第78話 新任教師シュプールの初授業
謹慎明け初日――
教員室を後にした俺たちは、それぞれの教室へと向かっていた。
道中、ハクとヒメルはやはり緊張している様子だったが、幸いにも以前のような露骨な敵意を向けてくる生徒はいない。
というか、向けられない。
なぜなら――
『おい、あれ魔王国の連中だろ』
『ああ……』
『怖いな……』
『関わるな…..』
そんな声があちこちから聞こえてくるからだ。
どうやら、恐怖の対象としてみられているらしい。
もはや「魔族」というだけで警戒されている。
周りからは明らかに避けられていた。
関わると碌な事にならない。
少なくともそう認識をされ始めているようだ。
まぁ、ルシェインやラザールの思想が広まってしまった感じだ。
ハク、ヒメルと別れたあと、教室に向かって廊下を歩いていると。
廊下の窓際に一人の少女が立っていた。
栗色の髪の隙間から覗く獣耳。
少し俯き気味の姿勢。
クラスメイトの獣人レオナだった。
『あ……』
俺に気付いたレオナが小さく声を漏らす。
すると少しだけ慌てたように視線を逸らした。
相変わらず人見知り全開である。
『久しぶり、レオナ』
『……う、うん』
小さな返事。
消え入りそうな声だった。
『元気だった?』
『……うん』
頷く。
会話終了。
いや、本当に終了した。
どうしよう。
俺も別にコミュ力お化けではないので、こういう時は困る。
するとレオナが少しだけ顔を上げた。
『その……』
『ん?』
『ライト……さん……』
さん付けだ。
律儀である。
『学院……戻ってきて……良かった』
それだけ言うと再び俯いてしまった。
耳だけがピクピク動いている。
照れているらしい。
『ありがとう』
そう言うと、レオナはさらに顔を赤くしてしまった。
レオナとそんなやり取りをしながら教室へ入ると、クラスの連中が一斉にこちらを見た。
一瞬だけ静まり返る空気。
降りかかる拒絶感。
その直後だった。
ガラリ
教室の扉が開いた。
入って来たのは担任教師。
ではなく。
『皆さ~ん、おはようございま~す♡』
知らないお姉さんだった。
いや、知らない訳じゃない。
知っている。
知りすぎるほど知っている。
『シュプール!?』
思わず叫んでしまった。
なぜ俺の教室の教壇に立っている。
『本日から魔導兵器学の特別講師として着任いたしました~♡』
教室がざわつく。
当然だ。
見た目だけなら絶世の美女である。
おまけに魅惑のボディ。
問題は中身だ。
『魔導兵器とは~、人の心と身体を熱くする素晴らしい存在です~♡』
始まった。
『皆さんにもぜひ~♡』
始まったぞ。
『魔導兵器の魅力を身体で感じて頂きたいと思います~♡』
完全にアウトだ。
男子生徒達がざわつき始める。
女子生徒達はドン引きしている。
俺は頭を抱えた。
開始一分で学級崩壊の危機である。
◇
『それでは~本日の教材をお持ちしました~♡』
そう言ってシュプールが取り出したのは。
見覚えのある黒い塊。
俺は嫌な予感がした。
『これは~魔王国で量産が開始された魔法式自動小銃アサルトで~す♡』
教室が騒然となった。
『お、おい本物か!?』
『武器じゃないか!』
『すげぇ!』
男子共が食いつく。
分かる。
男の子だからな。
だが問題はそこじゃない。
『シュプール先生』
俺は手を挙げる。
『なんでしょう~?』
『学院で実銃持ち込んでいいの?』
『許可取ってませ~ん♡』
『ダメじゃねぇか!!』
教室中が吹き出した。
◇
結局。
シュプールは副学院長エリオスに連行された。
『あぁ~ん♡もっと優しく連れて行って下さい~♡』
『黙りなさい!!』
教室の外からエリオスの怒号が聞こえる。
心底お疲れ様です。
俺はそう思った。
しかし。
問題はまだ終わっていなかった。
シュプールが置いて行ったアサルトを見つめながら、クラスの男子達がざわざわしている。
その中に。
一人だけ。
明らかに違う視線を向けている男がいた。
ルシェイン皇子の取り巻きの一人だ。
その目には興味だけではない。
もっと別の感情が宿っている。
敵意。
『魔王国か……』
誰にも聞こえないほど小さな声。
だが。
その呟きは確かに俺の耳に届いていた。
なんとなくだが。
面倒事の匂いがする。
そんな予感を覚えながら、俺は静かにその男子生徒へ視線を向けるのだった。




