第70話 謹慎期間の過ごし方
昨日の騒動を受け、学院は迅速な処分を下した。
騒動の当事者であるハク。
そして平手打ちを行ったフィオレリア。
さらに被害生徒たちも含め、全員が一週間の自宅謹慎処分となった。
もちろんライトたちも黙ってはいなかった。
フィオレリアが自分たちを守るために動いたこと。
そして騒動の発端が彼女の善意にあったこと。
それらを学院へ説明したうえで、
「なら俺たちも謹慎します」
と、自ら申し出たのである。
本来ならルシェイン皇子の責任も追及できた。
だが――
あいつだけは自分の手で落としたい。
そんな理由から、ライトは敢えて泳がせることを選んだ。
入学初日に謹慎。
前代未聞である。
だが、もしあの場にフィオレリアが来ていなければ。
もしエリオス副学院長が止めてくれなければ。
おそらく自分は――
皇都ごと吹き飛ばしていた。
そう考えれば、一週間の謹慎など安いものだった。
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現在。
ライトは自室でハクと向き合っていた。
目的は事情聴取。
そして教育という名のお説教である。
「ハク~?」
「うぅ……」
「他の生徒をぶっ飛ばしたらダメだぞ~?」
「俺、反省……」
ぺたり。
狼耳が完全に寝た。
見るからにしょんぼりしている。
その姿に、ライトは思わず苦笑する。
「まぁ気持ちは分かるけどなぁ」
「ほんと?」
「分かる分かる」
「おぉ!」
一瞬で耳が立った。
単純である。
だが理由を聞けば責め切れなかった。
ハクが怒った原因は――
ライトの悪口だった。
魔族は気持ち悪い。
見た目は人族のくせに不気味だ。
そんな言葉を何度も浴びせられたらしい。
自分への悪口だけなら我慢できる。
だが家族を侮辱されたら話は別だ。
それはライトも同じだった。
だからこそ。
「まぁ殴ったことは駄目だ」
「うぅ……」
「でも俺のために怒ってくれたのは嬉しい」
「……!」
尻尾がぶんぶん振られた。
現金なやつである。
結局三人で話し合った結果、
新たなルールを作ることになった。
怒ったら深呼吸。
それでもダメならインカムで相談。
まず状況説明をする。
それから判断する。
たったそれだけだが、意外と効果は大きい。
人は言葉にするだけで冷静になれる。
問題改善にはルール作りが大事。
これは前世の会社で嫌というほど叩き込まれた。
まぁ若干ブラック企業だったが、役に立つこともあったらしい。
「よし!」
ライトはパンと手を叩く。
「今後は簡単に手を出さない!」
「「はーい!」」
元気な返事が返ってくる。
うむ。
実によろしい。
さて。
問題はここからだ。
今日から一週間。
完全な自由時間である。
監視もいない。
外出禁止でもない。
要するに休日だ。
どうしようか。
そう考えていたライトの頭に、ふと一つの案が浮かんだ。
「あ」
「?」
「?」
「魔王国帰るか」
「行くー!」
「帰りたい!」
即答だった。
どうやら二人も故郷が恋しかったらしい。
ライト自身も理由はあった。
戦後復興の確認。
父の容態確認。
そして――
シュプールの進捗確認。
これである。
実は様々な魔道具や魔導兵器の開発を依頼していたのだ。
正直かなり気になっていた。
さらに学院へ通ってみて確信したことがある。
セレスティナ帝国学院。
確かに名門だ。
だが。
魔導兵器学だけは壊滅的だった。
魔道具技術は高い。
なのに軍事転用の発想が無い。
最新兵器が属性付与バリスタ。
いや。
それ兵器じゃなくて改良型バリスタだろ。
ライトは心の中で盛大にツッコんだ。
発想が古い。
保守的すぎる。
このままでは同盟国として不安である。
そこでライトは一つの結論へ辿り着いた。
シュプールを連れて来よう。
天才である。
人格は終わっている。
下ネタも多い。
教師適性はゼロだ。
だが。
魔導兵器開発能力だけなら魔王国最強。
アイデアを出すライト。
実際に作るシュプール。
この構図で成り立っている以上、功労者は間違いなくあいつだ。
「うん、決めた」
ライトは立ち上がった。
「シュプールを学院教師にする」
「絶対ダメだと思う」
ヒメルが即座に否定した。
「俺もダメだと思う」
ハクも続く。
珍しく意見が一致していた。
だがライトは聞かなかった。
聞く気もなかった。
「善は急げだ」
「ご主人様、人の話聞いて?」
「聞いてる」
「聞いてない!」
魔王国まで片道三日。
往復でも一週間以内。
十分間に合う。
「よし、出発だ!」
「おー!」
「帰るぞー!」
こうして三人は荷物をまとめると、
久しぶりの故郷――
魔王国へ向けて飛び立つのだった。
そしてその決断が、後にセレスティナ帝国学院を、良くも悪くも大混乱へ叩き込むことになるとは、この時のライトはまだ知らなかった――




