第49話 特殊個体の正体
カースブレイカーの呪いを受けながらも、華麗な刺突剣技でベイルと切り結ぶネイビーブルーの特殊個体。
しかし、剣戟を重ねる度、先程のベイルの斬撃によって受けた胸の亀裂が音を立てて広がってゆく。
それにより徐々に動きが鈍くなる特殊個体...
それでもなお、容赦無く魔剣スレイブで攻めたてるベイル。
『お主は強い、敬意に値する...しかし残念だが王国に与する者は滅するのみ』
強き者には敬意を払う...それがベイルの流儀。
しかし、相手は憎き王国のゴーレム...決して許すことはできない。
『魔剣奥義 深淵断罪』
魔剣スレイブの周りにオーラが集約されていく...
そのオーラにより魔剣スレイブは、黒く巨大なオーラブレードへと姿を変える。
そして天にも届きそうなそのオーラブレードをベイルは一気に振り下ろさんとする...その瞬間
『ま、待ってくれぇ!』
そこに到着する、シグルドとハインツ。
バシュッ!!
しかし、最早ベイルの断罪は止まらなかった...振り下ろされたオーラブレードは、シグルドの目の前でネイビーブルーの特殊個体を袈裟斬りに切って捨てたのだ。
『あ、あ、あぁぁぁぁぁ!』
両膝を地面につき、叫ぶシグルドの前でバチバチと火花を散らせながら倒れ込む特殊個体...
その特殊個体にとどめを刺そうとベイルは首元に魔剣を突き付ける...
せめてもの情け、苦しまぬよう一思いに送ってやる...そう思いベイルが腕に力を入れた瞬間...
『待ってくれ...頼む...』
ベイルの腕を掴むハインツ。
『其奴は敵だ、二度と我らに仇なすことのないよう討ち滅ぼさねばならん』
『頼む!俺達の...俺達の仲間かもしれないんだ!』
『・・・・・』
ハインツの必死の説得に長い沈黙の後、ゆっくりと魔剣を納めるベイル...
『すまない...』
ハインツはそんなベイルに対し、深々と頭を下げた...
そして、その間にふらふらと焦燥した様子で特殊個体の元へと近づいていくシグルド...
特殊個体の胸にはベイルの斬撃により大きく開かれた傷があり、その傷の奥に見えるクリスタル...シグルドは恐る恐る、そのクリスタルを覗き込む...
『ー!!』
シグルドが覗き込んだクリスタルの中には、婚約者のエレオノーラの姿があった...
『あ、あ、あ...エレオノーラ...何で...何でこんなところに...うぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
響く慟哭...シグルドはクリスタルに額を擦り付けながら嘆くしか出来なかった。
そこに、歩み寄るハインツ。
『シグルド、まだ救えるかもしれない...今は嘆いている場合じゃないだろ...』
シグルドの元に歩み寄ったハインツは、まだ一縷の望みがあると話す。
それはただの気休めかもしれない、しかし全く望みが無い訳ではないとハインツは思っていたのだ。
なぜなら、ハインツから見たクリスタルの中のエレオノーラには、まだ僅かながらも生気が感じられたからだ。
しかし、時間はなさそうだ...急がねばならない。
だが、肝心のエレオノーラはゴーレムの中...とてもでは無いが人族の自分達の力では、一人二人いたところで運ぶことは出来ない...ハインツは辺りを見渡す。
シグルドは絶望に打ちひしがれ泣き崩れている…この男の、こんな姿は長年相棒として一緒にいたハインツも見た事がなかった。
今のシグルドには難しい...騎士団の皆は王国軍と交戦中だ…どうしたらいい...
『誰か...誰か助けてくれ...』
ハインツがそう呟いた瞬間だった。
『このゴーレム、運ぶだでか?』
その声にハッとした表情で振り返るハインツ。
そこには、真っ赤な巨体のオーガエンペラーの姿があった。
その場面にそぐわない、間の抜けた声の主はホイズだったのだ。
思いがけない者からの申し出に、驚きのあまり固まるハインツ。
『??...運ぶんだすよね?』
固まるハインツに、首を傾げながら再度声をかけるホイズ...
そして、二度目のホイズの問いかけで固まっていたハインツの思考が動き出す...
『...い、いいのか?魔王国に仇なしたゴーレムを救うことになるかもしれないんだぞ...』
ハインツはアローラの話などから魔族達が王国、そしてゴーレムを憎んでいる事は理解していた。
それゆえに、此度見逃してくれたベイルには感謝してもしきれないとまで思っていたのだ。
しかし、今回は見逃すどころの話ではない、敵を助けるのと変わらない事をしようという話だ、この魔族はその事を理解しているのか?そんな考えから出た言葉だった。
『でも、仲間なんだすよね?助けたいんだすよね?』
『あ、あぁ...』
『じゃあ運ぶだーよ』
『….か、感謝する...』
敵だとかそんな事は関係ない...そんなホイズの言葉にハインツは心が震える思いだった。
ノシノシとゴーレムに近づいて行くホイズに、ハインツは小さく震えながら頭を下げた…その瞳に涙を浮かべながら…
その後ホイズは、大破したネイビーブルーの特殊個体を一人で軽々と持ち上げ、ドスンドスンと音をたてながら救護班の元へと運びはじめる。
そして、そのホイズの姿を少し離れた場所から見届けたベイルは、ハクとヒメルを伴い再び戦いへと戻って行くのだった。
暫くして特殊個体が運ばれた救護班では、シグルドとハインツが見守る中、エレオノーラの救命活動が開始されていた。
『シグルド!ハインツ!師匠が見つかったって本当なの!』
そこに、エレオノーラの発見を聞きつけたフィオレリアも駆けつけてくる。
『フィオレリア様、気を確かに持って下さい...エレオノーラ殿は確かに見つかりました...しかし、彼女は王国にゴーレムとして利用されていたようで...今は危険な状態です...』
悲痛な面持ちで真実を説明しはじめるハインツ。
『え...?それは...どういう事なの...?』
『詳しくはまだ分かりません...ですが、ゴーレムとなったエレオノーラ殿は魔王軍と交戦し...討ち取られました...今、魔王国の人達が必死にエレオノーラ殿を救う為に動いてくれてます...どうか、どうか今は皆さんを信じてお待ち下さい...』
『え、あ.....』
言葉を失い呆然とするフィオレリア...それもそのはずだ、フィオレリアはエレオノーラを以前から剣の師として仰いでいた...しかし、そんな尊敬する者が、数ヶ月前に婚約者のシグルドにも何も告げず、忽然と姿を消していたのだ...
もちろん、フィオレリアはあらゆる手を尽くし捜索を行ったが、結局手掛かりは掴めなかった...それが、今目の前にある、王国のゴーレムの中にいるというのだ。
『う、う、うぅぅ...』
処置の邪魔をしてはいけない...そんなハインツの言葉にフィオレリアは、ただただその場でしゃがみ込み涙を流すしか出来なかった。
そして、その間もエレオノーラへの救命行為は続く...まず処置を施す為には、機体から切り離さなければならなかった。
そこで救護班は、すぐさまシュプールをはじめとした開発局の面々にインカムで助けを求めたのだった…
『お待たせしました〜!開発局!ただいま参上しました〜』
救護班からの要請に、ホイズに負けず劣らずの緊迫感のない声をあげながら現れるシュプール。
戦闘はまだ続いており、シュプールが担当している機銃も本来であれば戦力としてまだ必要ではあった。
しかし、ここ数ヶ月の開発作業で、魔道具に対する知見を深めていたシュプールの力がこの場面ではどうしでも必要だったのだ。
『う〜ん...簡単には取り出せないようですね〜』
対象の特殊個体を覗き込み、その複雑な構造に対して感想を口にするシュプール...
『あ、でもとりあえずこれなら...』
『それは、こうしてみたらどうでしょう?』
『あぁ、そこをこうしたらいけるのでは?』
そして周りの開発局員と共に可能性を探り始める。
『よ〜し、それでいきましょう〜!それなら〜中の人もとりあえず助けられるし〜、ゴーレムも再利用できそうです〜!』
何やら話が纏まった様子のシュプールと開発局員達...その言葉からはゴーレムの再利用と言った気になるものも含まれていたが、とりあえずはエレオノーラを助ける事は出来そうだ。
シュプールの言葉を聞いて、安堵の表情を浮かべるハインツ...早速、処置の妨げになるかと遠ざけたフィオレリアとシグルドに喜びの報告をしようとしたその時だった...
ズガァァン!!ドゴォォ!!
未だ戦いが続く魔王軍前線の方向から激しい爆発と炎が巻き上がるのが見えたのだ...
『黒い炎...』
ハインツはその巻き上がる炎を見て呟いだ...
そう、魔王軍前線から巻き上がっている炎は黒い色をした炎だったのだ....




