第72話 男のロマン、2丁拳銃
シュプールから受け取った新型魔導兵器を見て、俺は思わず顔を綻ばせた。
それは金属の塊を削り出したような無骨なフォルム。
そして――
二丁。
そう、二丁拳銃だった。
俺はゆっくりとグリップを握る。
構える。
ニヤける。
そしてもう一度構える。
やっぱりニヤける。
「いい……」
「はい〜?」
「いいぞシュプール……!」
「ありがとうございます〜」
俺は左右の拳銃を交互に眺めながら頷いた。
「やっぱ拳銃といえばガバメントなんだよ」
「がばめんと〜?」
「男のロマンだ」
「なるほど〜?」
シュプールは全く理解していない顔だった。
だが構わない。
理解されなくてもいい。
ロマンとはそういうものだ。
「それで性能は?」
「もちろん抜群です〜」
シュプールが胸を張る。
「ライト様専用小型兵器ナインティーンイレブン」
「ネーミングも最高だな」
「ライト様の魔力を利用することで〜、従来兵器とは比較にならない威力を実現しております〜」
「おお」
「最高にセクシーです〜」
「その表現やめろ」
とりあえず試射することになった。
さすがに室内は危険らしい。
開発局の裏手にある演習場へ移動する。
遠くには小さな丘が見える。
標的にはちょうどいい。
俺は片方のナインティーンイレブンを構えた。
「じゃあ行くぞ」
「はい〜」
引き金を引く。
次の瞬間。
ズガァァァァァァァァァンッ!!!
世界が揺れた。
腕がもげたかと思った。
衝撃で身体ごと後ろへ吹き飛ばされる。
耳がキーンと鳴る。
煙が晴れる。
そして――
丘が無かった。
「……」
「……」
「丘が無いんだけど」
「はい〜」
「なんで?」
「消し飛びました〜」
「見れば分かるわ!!」
俺は震える手で拳銃を見る。
怖い。
普通に怖い。
なんだこれ。
拳銃じゃない。
携帯型決戦兵器だ。
「生き物に向かって撃ったらどうなるんだ?」
「消えます〜」
「だよな!!」
シュプールは平然としていた。
むしろ満足そうですらある。
「従来型は爆発魔法で弾を射出していましたが〜」
「うん」
「こちらはライト様の魔力を直接利用しております〜」
「嫌な予感しかしない」
「つまりライト様が強くなるほど威力も上がります〜」
「欠陥兵器だろそれ」
俺は慌てて調整機構を探した。
するとグリップの上に小さな突起がある。
「これか?」
「そうです〜」
「今どのくらいの出力なんだ?」
「最小です〜」
「最小!?」
思わず絶叫した。
丘が消し飛んだんだぞ?
これで最小?
最大にしたら何が消えるんだ?
国か?
大陸か?
俺か?
「シュプール」
「はい〜」
「威力下げよう」
「え〜」
「下げよう」
「もったいないです〜」
「下げよう」
「分かりました〜」
数時間後
威力と反動を少しだけ抑えた改良版が完成した。
少しだけ。
本当に少しだけだった。
不安しかない。
しかし見た目は最高だった。
ショルダーホルスターに二丁を収める。
鏡を見る。
決まっている。
実に決まっている。
「ふふふ……」
「お似合いですよ〜」
「だろ?」
「すごく厨二病です〜」
「言うな」
するとシュプールがもう一つ差し出した。
銀色の指輪だ。
「こちらも完成しております〜」
「お?」
「透明化魔道具です〜」
「マジか!」
以前、何気なく提案した物だった。
まさか本当に作るとは思わなかった。
俺は急いで指輪を装着する。
魔力を流す。
すると――
身体が消えた。
「おおおおお!」
「成功です〜」
「完璧なステルス迷彩じゃねぇか!」
テンションが爆上がりする。
透明化。
二丁拳銃。
空を飛べる。
男の子の好きなものセットである。
無敵だ。
「これで敵地潜入も出来るな……」
「ですね〜」
「試し撃ちもし放題だな……」
「ですね〜」
「ふふふふふ……」
「ふへへへへ〜」
二人で悪い笑みを浮かべる。
完全に悪役だった。
しかし次の瞬間。
シュプールが真顔で言った。
「私は透明人間になったら〜」
「うん」
「あんなことやこんなことを――」
「やっぱお前ダメだわ」
俺は即座に結論を出した。
やはりシュプールはシュプールだった。
天才。
だが変態。
圧倒的に変態。
それでも。
技術力だけは本物だ。
だから俺は決断した。
「シュプール」
「はい〜?」
「魔王代行権限をもって命令する」
「ほう〜?」
「ジューダス帝国へ出向だ」
「え〜?」
「帝国の魔導兵器開発を手伝え」
一瞬だけ沈黙。
そして。
「いいですよ〜」
「軽っ!?」
「面白そうですし〜」
こうして。
魔王国最強の技術者にして最大級の問題児。
開発局局長シュプールのジューダス帝国出向が決定したのだった。




