第62話 フィオレリアの願い
間違えて1話飛ばして投稿しておりました…
投稿内容は修正させて頂きましたが、既にお読み頂いていた方がいらっしゃいましたら、困惑させてしまい大変申し訳ございませんでした。
王国軍の撤退を見届けたライトは、小さく息を吐いた。
「ふぅ……上手くいったな」
眼下では帝国軍が勝鬨を上げている。
もちろん、彼らは知らない。
自分たちの勝利の裏で、山の上から三人の魔族がゴーレムの頭を次々と吹き飛ばしていたことなど。
今回の目的は戦場視察。
そして――新兵器【対ゴーレム狙撃兵器バレット】の実戦試験。
結果は文句なしだった。
兵士型ゴーレムを二キロ以上離れた場所から一撃で撃破。
命中精度も威力も想定以上。
今後さらに改良すれば、戦争そのものの常識を変える兵器になるかもしれない。
(シュプールには量産を急がせよう……)
将来的には専属の狙撃部隊も欲しい。
魔王軍狙撃隊。
なかなか格好いい響きではないか。
そんな妄想をしていると、
「これ、楽しい」
「またやりたいねぇ〜♪」
隣ではハクとヒメルが満面の笑みを浮かべていた。
どうやら二人にとっては対物ライフルも射的遊び程度の感覚らしい。
恐ろしい子たちである。
「うん、また今度な」
苦笑しながら頭を撫でる。
そして三人は帝都ネメシアへと帰還した。
⸻
皇城ヴァルハイム
その頃――
皇城の中庭では、ディオルグ皇帝とフィオレリア皇女が並んで歩いていた。
「お父様、ライト様のことなのですが……」
その言葉に、ディオルグは思わず表情を強張らせる。
ルシェインの一件以来、彼はライト絡みの話題に少々神経質になっていた。
「な、何か問題でもあったのか?」
「いえ、その逆です」
フィオレリアは柔らかく微笑んだ。
「ライト様は今まで学園に通われた経験がないそうなのです」
「ほう?」
「ですので、この機会にセレスティナ帝国学院へ留学して頂くのは如何かと思いまして」
その提案にディオルグは目を細める。
そして数秒考えた後、
「……それは良い案かもしれんな」
そう呟いた。
魔王代行。
同盟国の代表。
数々の肩書きを持つ少年。
しかし同時に、まだ十歳の子供でもある。
皇城に閉じこもり、政治や軍事の話ばかり聞かされるより、同年代の子供たちと交流する方が健全だろう。
「うむ。許可しよう」
「本当ですか!?」
フィオレリアの顔がぱっと輝く。
「手続きはこちらで進める。お前はライト殿に伝えてきなさい」
「ありがとうございます、お父様!」
そう言うや否や、フィオレリアは嬉しそうに駆け出した。
その背中を見送りながら、ディオルグは苦笑する。
「……あそこまで喜ぶとはな」
そして小さく呟いた。
「まさかフィオレリア、お前……」
最愛の娘が誰かを想う年頃になった。
それを悟った父親の胸中は、少しだけ複雑だった。
そしてその日の夕刻。
皇城の客室。
戦場で散々はしゃいだハクとヒメルは、すでにベッドの上で夢の中だった。
そんな中。
コンコン――
部屋の扉が叩かれる。
「はーい、どうぞー」
入ってきたのはシグルドとハインツだった。
二人とも何とも言えない表情をしている。
「……ライト殿」
「はい?」
「国境付近で展開していた部隊から報告がありまして」
嫌な予感しかしない。
「その……やりました?」
やっぱり来た。
ライトは観念して笑う。
「やりました。てへっ」
シグルドとハインツは同時に額を押さえた。
やはりこの少年には常識が通用しない。
その認識を改めて更新することになるのだった。
さらにその直後。
再び扉が叩かれる。
現れたのはフィオレリア皇女だった。
「実はライト様にご相談がありまして」
「相談?」
「はい」
そして彼女は満面の笑みで告げた。
「セレスティナ帝国学院への留学が正式に決まりました」
「…………へ?」
ライトは固まった。
完全に固まった。
なぜなら。
数時間前まで戦場で対物ライフルを撃っていた自分が、来週から学園に通うことになったからである。
(待ってくれ)
(俺、中身五十歳超えてるんだけど?)
当然、そんな事情を知る者は誰もいない。
こうして魔王代行ライトは――
前世を含めれば三十年以上ぶりとなる学生生活へと突入することになったのだった。




