第61話 戦場視察と新兵器
午後から行われたジューダス帝国軍との戦略会議は、大きな混乱もなく無事に終了した。
実際に話してみて分かったことだが、帝国軍の将校達は皆、騎士あるいは騎士出身者ばかりだったこともあり、実力を何より重んじる気風が強かった。
悪く言えば脳筋。
だが、力を示せば素直に認めてくれる。
元々実力主義の魔族社会で育った俺としては、むしろ付き合いやすい部類だった。
なにより大きかったのは、シグルドとハインツの存在だろう。
二人は会議中、ことあるごとに俺や魔王国の功績を語ってくれた。
「あの機銃は凄い」
「魔王国の技術力は本物だ」
「ライト殿は信用に値する」
そんな具合に散々持ち上げてくれたおかげで、会議は驚くほどスムーズに進んだ。
後で何か礼をしなければならないな。
そんなことを考えながら、会議内容を思い返す。
主な議題は【対侵略者殲滅用兵器キジュウ】の供給についてだった。
価格は同盟国価格ということでかなり抑えたが、その代わり大量受注が決まった。
さらに魔鉱製弾丸の定期販売契約まで締結。
継続的な利益も見込める。
帝国はゴーレムに対抗する兵器を手に入れ、魔王国は新たな市場を得る。
まさに双方に利益のある取引だった。
そして今後の協力体制についてだが――
当面、魔王国は表立って戦争には介入しない。
理由は単純だ。
魔王国と帝国が同盟を結んだ事実が周辺国へ知れ渡れば、余計な火種を生みかねないからである。
特にツヴァイス神聖国。
あの国は魔族絡みとなると異常なほど敏感らしく、何か理由を見つけては介入してくる可能性が高いらしい。
そのため俺達は最後の切り札。
いわば最終防衛戦力として待機することになったのだった。
――そして。
全ての公務を終えた俺は現在。
盛大に暇だった。
「暇だなぁ……」
広い客室のソファに寝転がりながら呟く。
やることが無い。
本当に無い。
俺だけなら読書でも研究でもして時間を潰せるが――
問題はこいつらだ。
「ご主人様ぁ~、暇ぁ~」
「俺、暇」
ほら来た。
予想通りだった。
ハクとヒメルが完全に暇を持て余している。
このまま放置すれば絶対に碌なことにならない。
俺は天井を見上げながら考えた。
そして。
ふと思い付いたように口を開く。
「ちょっと戦場でも見に行くか」
まるで散歩にでも行くかのような気軽さだった。
しかし俺なりに理由はある。
戦とは生き物である。
前世で読んだ兵法書にそんな言葉があった気がする。
会議資料だけでは分からないことも多い。
実際の戦場を見ておく価値はあるだろう。
すると。
「俺、戦う!」
「私も戦う~!」
案の定である。
二人の目が一瞬で輝いた。
どうやら既に限界だったらしい。
危険極まりない。
「戦わないからな?」
「えー」
「見に行くだけ」
「むぅ」
「絶対だからな?」
「わかったぁ~」
「我慢する……」
不満そうではあるが、一応納得はしてくれたようだ。
よし。
これで安心――
……いや。
待てよ?
戦っちゃいけない理由って何だった?
俺達の存在を敵に知られるのがまずいからだ。
つまり。
敵に知られなければ問題ない。
「……あ」
「?」
「どうしたの~?」
二人が首を傾げる。
俺は顎に手を当てながらニヤリと笑った。
気付かれてはいけない。
ならば――
気付かれなければいい。
「ただ見に行くだけじゃ勿体ないな」
「?」
「ちょうど試したい物もあるし」
そう呟きながら立ち上がる。
まだ完成したばかりの新兵器。
実戦投入はしていない。
性能試験にはちょうど良いかもしれない。
「よし、行くぞ」
「わーい!」
「戦場!」
嬉しそうにはしゃぐ二人を連れ、俺は帝国軍の戦線へ向かうのだった。
⸻
ジューダス帝国とアストリア王国の国境地帯。
山々に挟まれた広大な平原では、今日も両軍による激戦が続いていた。
金属のぶつかり合う音。
兵士達の怒号。
魔法の炸裂音。
そして――
ゴーレムの重々しい足音。
『囲めぇぇぇ!!』
帝国軍の小隊長が声を張り上げる。
数十人の騎士達が兵士型ゴーレムへ一斉に襲い掛かった。
しかし――
ガギィン!!
剣が弾かれる。
騎士の一人が吹き飛ばされた。
『ぐあああぁぁっ!!』
『治癒班!!治癒班を寄越せ!!』
『くそっ!また一人やられたぞ!』
騎士達の顔には疲労が色濃く滲んでいた。
戦いが始まってから既に数時間。
押し返しても押し返しても、王国軍はゴーレムを投入してくる。
一方の帝国軍は人だ。
疲れるし、怪我もする。
死ぬこともある。
戦いが長引くほど不利になる。
それは誰の目にも明らかだった。
そんな戦場を見下ろす山の上。
『うーん……』
ライトは腕を組んだ。
望遠魔法で戦場を観察しながら小さく呟く。
『やっぱりキツそうだな』
想像以上だった。
会議で聞いた話以上に厳しい。
騎士達は勇敢だった。
強くもあった。
だが相手が悪い。
ゴーレムは痛みを知らない。
疲れもしない。
恐怖も感じない。
人間相手なら有効な戦い方が通用しないのだ。
『ご主人様?』
『どうしたの~?』
ハクとヒメルが首を傾げる。
ライトは苦笑した。
『少しだけ手を貸そうかなと思ってさ』
そう言いながらアイテムBOXへ手を伸ばす。
次の瞬間。
ドンッ――
地面に巨大な銃が現れた。
長大な銃身。
大型弾倉。
鈍く輝く黒い金属。
それはまるで戦争そのものを形にしたような兵器だった。
『おおぉぉぉ!!』
『なにこれぇぇぇ!!』
二人の目が輝く。
ライトはニヤリと笑った。
『対ゴーレム用狙撃兵器――【バレット】だ』
伏射姿勢。
呼吸を整える。
望遠魔法をスコープ代わりに展開。
照準の先には兵士型ゴーレム。
距離約二キロ。
普通なら狙撃不可能な距離。
だが――
ライトは迷わない。
風向き。
弾道。
魔力の流れ。
全てを計算する。
そして。
引き金を引いた。
ドォォォォンッ!!
凄まじい轟音。
数秒後。
戦場の中央で、ゴーレムの頭部が爆散した。
『なっ!?』
『ゴーレムが!?』
『なにがおこった!?』
帝国軍の騎士達が騒然となる。
王国軍も混乱していた。
誰も原因が分からない。
ただ突然。
ゴーレムが破壊されたのだ。
山の上では。
『よし、命中』
ライトが満足そうに頷く。
その隣では。
『すごぉぉぉい!!』
『俺もやる!!』
完全に目を輝かせる二人。
嫌な予感しかしなかった。
『いや待て待て待て』
『まず使い方を――』
ドォォォォン!!
『当たったぁぁぁ!!』
ドォォォォン!!
『俺も倒した』
『…………』
ライトは黙った。
二キロ先のゴーレムが二体。
綺麗に頭を吹き飛ばされている。
しかも一発。
初見で。
説明途中で。
『お前ら本当に何なの……』
魔族の才能が恐ろしい。
改めてそう思うライトだった。




