第5話 この世界のこと
初めての作品で、手探りで執筆しておりますので内容において、度々改変などがされております。
ご不便をお掛け致しますが、温かい目でご覧頂けると幸いです。
ハクとの出会いから二年――。
――ライト10歳――
今日も俺は懲りずに脱走を試みていた。
もちろん相棒のハクも一緒だ。
「これは……チャンスだ!」
「ワン! ワン!」
いつもなら感じるはずの父ちゃん――魔王ガルスの圧倒的な気配が、今日はどこにもない。
俺とハクは城内を駆け抜け、誰にも見つからないまま魔王城エントランスの大扉へと辿り着いた。
ついに。
ついにこの時が来たのだ。
八歳から挑戦し続けて二年。
いや、正確には七歳頃からだから三年近くになる。
「苦節三年……ついに魔王城の外へ出る時が来た! ハク、行くぞ!」
「ワォォォン!」
テンション最高潮のまま、俺は扉の取っ手へ手を伸ばした。
――だが。
「ん?」
触れない。
取っ手まであと数センチというところで、見えない何かに弾かれた。
もう一度。
やっぱり駄目だ。
まるで同じ極の磁石同士を近づけた時のような反発力が働き、手が押し戻される。
「……え?」
試しに両手で突っ込む。
弾かれる。
肩から体当たりする。
吹き飛ばされる。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁっ!!」
思わず前世の刑事ドラマで見た名台詞が飛び出した。
当然ハクには意味が分からないらしく、隣で首を傾げている。
可愛い。
いや、今はそれどころじゃない。
「出られない……」
俺はその場に膝をついた。
どうやら父ちゃんは本気だったらしい。
これまで何度も脱走を繰り返した結果、ついに城全体へ結界を張ってしまったようだ。
絶対に外へ出すものかという強い意志を感じる。
「……くっ」
だが、落ち込んでいても始まらない。
俺は前向きな男だ。
良い結果を得るためには、時には撤退も必要。
今日は大人しく引き下がることにした。
⸻
自室へ戻った俺は、ベッドの上で寝転ぶハクを眺めていた。
ふわふわの白い毛並み。
宝石のような青い瞳。
人懐っこい仕草。
可愛い。
とにかく可愛い。
前世でも犬を飼っていたが、ハクはそれを遥かに超える破壊力を持っていた。
もっとも――。
見た目は愛玩動物そのものだが、戦闘になると話は別だ。
ハクはれっきとした魔物であり、戦闘訓練では驚異的な身体能力を発揮する。
俺はステータスを開いた。
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名前:ハク
レベル:21
称号:ライトの相棒
ジョブ:ホワイトウルフLv.14
(種族特性につき進化以外で変更不可)
熟練度:爪牙術Lv.8
特性:
・親愛の情
・誠の忠誠心
・王の資格
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「うんうん、順調だな」
思わず頷く。
ホワイトウルフは魔王国でも滅多に見かけない希少種らしい。
天然記念物とか絶滅危惧種みたいなものだ。
しかも本来は群れで生活し、その中から王を選ぶ習性を持つという。
王の資格。
おそらくハクには群れの王になれるだけの素質があるのだろう。
まだまだ知らないことばかりだ。
外の世界もそう。
俺は何も知らない。
知りたい。
見てみたい。
そんな好奇心が胸の奥で疼く。
だが、今は結界がある。
無理に動けば警戒されるだけだ。
下手をすると父ちゃんが本気で怒る。
それは避けたい。
魔王を怒らせるのは愚の骨頂だからな。
⸻
結局、俺は気持ちを切り替えて書物庫へ向かった。
最近のお気に入りの場所だ。
俺が本を読み、ハクが隣で昼寝する。
それだけの時間なのに妙に落ち着く。
コーヒーでもあれば完璧だったのだが、この世界にはまだない。
残念だ。
書物庫には魔法、錬金術、魔道具、歴史書など様々な本が並んでいる。
その中から今日選んだのは一冊の本。
『種族と国』
最近気付いたことがある。
父ちゃん達は戦闘技術こそ徹底的に教えてくれるが、外の世界についてはほとんど教えてくれない。
まるで意図的に遠ざけているかのようだ。
だから自分で調べる。
本によれば、この世界には大きく分けて八つの主要種族が存在するらしい。
・人族
・エルフ族
・ダークエルフ族
・ドワーフ族
・小人族
・巨人族
・獣人族
・魔族
さらに細かく分類すると、その数は膨大になる。
獣人族だけでも狼型、虎型、馬型、兎型など様々だ。
「そういえば転生候補に牛もいたな……」
ミノタウロスに進化できるとか言われていた気がする。
今思うと危なかった。
そして最も人口が多いのは人族。
世界最大勢力でもあるらしい。
だが、本に書かれている内容はあまり好意的なものではなかった。
他種族への侵略。
弾圧。
差別。
そんな記述が目立つ。
「人族、結構やらかしてるな……」
正直、印象は良くない。
俺はイジメが嫌いだ。イジメカッコ悪い。
数にものを言わせて弱い者を押さえつけるなんて、格好悪いにも程がある。
さらに読み進める。
世界は五つの大陸に分かれていた。
中央大陸。
南方大陸。
西方大陸。
東方大陸。
そして北方大陸。
俺達が住む魔王国は北方大陸に存在する。
中央大陸には人族国家が集中しており、
ジューダス帝国。
アストリア王国。
ツヴァイス神聖国。
などの大国が存在しているらしい。
「面白そうだな……」
いつか行ってみたい。
そんな思いが強くなる。
だが同時に、本にはこうも書かれていた。
人族は魔道具と数の力を利用し、他種族へ侵略戦争を仕掛けている、と。
「なんかやっぱり人族は格好悪いな……」
俺は本を閉じた。
その時だった。
ざわざわ。
城内が妙に騒がしい。
違和感を覚えた俺は、急いで書物庫を飛び出した。
⸻
エントランスへ到着すると、そこには負傷者が溢れていた。
治癒師達が慌ただしく動き回っている。
そして。
「ベイル先生!?」
俺は目を見開いた。
そこには剣術の師であり、魔王騎士団長でもあるベイルがいた。
全身に無数の傷を負っている。
鎧は破損し、血に染まっていた。
「ん? ああ、ライト様……どうなされました?」
ベイルはいつも通り穏やかに微笑む。
だが、その顔色は明らかに悪い。
「どうなされたじゃないよ! その怪我どうしたの!?」
「……何でもありません」
「何でもない訳ないだろ!」
思わず声を荒げる。
しかしベイルは答えない。
ただ静かに視線を逸らした。
そして部下に肩を借りながら、その場を去っていく。
残された俺は他の騎士達にも聞いて回った。
だが返ってくる答えは同じだった。
「何でもない」
「心配いりません」
「大丈夫です」
誰も本当のことを話そうとしない。
「一体何があったんだ……」
ベイルは強い。
この城でもトップクラスの実力者だ。
そのベイルがここまで傷付けられる相手など、そうそういるはずがない。
しかも被害は騎士団全体に及んでいた。
胸の奥がざわつく。
嫌な予感がする。
俺は急いで玉座の間へ向かった。
だが、魔王ガルスはいなかった。
城中を探し回る。
ホイズにも聞いた。
他の魔族達にも聞いた。
それでも全員が口を閉ざす。
知らない。
分からない。
そんなはずがない。
絶対に何かを隠している。
「なんで誰も教えてくれないんだ……」
拳を握り締める。
父ちゃんの秘密。
俺の本当の両親の秘密。
外へ出られない理由。
そして今回の襲撃。
隠されている真実…
一体何なんだ――




