第87話 新魔法 終焉光雨
学院襲撃事件から一ヶ月。
帝国学院は、ようやく以前の活気を取り戻しつつあった。
……とはいえ。
『まだ体育館は建設中かぁ……』
巨大な工事現場を見上げ、ライトは苦笑する。
原因の半分以上は隣に立つ銀髪の少女だ。
『マキナ』
『ハイ』
『もう体育館壊さないでね?』
『リョウカイシマシタ』
『本当だろうな?』
『ツギハマチノホウヘユウドウシマス』
『なんで規模がデカくなってるんだよ!!』
『ジョウダンデス』
『今ちょっと間があったよな!?』
いつものやり取り。
学院の日常は少しずつ戻ってきていた。
……少なくとも表向きは。
◇
学院地下。
特別演習場。
帝国最高峰の結界が幾重にも展開された巨大空間。
そこには
学院長ルミナスとライトだけがいた。
『さて』
ルミナスが杖を構える。
『ライト君、今日こそ完成させようか』
『はい』
ライトの表情も真剣だった。
この一ヶ月。
授業が終われば毎日のようにここへ通った。
理由は一つ。
新しい魔法を作るため。
理由は、前回の戦い。
ライトは周りへの被害を考慮し、魔法が使えなかった。
ディバインアビスフレイムは大規模魔法。
辺り一面を吹き飛ばす可能性があった。
そこで、そういった場面でも使える魔法の開発に取り組んでいたのだ。
『君は光と闇の属性を持つ』
『普通なら共存しない』
『だから既存魔法には縛られない可能性がある』
ルミナスはそう言って笑う。
『だが前例が無い以上、今はそれを生かした魔法がない…..』
『なら作ればいい』
『無いなら作る』
『それが魔導士だ』
ライトも笑った。
『確かに』
◇
最初は失敗ばかりだった。
光だけなら巨大な光弾。
闇だけなら破壊魔法。
だが。
下手に融合すると反発する。
あるいは互いを打ち消す。
『あと少しなんだけどな……』
ライトが頭を掻く。
ルミナスは静かに言った。
『固定観念を捨てよう』
『?』
『光を攻撃に使う必要はない』
『闇を破壊に使う必要もない』
『……あ』
その瞬間。
ライトの中で何かが繋がった。
元勇者のフランジュからの助言。
それを思い出した。
◇
数時間後――
『学院長』
『出来るかもしれません』
『見せて』
ライトが深く息を吸う。
右手へ光。
左手へ闇。
二つがゆっくり混ざり合う。
普通なら暴走する。
だが今回は違う。
闇が光を包み。
光が闇を屈折させる。
黒い球体の内部で。
無数の星が瞬いていた。
『これは……』
ルミナスが目を見開く。
『撃ちます』
『結界最大出力!』
結界担当の教師達が魔力を流し込む。
結界が十重にも重なる。
『いけ』
ライトが指を鳴らした。
その瞬間。
黒い球体が空へ浮かぶ。
静かだった。
何も起こらない。
『失敗……?』
教師が呟いた。
その直後。
キィィィィィン……
空気が震える。
黒い球体の内部で。
無数の光が屈折した。
次の瞬間。
シュババババババババッ!!
数え切れないほどの黒銀色の光線が四方八方へ放たれる。
一直線ではない。
空中で何度も屈折し。
反射し。
予測不能な軌道を描きながら。
演習場の標的だけを。
寸分違わず貫いていく。
ドドドドドドドドドドッ!!
一秒。
いや。
〇・数秒。
それだけで
数百体あった魔導標的が全て消滅した。
静寂。
誰一人声を出せなかった。
やがて、ルミナスがぽつりと呟く。
『……恐ろしい』
ライトが振り返る。
『成功ですか?』
『成功どころじゃない』
学院長は苦笑した。
『こんな魔法……戦場で使われたら軍隊が消える』
ライトの頬が引きつる。
『えぇ……』
そんなつもりじゃなかった。
◇
ルミナスは瓦礫となった演習場を見渡す。
『この魔法の名前は?』
『名前……』
ライトは少し考えた。
光。
闇。
無数の閃光。
そして。
天から降り注ぐ裁き。
『……終焉光雨』
黒銀の光が降り注ぐ。
終焉の雨。
ルミナスは静かに頷く。
『いい名前だ』
『帝国魔導史に残るだろう』
ライトは苦笑する。
『残したくないんですけどね』
『平和が一番です』
『それを言う人ほど強いんだけどね』
ルミナスは肩を竦めた。
◇
その日の夕方
学院長室。
『失礼します!』
職員が飛び込んでくる。
『学院長!』
『神樹の国シルヴァリスの外交使節団が帝都へ入りました!』
ルミナスの目が細まる。
『予定より早いね』
『はい』
『先頭には第二王女リリアナ・シルヴェル様ご本人が』
『そう』
ルミナスは窓の外を見る。
夕日に染まる帝都。
『いよいよ始まるか』
その頃。
帝都へ続く街道では。
翠玉の旗を掲げた数十台の馬車が静かに進んでいた。
先頭に立つ少女。
リリアナ・シルヴェルは帝都を見据える。
『待っていてください』
『アイリシア姉様』
その翠色の瞳は。
帝都のさらに先――
まだ見ぬ”運命の少年”へと向けられていた。
新たな出会いが、世界をさらに大きく動かそうとしていた。




