第6話 魔王城でピクニック
初めての作品で、手探りで執筆しておりますので内容において、度々改変などがされております。
ご不便をお掛け致しますが、温かい目でご覧頂けると幸いです。
ベイルたち魔王騎士団が謎の被害を受けてから数日後――。
北方大陸のさらに南。
人族最大の勢力圏である中央大陸の、とある王城。
その最奥にある謁見の間は、豪奢という言葉だけでは到底表現しきれないほど煌びやかだった。
壁一面には金箔と精巧なレリーフが施され、天井には巨大なシャンデリアが吊るされている。
そして部屋の奥には、富と権力の象徴とも言える黄金の玉座。
その玉座に腰を下ろした男が、眼下に跪く騎士を鋭く睨みつけていた。
『勇者の子の居場所は、まだ掴めんのかっ!!』
怒声が広間に響く。
豪華な鎧に身を包んだ騎士は頭を深く垂れた。
『はっ! 現在、あらゆる手段を用いて捜索を続けております。しかし未だ確たる所在は判明しておりません』
『何をやっておる!!』
王は肘掛けを強く叩いた。
『あの役立たずが最後に立ち寄ったのは魔王国だと分かっておるだろうが!』
『はっ! 我らアストリア王国は再三に渡り、魔王国へ勇者の子の引き渡しを要求しております。しかし返答は一切ございません』
騎士は僅かに顔を上げる。
『現在、我が軍は北方大陸への侵攻を進めております』
その報告を聞いた王は不敵な笑みを浮かべた。
『ふん……』
『あの忌々しい魔王ガルスが、あ奴らの子を匿っているのは明白だ』
そして王は立ち上がる。
『魔導兵器でも何でも投入しろ!』
『一刻も早く魔王城を攻め落とせ!』
『これは王命だ!! 遅滞も失敗も許さん!!』
『はっ!!』
騎士は深々と一礼し、その場を後にした。
重厚な扉が閉じる。
静寂が訪れる中、王は玉座に深く腰を沈めた。
『何としても取り戻せ……』
その瞳には狂気にも似た執着が宿っている。
『この世界は我がアストリアのものなのだからな……』
低く呟いたその声は、まるで呪詛のようだった。
◇◇◇
一方その頃――。
魔王城では、そんな不穏な空気とは無縁の平和な時間が流れていた。
『ライト様、ハク。今日は中庭でお昼を食べるだーよ』
教育係兼世話係であるホイズが、俺たちを中庭でのピクニックへ誘ってくれたのだ。
最近の俺が少し不満を溜め込んでいるように見えたらしい。
どうやら気を遣ってくれたようだ。
『やったー!』
『ワフッ!』
俺とハクは揃って声を上げる。
魔王城の中庭はとにかく広い。
普通の城の庭を想像してはいけない。
下手をすると、その辺の牧場より広い。
中央には小高い丘まで存在している。
『いつ来ても広いなぁ……』
『ワフッ!』
十年間住んでいても、そのスケールには圧倒される。
隣のハクも感心したように鳴いていた。
……こいつも案外庶民派だ。
丘の上へ到着した頃には、ちょうど昼時になっていた。
ホイズは慣れた手付きで敷物を広げ、その上に豪華な弁当を並べていく。
『そろそろお昼だーよ』
『みんなで食べるだーよ』
並べられた料理を見て、俺は思わず目を輝かせた。
相変わらず凄い。
ホイズは料理の天才だ。
ステータスにある「料理の才」は伊達じゃない。
しかも今日の弁当は――
魔王ガルスを模したキャラ弁だった。
よく見ると再現度が異常に高い。
『ワフワフッ!』
ハクも待ちきれないようで尻尾を高速回転させている。
可愛い。
本当に可愛い。
そんなハクを眺めていると――。
『おーい!! 俺も混ぜてくれー!!』
聞き慣れた声が響いた。
振り向くと、遠くから手を振りながら駆け寄ってくる人物がいる。
魔王ガルスだった。
『父ちゃん!』
最近は城を空けることが多く、顔を合わせる機会も減っていた。
『父ちゃん、いつ帰ってきたの?』
『ついさっきだ』
ガルスは笑いながら俺の頭を撫でる。
『俺のいない間、ちゃんと良い子にしてたか?』
『もちろんっ!』
『そうかそうか!』
豪快に笑うガルス。
その様子を見て、ホイズもどこか嬉しそうだった。
『じゃあ魔王様も一緒に食べるだーよ』
だが次の瞬間。
ホイズが一瞬だけ焦った顔を見せた。
なぜなら弁当がガルス本人を模したキャラ弁だったからである。
本人に見られたら気まずい。
ホイズは神業のような手際でキャラ弁を崩し、何事もなかったように取り分け始めた。
その鮮やかな仕事ぶりに、俺は密かに感心する。
中々やるなホイズ…
『うまーい!』
『ワン! ワン!』
『うむ、美味いな』
『ホイズよ、腕を上げたな』
魔王も絶賛である。
『良かっただーよ』
『朝早く起きて作った甲斐があっただーよ』
ホイズも嬉しそうに笑った。
家族みたいだな。
ふとそんなことを思う。
だが――
その穏やかな時間は長く続かなかった。
『魔王様!!』
突然、数人の魔族が血相を変えて駆け寄ってきた。
息を切らし、額には大量の汗。
明らかに異常事態だ。
彼らは俺を一瞥すると、そのままガルスへ視線を向ける。
言葉はない。
だが、その表情だけで十分だった。
ガルスの顔から笑みが消える。
『そうか……』
短く呟いた。
『分かった』
その一言で空気が変わった。
そしてその顔は、さっきまでの優しい父親の顔ではない。
魔王としての顔だった。
『ライト、ハク』
『悪いが少し用事ができた』
『続きはまた今度だ』
『父ちゃん?』
『ホイズ、お前も来てくれ』
『任せるだーよ』
ホイズもまた真剣な表情で頷く。
俺は立ち上がった。
『父ちゃん!』
『俺も手伝うよ!』
『ワウッ!!』
ハクも力強く吠える。
今の俺は昔とは違う。
訓練も積んだ。
少しくらいなら役に立てるはずだ。
しかしガルスは首を横に振った。
『駄目だ』
『俺たちはこれから城の外へ向かう』
その言葉に胸がざわつく。
城の外。
それは俺がずっと行きたいと願っていた場所だった。
『お前たちは留守番だ』
『でも――』
『行くぞ!!』
俺の言葉を遮り、ガルスは踵を返す。
ホイズと魔族たちも続いた。
『父ちゃん……』
『クゥーン……』
残されたのは俺とハクだけ。
遠ざかっていく背中を見つめながら、俺は言いようのない不安を感じていた。
まるで――
何か大きな出来事が始まろうとしているような。
そんな嫌な予感が胸の奥で静かに膨らんでいた。




