第51話 魔王VS聖魔王
死を覚悟した四人を救ったのは、修行を終え戻って来たライトだった。
ライトは魔竜王デッカーの背に乗り、修行を終えるなり急いで戦場に急行してきたのだ。
『ライト様…』
『助かっただーよ…』
『クゥ~ン…』
『グワァ…ご主人様…』
四人は魔竜王の背に乗るライトを見上げ、意識を手放しそうになりながらも精一杯の声をあげる。
『デッカーさん、みんなを安全な場所に運んで頂けますか?』
傷ついた仲間を運んで欲しいと魔竜王に頼むライト。
この場にいては巻んでしまう…そう思っての願いだった。
魔竜王の背から降り、空中にふわりと浮き立つライト。
最高速度はデッカーやヒメルには及ばないが、己の力で飛行する魔力コントロールはすでに身に付けていた。
『ライト、お前一人で大丈夫か?相手はそこそこやるみてぇだぞ』
『大丈夫、やりますよ!…みんなをこんな風にしてくれたお返しをしなきゃいけないので…俺は怒ってるんです』
『フッ、そうか…今のお前にはいらぬ心配だったな…じゃあ俺はコイツらを後方へと運んでくるとするか。せっかくの楽しみをお前に譲ってやるんだ…しっかりとぶちのめしてやれよ』
『はい…ぶん殴って正気に戻したら、今度遊びに連れて行きますよ』
ライトの言葉に、フッと鼻で笑いその場を後にする魔竜王デッカー。
魔竜王は、特殊個体が発する魔力から正体が魔王ガルスだという事に気が付いていた。
それはライトも同様で、特殊個体がアビスフレアを放っていたこともあり、その正体はガルスで間違いないと考えていたのだ。
それは想定していた中でも最悪のシナリオだった。
魔王ガルスが生きたまま捕らわれたと聞いた時には希望もあった。救い出せれば問題はないと…
しかし、前回の侵攻時に戦線投入されたゴーレム達…その正体が勇者アレン達だったのではないかと聞いた時に悪い予感がした。
もしかしたら生体兵器として利用されるかもしれない…そんな考えが頭をよぎったのだ。
それが今、目の前で実際に起きている訳だ。
最悪だ…
中にいるガルスは無事なのか?無力化すれば救い出せるのか?どこまですれば無力化できるのか?そんな考えが頭の中をグルグルとまわるが結論など出るはずもない。
『とにかくぶっ飛ばして無力化する…はなしはそれからだ』
倒れ伏していた皆を掴んで飛び立つ魔竜王デッカーを横目で見ながら、ライトは自身の愛刀である漆輝に手を置き、居合抜きの形で構える。
その構えに反応してか、未だ白と黒の炎に焼かれ、ドロドロとその装甲を溶かしている特殊個体は、そんなこともお構いなしと自身の周りに無数の魔法陣を展開する…
そして、そこから特殊個体が魔法を放ったことが合図となり戦闘が開始された。
魔法陣から放たれ、迫りくる無数の炎の渦…しかしライトは慌てない。
一旦、静かに目を閉じ、そこから半眼とする。そこに先ほどまでの怒りはまるで感じない…無そのものといった雰囲気を醸し出す。
『白夜黒閃』
次の瞬間、その言葉と共にライトは一筋の閃光となり、無数の炎の渦を切り裂きながら、一直線に黒い特殊個体に迫る。
黒い特殊個体はすぐさま魔力障壁の構築を完了させる。
しかし…
『遅い…』
特殊個体の後方で静かに呟くライト…
その言葉が示す通り、すでにライトの漆輝は特殊個体の体を捉え、振り抜かれていた。
魔力障壁の内側でバチバチと火花を散らせながら、真黒の身体に大きな切り傷が広がる特殊個体。
それでもなお、自身の掌に小さな魔法陣を展開し、そこから黒い炎の剣を作り出した特殊個体はライトに接近戦を仕掛けようと迫る。
大きく炎の剣を振りかぶりながらライトに迫る特殊個体。
その背にはライトに見えぬように自身の背中で隠した魔法陣の数々が展開されている。
魔法で作られた剣であることから、切り結ぶことは出来ないと咄嗟に判断したライトは、その炎の剣を様々なステップを織り交ぜながら躱していく。
そして、ライトの死角から次々と放たれるドラゴンフレイム。
迫り来る炎竜の群れ…その一つ一つを空を飛びながら躱していくライト。
ライトを捉え損なった炎龍達はそこいらの地面へと吸い込まれるように着弾し、想像を絶する熱と衝撃で地形すらも変えてゆく。
その光景を見て、ハクたちを避難させていなかったらと考えるとゾッとすると思ったライトは背中に冷たい汗が落ちるのを感じる。
自身の攻撃が全て躱された黒い特殊個体は、胴体の傷からバチバチと火花を散らしながらもまだ攻撃を止める気配はない…
『こうなったらアレをやるしかないかぁ…出力は調整して手足を吹っ飛ばす位に抑えなきゃな…』
ライトは、そう独り事を口にすると手にした漆輝を正眼に構える。
すると、ライトの背後に無数の光の剣と闇の剣が何重にも及ぶ円を形取り顕現する…
『双極剣嵐』
その言葉と共に背後の無数の剣が黒い特殊個体へと一斉に放たれる。
放たれた剣は光のものと闇のもので混ざり合いながら、次々と黒い特殊個体の魔力障壁を貫いていく…
その剣に対してはじめは抵抗を見せていた特殊個体だったが、次々に襲いかかる刃に為す術なく右腕を奪われ、次に左足、右足、そして最後に左腕が火花を散らしながら後ろに大きく吹き飛んでゆく…
そして、剣の嵐が去った後には胴体のみが残った特殊個体が、体のあちらこちらから火花を散らし、力なくただ空中に浮いているのみだった。
次第に浮力を失い落下運動を始める特殊個体…
ズドォォォォンッ‥‥
地響きをあげ、地に堕ちたその姿からは魔王の威厳は無く、ただただ力なく横たわるのみであった。
『父ちゃん!!』
その特殊個体の残骸に駆け寄るライト。
幸い、技のコントロールによって、残った胴体に与えた損傷は最低限であるように見えた…
火花を散らせる胴体から露出しているクリスタル。
ライトが覗くと、そこには魔王ガルスの姿があった…
『父ちゃん…』
そのガルスの姿をみたライトは怒りが込み上げてくる…
その怒りに呼応するかのように顕現する光と闇のオーラ…
やがてそのオーラはライトの背に光の翼と闇の翼を一対ずつ形作る。
ライトが抑えきれない怒りの衝動から聖魔王となった瞬間であった。
魔王の救出が最優先…それは変わらない、しかしまだやらねばならない事がある。
魔王ガルスをこんな姿にした王国軍の殲滅である…
『かわいそうだけど、誰一人逃さない…ここで全員死んでもらう』
ただの八つ当たりかもしれない…ここで残った王国軍を殲滅しても本国には何の痛手にもならないかもしれない…それでもやらずにはいられなかった。
『父ちゃん、少しだけ待ってて…』
ライトはそう言うと、二対の翼を広げ、アストリア王国軍司令部の方角へ瞬間移動かのような速さで飛翔する…
そしてすぐに王国軍司令部の上空へと到着したライト。
『双極剣嵐』
今回は手加減の必要はない…先ほどの戦闘時の比ではない数の剣を顕現させ、地表にいる王国兵、そして王国軍司令部へとその刃を解き放つ。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・・
無慈悲に降り注ぐ剣の雨…王国兵は何が起きたのかも分からず、皆等しく剣に貫かれ絶命してゆく…
それは、司令部の中にいても同じことだ。
司令部の中にいたロイズ将軍と参謀のヴェクターも外の兵たちと同様に降り注ぐ剣の雨に晒され、叫ぶ暇もなくすでに命を失っている。
その後も剣の雨は降り続け、スペアとして用意されていた兵士型のゴーレム共々、そこに王国軍がいた痕跡を消すかのように攻撃は続いた。
暫くして剣の雨が止んだ頃には、眼下のアストリア王国軍司令部だったはずの場所は、その地形すらも姿を変え、余りの攻撃の激しさに躯の一片すらも残らない…そんな場所となっていた。
そんな生命の息吹が感じられない場所を一瞥し、ライトは無言で魔王ガルスの元へと戻るのだった…




