと呼ばれた男が顔を見合わせる。怪訝な表情のまま、豚が答えた。


「ここはオーヴェール公爵領の領都から北東の村々を繋ぐ小道だよ。武器や松明も持たずに夜の森を歩くなんて、狼に食い殺されたいのか?」


そうやって凄まれると、なおさら状況の悪さを実感してしまう。その上、豚が口にしたのは全く聞き覚えのない地名だ。ここは幻覚の世界なのか。そうでなければ、異世界かなにかに迷い込んでしまったのかもしれない。


とにかく、この暗くて寒い森を出たい。


「あのっ…、荷物持ちでも、なんでもするんで!…同行させてもらえないですか?」


藁にもすがる思いで訴えると、リーダーと呼ばれた男は目を細めて、こちらを射抜くように睨みつけた。その鋭い視線に、背筋が凍りつく。


「どこの誰かもわからないような、不審者の護衛をしろと言っているのか?」


「あの…そのっ…」


その時、御者台から一人の男が飛び降りてきた。


「そんなに若いやつをいじめなくてもいいだろ」


無精髭を生やしたその男は、わざとらしくため息をつく。


「冬支度の時期でどうせ男手が足りてないんだ。働くって言うんなら、守ってやってもいいんじゃないか?」


「いや、しかし」と渋るリーダーと呼ばれた男に、無性髭を生やした男が追い打ちをかける。


「おい、ドルガン。そいつから悪意だかなんだか感じるか?」


豚がヒクヒクと鼻を揺らし、「いいや、何も感じないね」と言って首を振った。


「だってよ、リーダー。まだ懸念があるか?」


リーダーは苦々しげに眉間に皺を寄せ、「勝手にすればいい」と吐き捨てた。


「すまんな、若いの。ここ最近、リーダーは気を張ってるんだ」


そう言って、無精髭の男はぎこちない笑顔を見せた。


「あの、本当にありがとうございます」


「気にすんな。小さい弟がいたもんで、どうしても若いのにお節介焼いちまうんだ。それより、しばらくこの先で働いてもらうことになるが、大丈夫か?」


優しい人だ、と胸が温かくなる。


この先どうなるか不安ではあるが、暗い森で人と触れ合えた安心感には抗えそうにない。


「はい、お願いします」


そう言って深く頭を下げた。


読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ