第79話 静かなる火種
77話までの改稿が完了しました。
アドバイスを取り入れて、少しは読みやすくなったかと思いますので、宜しければお読みいただけると嬉しいです。
授業が終わった昼休み――
俺は一人、学食の窓際の席で昼ご飯を食べていた。
たまに一人で食べる食事も悪くはない。
静かに考え事をしながら食事をするなど久しぶりだ。
そんなことを考えながらサンドイッチを頬張っていると――
『ラ、ライトさん……』
控えめな声。
振り返るとレオナが立っていた。
両手で弁当箱を抱えている。
相変わらず小動物みたいだ。
『どうしたの?』
『あの……隣……いい?』
『もちろん』
そう言うとレオナは少し嬉しそうに耳を揺らした。
可愛い。
本当にこの子は獣人というより小動物である。
恐らく野生では生きていけない。
俺がそんな失礼なことを考えていると、
『ライトさんは……あれから、みんなに怖がられてない?』
レオナがぽつりと尋ねてきた。
『ん?』
『その……魔族だから……』
なるほど。
自分も獣人だから気になるのか。
『めっちゃ怖がられてる』
俺は肩をすくめる。
『……嫌じゃない?』
『まぁ、嫌といえば嫌…かな』
正直に答える。
ルシェインやラザールみたいなのは普通に腹が立つ。
だが――
『でも、全員がそうじゃないから』
そう言うとレオナは少しだけ微笑んだ。
『……うん』
それだけだった。
会話終了。
本当に終了した。
しかし不思議と気まずくはない。
この子はこういう子なのだ。
すると。
ドンッ!!
突然、学食の入口付近が騒がしくなった。
何事かと視線を向ける。
そこには数人の男子生徒がいた。
そしてその中心にいるのは――
ルシェイン皇子だった。
『だから言っているだろう!』
珍しく声を荒げている。
周囲の学生達も困惑しているようだった。
『我ら人族が帝国を支えてきたのだ!』
その言葉に空気が凍った。
俺は眉をひそめる。
前にも似たようなことを言っていたが、今日はやけに過激だ。
『皇子様……』
『多種族との共存など理想論だ!』
ルシェインの声に食堂が静まり返る。
その時だった。
『お兄様』
凛とした声が響いた。
食堂の入口に立っていたのはフィオレリアだった。
ルシェインが眉をひそめる。
『フィオレリアか』
『そのような発言はお控えください』
『何故だ?』
『ここは学び舎です』
フィオレリアは周囲を見回した。
獣人。
エルフ。
ドワーフ。
様々な種族の生徒達。
皆が不安そうな表情を浮かべている。
『帝国は多くの種族によって支えられています』
『綺麗事だな』
ルシェインは鼻で笑った。
『相変わらず理想論がお好きらしい』
『お兄様』
『フィオレリア』
二人の視線がぶつかる。
周囲の空気が張り詰めた。
『父上が貴様を評価する理由が、私には未だに理解できん』
その一言で食堂が凍り付く。
フィオレリアも僅かに目を伏せた。
しかし。
『それでも私は帝国の為に尽くします』
静かな声だった。
だからこそ強かった。
ルシェインは忌々しそうに舌打ちする。
『ふん』
そして踵を返す。
『行くぞ』
取り巻きを引き連れて去っていくルシェイン。
その背中を見送りながら、ライトは思う。
――あれは妹への嫉妬だな。
皇帝からの信頼。
民衆の支持。
ルシェインが欲しいものを、フィオレリアは既に持っている。
だからこその反発…結果が多種族排斥か。
食堂内がざわつく。
獣人。
エルフ。
ドワーフ。
様々な種族の生徒達が顔を曇らせた。
レオナも不安そうに耳を伏せている。
俺は静かに立ち上がった。
その時だった。
『ライトさん』
レオナが袖を引っ張る。
『ん?』
『あの人……』
『ルシェイン?』
レオナは無言で俯いた。
そして。
『目が……怖かった』
そう呟いた。
獣人特有の勘なのかもしれない。
俺も同感だった。
あれは思想に染まった目じゃない。
もっと別の何かだ。
誰かに操られている人間の目。
そんな嫌な予感がしていた。
そしてその予感は――
数日後。
学院全体を巻き込む事件として現実になることを、この時の俺達はまだ知らなかった。




