第67話 学院生活の始まり
職員室での一悶着を終えた後、俺たちはそれぞれ担当教諭に連れられ、自分の教室へと向かっていた。
俺は初等課程。
ハクとヒメルは予備課程。
当然ながら別々の教室だ。
とはいえ、二人は同じクラスになったらしい。
初めての学校生活で離れ離れになるのは流石に不安だったので、それを聞いた時は少しホッとした。
ちなみに編入試験の結果、俺たちは三人ともAクラスへの編入となった。
成績上位者が集まる最上位クラスである。
貴族子弟ばかりが所属するSクラスへの打診もあったらしいが、俺たちは身分を隠している留学生だ。
余計な注目は避けたい。
そのため丁重に辞退させてもらった。
俺を案内している担当教諭は、ダークエルフの女性だった。
名前はリゼルナ。
褐色の肌に長い耳。
そして腰まで届く艶やかな黒髪。
教師としての落ち着いた雰囲気も相まって、かなりの美人先生である。
(これは人気ありそうだな……)
そんなことを考えながら後を追う。
やがて教室の前へ到着した。
中からは賑やかな話し声が聞こえてくる。
朝のホームルーム前。
友人同士で話す者。
本を読む者。
机に突っ伏して眠る者。
前世の学校でもよく見た光景だった。
(懐かしいな……)
異世界だろうが何だろうが、学校は学校らしい。
そんな感慨に浸っていると――
ガラガラッ。
リゼルナ先生が教室の扉を開いた。
途端に教室が静まり返る。
どうやらよく統率されたクラスらしい。
『皆さん、おはようございます』
『『おはようございます!』』
元気な返事が教室に響く。
『本日から、このクラスに留学生を迎えます。皆さん、共に学ぶ仲間として迎えてあげてください』
その言葉に教室がざわついた。
そして――
『ライトくん、どうぞ』
呼ばれた俺は深呼吸を一つ。
ゆっくりと教室へ足を踏み入れた。
瞬間。
全員の視線がこちらへ集中する。
(うわぁ……)
久しぶりだ。
この感覚。
前世でも転校なんて経験はなかったから、これは普通にキツい。
そんな中、教室を見回していると、後方の席から小さく手を振るフィオレリアの姿が見えた。
その笑顔を見た瞬間、不思議と肩の力が抜ける。
よし。
なんとかなる。
『魔王国からの留学生として参りました、ライト・グランフェルと申します』
軽く一礼する。
『年齢は十歳と皆さんより年下ですが、これから色々なことを学びながら仲良くしていけたらと思っています。どうぞよろしくお願いします』
言い終わる。
すると――
教室が静まり返った。
(あれ?)
沈黙。
嫌な沈黙。
(もしかして歓迎されてない……?)
不安になり始めた、その時だった。
『え、ちょっと待って』
『めっちゃイケメンじゃない!?』
『ヤバッ、魔王国って美形しかいないの!?』
『魔族なのか!?』
『俺、初めて見たぞ!』
ドッと教室が沸いた。
どうやら心配は杞憂だったらしい。
むしろ歓迎されている。
少なくとも見た目は。
『はいはい、静かにしてください』
リゼルナ先生が手を叩く。
『ライトくんはあちらの席へ』
『はい』
指定された席は窓側列の後ろから二番目。
俺は素早く歩き出した。
(ここで誰か足を引っ掛けてくるんだよな)
漫画やラノベのお約束だ。
転ぶ。
喧嘩になる。
友情が芽生える。
完璧な流れである。
だが――
何も起きなかった。
(……平和だな)
ちょっとだけ残念だった。
席に腰を下ろす。
すると隣の席の女の子が妙にソワソワしていることに気付いた。
頭には三角形の耳。
椅子の後ろではふわふわの尻尾が落ち着きなく揺れている。
獣人族だろう。
猫系かもしれない。
耳と尻尾以外はほとんど人族と変わらない整った顔立ちだった。
視線が合う。
慌てて逸らされる。
そして尻尾だけが正直にパタパタ揺れていた。
可愛い。
『初めまして。ライトです』
『ひゃっ!?』
肩を震わせる少女。
『わ、私はレオナです……よろしくお願いします……』
消え入りそうな声だった。
かなり人見知りらしい。
(仲良くなれそうだな)
そう思ったところで授業開始の鐘が鳴った。
『それでは一限目を始めます』
記念すべき学院での最初の授業。
基礎魔導学だ。
俺は自然と背筋を伸ばした。
魔王城でもアローラから魔法を学んだ。
先代魔王レイドからも高度な魔法運用を教わった。
だが、それでも知らないことは多い。
特に俺は光属性と闇属性に偏った学習しかしていない。
せっかく学院に通うのだ。
ここでしっかり学びたい。
できれば友達も作りたい。
そんな期待を胸に、俺はリゼルナ先生の授業へ耳を傾けるのだった。




