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勇者の息子に転生したら育ての親が魔王でした~最強に育って無双します~  作者: ララ
第二章 ジューダス帝国編

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第94話 断絶②

翌朝――


帝国学院。


朝日が校舎を黄金色に染め、生徒たちの賑やかな声が中庭へ響いていた。


昨日と変わらない平和な朝。


……そのはずだった。


「おはようございます、ライトさん」


柔らかな声と共に、翡翠色の髪を揺らしてリリアナが歩み寄ってくる。


「おはようございます、リリアナさん」


自然な笑顔で返すライト。


その光景を見た周囲の生徒達は、一斉にざわめいた。


「また一緒だ……」


「昨日もずっと話してたよな?」


「王女様と普通に会話してるぞ……」


「あいつ、魔王国の奴だろ……」


本人はまるで気にしていない。


「昨日の術式なんですけど」


ライトはノートを開く。


「帰ってから少し改良してみたんです」


「もうですか?」


「寝る前に思いついちゃって」


リリアナが術式を覗き込む。

そして数秒後。


「……また進化していますね」


「え?」


「風の循環術式が三重構造になっています」


「その方が安定するかなって」


「普通はそんな発想になりません……」


思わず苦笑した。

本当に、この少年の頭の中はどうなっているのだろう。



二人はそのまま演習場へ向かう。

途中、小さな池の前を通り掛かった時だった。


池の水面が不意に波紋を広げる。


サァァァ……


風が吹く。


花びらが二人の周囲を舞い上がった。


「また……」


リリアナの首飾りが淡く光る。


昨日よりも強い。


昨日は”歓迎”だった。

今日は違う。


まるで誰かが喜んでいる。


(姉様……?)


そんな考えが頭を過ぎる。


その時だった。


「リリアナさん?」


「はい?」


「なんか風、嬉しそうですね」


「……!」


リリアナが固まる。


「分かるんですか?」


「いや、何となくですけど」


ライトは笑った。


「今日は昨日より暖かい感じがするというか」


リリアナは思わず息を呑む。


(そんな……)


精霊の感情。

本来、人族には感じ取れない。


ましてライトには風属性の適性すらない。


なのに。


「ライトさんは……精霊が見えるのですか?」


「全然」


「じゃあ聞こえる?」


「それもないです」


「じゃあどうして……」


「勘です?」


「勘……」


リリアナは額へ手を当てた。

この人は本当に規格外だ。



少し離れた場所。

ルミナスとエリオスは、その様子を静かに見守っていた。


「見た?」


「ええ」


エリオスが頷く。


「リリアナは気付いたようですね」


「うん」


ルミナスは表情を引き締める。


「ライト君は無意識に風と会話している」


「本来ならあり得ない」


「精霊契約者でもないのに」


エリオスが静かに言う。


「レガリア同士の共鳴でしょうか」


「……恐らく」


ルミナスは遠く空を見上げた。


「光と闇」


「そして風」


「三つの運命が近付き始めている」


その時だった。


学院上空を、一羽の黒い鳥が横切る。


ルミナスの瞳が細くなる。


「……来たか」



帝都ネメシア。


裏路地。

黒い外套の男が一軒の古びた酒場へ入る。


店内には客が一人もいない。

カウンター奥の老人が静かに口を開く。


「合言葉は」


「黒曜は夜を統べる」


「……入れ」


地下への隠し扉が開く。


そこには十数名の男女が集まっていた。

全員が黒曜石の徽章を胸へ付けている。


王国工作部隊。


その中央に立つのは、昨日学院を監視していた男だった。


「報告」


「対象ライト・グランフェル」


「第二王女との信頼関係、急速に進行」


部屋が静まり返る。


一人の女工作員が笑う。


「予想以上ね」


「ええ」


男は続ける。


「予定を繰り上げます」


机へ一枚の地図を広げる。

そこには帝国学院周辺が細かく記されていた。


「コード《断絶》第一段階」


「学院内へ偽情報を流します」


「狙いは?」


「リリアナ・シルヴェル」


男は冷たく笑った。


「“ライトが王国の間者である”という噂です」


「……!」


「もちろん証拠はありません」


「ですが、人は真実ではなく、不安を信じます」


別の工作員が頷く。


「王女が揺らげば十分」


「帝国、そして魔王国とシルヴァリスの間にも疑念が生まれる」


「その僅かな亀裂が、やがて大きな断絶となる」


「仕上げとして、あの国へ軍を進める…..断絶の完成だ」


全員が静かに笑った。


黒曜計画――《断絶》


その第一手が、ついに放たれようとしていた。



一方、その頃。


学院演習場では。


「いきます!」


リリアナが風を纏う。


「風精――」


その瞬間。

ライトが手を伸ばした。


「そこ、一文字だけ変えてみません?」


「え?」


「流れを逆回転にすると、多分もっと魔力消費が減ります」


「そんなことで……」


半信半疑で術式を書き換える。


「……!」


風が変わった。


今まで以上に滑らかに。

自然に。


魔力消費は半分以下。


「成功……」


リリアナは呆然と呟く。


「一瞬で……改良した……?」


ライトは首を傾げる。


「違いました?」


「違いません……」


「むしろ完璧です」


思わず笑みがこぼれる。


「ありがとうございます」


「こちらこそ」


ライトも笑う。


「風魔法って、本当に面白いですね」


その無邪気な笑顔を見た瞬間。


リリアナは胸の奥が温かくなるのを感じた。


(姉様)


(あなたが導いてくれたのでしょうか)


(この人に会うために)


春風が優しく吹き抜ける。


誰も知らない。


その穏やかな学院の空へ、すでに王国が放った”疑惑”という名の黒い種が運ばれ始めていることを。


その種はまだ小さい。


だが、一度芽吹けば、人の心を蝕むには十分だった。


そして黒曜計画《断絶》は、静かに、確実にその牙をライトへ向け始めていた。

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